ハッピーバースデー
単純と思われても仕方ないが、やはり心の繋がりだけではなく、身体も心も繋がるというのは…… お互いの愛情を確認するのには重要だと改めて思った。
「大樹くん……」
あれから楓も更に笑顔が増えて、しかもかなり距離が近くなってきた。
新婚の時でもこんなに甘えてきたかな? というくらいハグを求めてきたり、キスをしてきたりと…… 久しぶりに身体で繋がったのが楓に良い影響を与えたんだと思う。
『やっぱり『上書き』してもらえて安心したんでしょうねー、あはっ! あたしも大樹さんに上書きしてもらって、凄く幸せな気分になりましたから』
葉月はそんな事を言っていたが、女性ならではの感覚っていうのもあるのかな?
葉月も葉月で、俺がケガして以来一切そういう事をしていなかったせいか、久しぶりに繋がれて嬉しかったらしく、楓に負けじとハグやキスをしてくるようになった。
こんなの、一般の人に見られたら何を言われるか分からないな……
でも、色々間違えて悩み苦しみ続けるくらいだったら、どんな形でも俺達が幸せならそれでいい、という考えを持てるようになってからは、ただ『そう思う』というだけで、周りの目をあまり過剰に気にする事はなくなった。
「パパぁー! えへへっ、穂乃果の今日の服、可愛い?」
「おお、可愛いよ! 穂乃果はおしゃれさんだなぁー」
「えへへっ、そうでしょー」
さすがに穂乃果の前であからさまにイチャついたりはしないが、俺達三人が今までよりも仲が良さそうな姿を見て、一番喜んでいるのは穂乃果だった。
俺達が久しぶりに身体でも繋がってから少し経って、穂乃果が突然……
『穂乃果、今日はみんなで一緒に寝たーい! いいでしょー?』
と言い出した時には思わずドキッとしてしまった。
楓や葉月も同じように驚いたのか、アワアワしていたのが少し面白かったが、その日は穂乃果の部屋で家族みんなで眠る事にしたんだよな……
まあ、ベッドの上には穂乃果を真ん中に両サイドを楓と葉月、そして床に敷いた布団で俺が一人で寝るという、少し寂しい感じになってしまったけどな。
だけど朝方、何か温かいなぁ…… と思ったら、いつの間にか俺の布団に潜り込んでいた穂乃果が俺に抱き着いていて…… 寂しさが一瞬で吹っ飛ぶくらいの幸せな目覚めだったのをよく覚えている。
ちなみにベッドに残された楓と葉月だったが、まるで姉妹のようにピッタリと寄り添いながら寝ている姿を見て、本当に仲が良いな、とも思った。
しかし、穂乃果はなんで突然、みんなで一緒に寝ても大丈夫だと思ったんだろう?
俺達の様子をよく見ているからなのか、葉月がよく言う『女の勘』というやつなのか……
「パパも早くおでかけの準備しないとダメだよー?」
「ああ、そうだった、早くしないとな」
おっと、いけない…… 色々と最近の事を思い出していたら、いつの間にか時間に余裕がなくなってきた!
「ふふっ、ちょっと……」
「あはっ、いいじゃないですかー」
……出かける準備をするために一緒に着替えているだけだよね?
自分の部屋に行くために楓の部屋の前を通ったら、何やら楽しそうで怪しげな声が聞こえてきた。
三人で心と身体で繋がった後、俺達の関係は更に良くなったのは嬉しいのだが、それにしても楓と葉月がやたらと仲が良い気がするんだよ…… 少し気になる。
「んっ…… ふふっ…… 葉月ちゃん、今日のメイク、とても可愛いね……」
「楓さんも…… んっ…… あはっ、今日の服、とても似合ってます」
覗いてはいけない…… けど気になるぅー!
「やっ…… くすぐったいですよ…… んっ?」
「そういう葉月ちゃんだってさっきから…… んっ?」
「あっ……」
「「大樹くん(さん)!?」」
バ、バレた!! 逃げないと……
しかしまさか…… お互いの髪のセットをしながら…… 時々ハグをして、最後には軽くキスしていた! こんな姿を見てしまったなんて…… 何でそんな事をしているのか、聞けないよ!!
…………
…………
その後、俺の部屋まで追うようにやってきた葉月と、その後ろに恥ずかしそうに隠れながらやってきた楓に、覗きはいけないと怒られつつ…… 仲間外れにしてごめんなさいと二人にキスをされた。
その後、俺達はみんなで車に乗り、途中で俺の実家に寄って母さんを乗せて…… 葉月の両親がやっている喫茶店へと向かった。
俺達が喫茶店に到着すると、すぐに楓のお父さんの車も店の前に停まり、そしてみんなで……
…………
『穂乃果ちゃん、誕生日おめでとう!!』
「ふぅー! ……えへへっ! ありがとー!」
俺、楓、葉月の家族が喫茶店『フォーリア』に集まり、穂乃果の誕生日パーティーを開催した。
葉月の両親が用意した大きなケーキには七本のローソクが立てられ、みんなにお祝いされながら、穂乃果は勢い良く息を吹きかけローソクの火を消した。
「穂乃果ちゃん、七歳の誕生日おめでとう! これ、おじいちゃんとおばあちゃんからのプレゼントだよ」
「わぁぁ! ありがとー!」
「これはばぁばからのプレゼント」
「ばぁばもありがとー!」
「これはおじちゃんとおばちゃんからだよ」
「わーい! ありがとー!」
みんなからたくさんのプレゼントをもらい、穂乃果は大はしゃぎしている。
そんな穂乃果の嬉しそうな姿を、葉月は笑顔で、楓は少し涙ぐみながら見ていた。
『パパぁ…… ママは? ママはどこ?』
急に俺と二人きりで生活することになり、不安そうに毎日泣いていた穂乃果。
『ママぁー! ぐすっ、お仕事頑張ってね……』
離婚後初めて面会をし、一年半ぶりに楓と再会して、でも涙を堪えていた穂乃果。
『葉月ちゃん! 穂乃果に服を選んでー』
そして初めて葉月と出会い、まるでお姉ちゃんが出来たかのようにいきなり懐いていたな……
『パパ、ママと葉月ちゃんにもお手伝いしてもらえるって!』
俺がケガをした時、楓と葉月に積極的に俺の世話を手助けして欲しいと『お願い』して
『パパ! みんな一緒じゃないとダメなのー!!』
俺達がバラバラにならないようにと、必死に繋ぎ止めてくれた。
寂しい思いをさせ、それでも情けなかった俺の背中を押し、そばで支えてくれた穂乃果がいなければ…… 間違いなく俺達の縁は切れていた。
そして今、その穂乃果がみんなの中心で満面の笑みを浮かべている。
「ふふっ…… ぐすっ、はい、大樹くん…… ハンカチ」
「……っ、ありがとう、楓……」
「あはっ…… 大樹さん、幸せですね……」
「うん…… 本当に…… 幸せだよ……」
あの頃には想像も出来なかった幸せな光景を目の前にして、俺は嬉しさのあまり…… 涙が止まらなかった。
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