みんなでもっと幸せになるためには 《葉月》
◇
『みんな幸せになる』
とは言ったものの…… 今、こうしてみんなで羽比町で暮らし始めて、周りを気にする事もなく、怯えずにゆっくりと傷付いた心を癒せるだけで幸せなんだけど…… 何をすればいいんだろう?
「葉月ちゃん、穂乃果が背中を洗ってあげるー」
「あはっ、ありがと、じゃあよろしくねー」
良い距離感だし、穂乃果ちゃんが中心にいるおかげでみんな笑顔で生活できている。
「ママはぺったんこだけど、葉月ちゃんはぷにぷにー、すごーい!」
「やん! あはっ、穂乃果ちゃんはいっつも触ってくるんだからー」
「だってぷにぷにで気持ちいいんだもーん、えへへっ」
穂乃果ちゃんったらぁ…… でも、ママにぺったんこって言ったらダメだよ? 気にしてるかもしれないし。
一緒にお風呂に入っていれば、いつもぷにぷにとあたしの胸を触ってくる。
……そういえば大樹さんもよく触りたがってたなぁ、やっぱり親子だから似てるのかな?
「んしょ、んしょ…… 葉月ちゃんはママより洗いやすいね!」
あはっ、あたしはちんちくりんだからねぇ…… 楓さんは背も高くてスラッとして足も長いから…… モデルさんみたいで羨ましい。
あたしがギャルっぽい服装をしても、見方によっては子供が背伸びして大人っぽい格好をしているように見えちゃうし、楓さんぐらいスタイル良かったら多分あたしの服装も変わっていたと思う。
ジーンズを穿くにしてもあたしと違って足が綺麗に見えるし羨ましい…… あたしは太ももも太いから、全体的にムチムチしてるように見えちゃうんだよね。
「葉月ちゃん、お風呂入ろーよ!」
「うん、そうだねー」
「わぁー、今日もぷかぷかしてるー! すごーい!」
あははっ、そんなに見つめられたらさすがに恥ずかしいよー。
…………
「草薙くんがまた遊びに来たいって言ってるんだけどいいかな? 『この辺で新居を探したいっす! ついでに木下さんちにも行きたいっす』だってさ、ついでにって何だよって思ったけど、柑奈さんも一緒に来るって言うから、まだ返事はしてないんだけどな」
「ふふふっ、良いんじゃない? そっかぁ…… もう結婚するって言ってたもんね」
「そうなんだよ、まさかこんなに早く結婚が決まるとはなぁ……」
あっ、二人が柑奈さんの話をしてる!
柑奈さんもようやく踏ん切りがついたみたいだしね。
草薙さんの両親からはかなり気に入られているみたいで『息子には柑奈さんが必要だ、だからぜひこれからも尻に敷いてくれ!』って頭を下げられた、なんて話をしてたよなぁ。
「くーくんと柑奈ちゃんが遊びに来るのー? いつ来るのー?」
あはっ、穂乃果ちゃん、『くーくん』って柑奈さんが呼んでいるのを真似をしてる。
確か、
とにかくかなりの頻度で連絡が来て、愚痴という名の惚気を聞かされているから、近況は良く知っているんだけど…… 柑奈さん達も本当にラブラブで幸せそうだからあたし達も笑顔になる。
結婚したら子作りも考えているし、子育てするならあたし達の住む地域が良いって言っていたから、近いうちに柑奈さん達ともご近所さんになりそう。
「おっ、穂乃果、ちゃんと髪を乾かさないと風邪引くぞ?」
「うん! ママー、やってー?」
「ふふっ、じゃあドライヤー持ってきて?」
「はーい!」
「葉月ちゃんも乾かしてあげようか? ふふふっ」
「じゃあお願いしちゃってもいいですかー?」
あはっ、楓さんも出会った時より明るくなってきたし、こんな冗談を言ってくれるようにもなってきたから…… 自分の事のように嬉しいな。
…………
はぁぁ…… だけど、寝室が別っていうのが唯一の寂しく感じるとこだよねー。
穂乃果ちゃんは大樹さんの寝室で寝ているから、今日は一人。
ベッドも誰が穂乃果ちゃんと寝てもいいように各部屋セミダブルにしたから、一人で寝ると余計に寂しく感じちゃう。
大樹さん…… 大樹さん……
…………
はぁぁ…… 大樹さん。
一人で慰めるのも寂しいな。
でも…… 仕方ないよね。
仕方ないの……
ところでこういう時、楓さんはどうしてるのかな? 大丈夫かな?
あたしは大樹さんに優しくしてもらって、幸せな記憶が残っているけど、楓さんは……
あたしも大樹さんと出会う前はそういう事に嫌悪感があったから…… そんな気持ちを抱えたままじゃないかと心配。
大樹さんも前よりは柔軟な考え方を出来るようになってきたというか、吹っ切れたみたいだけど、そういう事に関してはまだ……
はぁぁ…… 幸せだけど、もっと幸せになるためには…… あたしはそういう所も乗り越える必要があると思っている。
でも…… それは大樹さんと楓さんの気持ち次第だし、まず穂乃果ちゃんがいるからね…… 余計に気を遣う必要があるよね。
うーん…… スッキリしたはずなのにモヤモヤ……
考えるのもういいや、今日は寝よ……
…………
…………
「ふふっ、お父さん、じゃあ穂乃果をよろしくね」
「ああ…… 穂乃果ちゃん、今日はじいちゃんとばあちゃんと一緒に、遊園地とポゥさんショップに行こうか」
「わーい! やったぁー! えへへっ」
「みんな行ってらっしゃい、気をつけてね!」
「ママ、葉月ちゃん、いってきまーす」
そうだ、今日は楓さんのご両親が穂乃果ちゃんを連れてお出かけする日だった。
大樹さんはお仕事に行ってるし、楓さんはお休みだから二人きりか。
まあ、今日は楓さんとのんびりしてよーっと。
「ふふっ、お父さんったら、本当に穂乃果が大好きなんだから」
「孫は特別可愛いって言いますしねー」
ほんと、目に入れても痛くないってこの事を言うのかっていうくらい、穂乃果ちゃんにデレデレだもんね、あはっ。
「じゃあ私達はのんびりお茶でも飲んで過ごそっか」
「そーですねー」
そして、ご近所さんと会った時の話をしたり、穂乃果ちゃんの小学校での話をしたりと、まったり過ごしているうちに…… あたしは話を切り出した。
「ところで…… 楓さんはムラムラしたりしないんですか?」
「ぶふっ! は、葉月ちゃん!? いきなりなんて質問をして……」
「あたしはたまーに一人でしてますけど、楓さんはどうなのかなー? って、ふと思ったんですよ」
まあ、何となーく答えは分かるんだけど…… 『そういう事は…… しないかな?』ですよね?
「私は…… そういう事は…… しないかな?」
あはっ、やっぱりぃ! 何で楓さんの事が分かっちゃうのかな? ……って、あたし達が似ているからなんだけどね!
理由は…… 恐いから。
そして…… 自分はそういう事をしてはいけないと思っているから、ですよね? 言わなくても分かりますよ。
「でも…… 今が幸せだし、そういう事は別になくても私は大丈夫かな、ふふふっ」
だけど人間ですから少なからず欲はあるはず…… それを無理矢理抑え込んでいるんじゃないですか?
あぁ、あたしがこんな話題を切り出したせいで、楓さんの表情が暗くなっちゃった……
やっぱり寂しいですよね…… 愛している人がそばにいて、本当は優しく抱き締めて欲しいのに…… 自分の気持ちを正直に言えなくなっちゃったんだな。
あたしは接客業をして、色々あって、大人のお店でも働いて、世の中様々な人達がいるっていうのを知る事が出来たから、別物として切り離して考える事が出来るようになったけど、大樹さんと楓さんは真面目だからなぁ……
大樹さんも出会った頃よりも柔軟な考えが出来るように成長して、前よりも頼もしい存在になってきたから…… 寂しいなら寂しいって言っても大丈夫だと思うんだけどなぁ……
大樹さんにも今の楓さんの話を聞かせてあげたい…… そうしたら…… もうそろそろお仕事終わるかな?
……あはっ、良い事を思い付いた!
「楓さん大丈夫ですよ…… 今の大樹さんなら、楓さんを受け入れて抱き締めてくれます、だから……」
「わ、私はダメだよ…… 汚れちゃったし……」
もう! 仕方ないですねぇ……
「大丈夫です…… あたしが……」
そしてあたしは……
楓さんをソファーにそっと押し倒し、少し驚いた顔をしている楓さんの唇にキスをした。
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