両親との再会 《葉月》

 ◇



 大樹さんと二人きりでデート、そうだと思ってウキウキして出かけたら…… 大樹さんが連れて来てくれた喫茶店にはあたしの両親がいた。


 何でここに両親がいるのかと、一瞬頭の中がパニックになったが…… 先日、楓さんと楓さんの両親を仲直り出来るようにと、大樹さんが手を尽くしていた姿を見ていたからすぐに分かった。


 大樹さんは楓さんだけじゃなく、あたしのためにも色々動いてくれていたんだ。


 あたしが迷惑をかけたせいで村八分にされ、引っ越しせざるを得ない状況にしてしまった事をずっと悔やんでいた。

 だけど両親に絶縁され、もうすべてがどうでも良くなっていたあたしは、ただ『生きている』だけで両親に対して何もする事はなく、探す事すら諦めていた。

 どうせすぐにあたしはこの世からいなくなるはずだったし、これ以上両親に余計な迷惑はかけられないと思っていたから。


 だけど大樹さん達に出会い、癒され、まだ生きていたいなと思えるようになって、そして色々あって今の、普通ではないけれど幸せになれそうな生活が始まってからは、再び両親の事が頭の中でちらついていた。

 だから大樹さんが両親を探し出してくれた事に感謝している。


 しかも再会したとしても激怒されるか、無視されるか、どちらにしても『娘』として扱われる事はもうないと思っていたのに、こうして温かく迎えてくれるなんて……


「葉月が来るって聞いていたから何か作ってあげたいと思っていたんだけどね…… 色々考えたけど、家でしか食べられない物で葉月が好きな料理っていったら『うま煮』しか思い付かなくて…… とりあえず作っておいたんだけど、食べるかい?」


「うん…… 食べたい」


 お母さんの作ったうま煮……

 あたしの家のうま煮は入っている具材は里芋とかレンコンなど普通の家庭の物と同じ物ばかりだけど、少しだけ味付けが違うんだよね…… 多分すりおろしにんにくを入れているからだと思う。

 だから一般的なうま煮を食べても何か違うと感じてしまうんだよね。

 

「はい、どうぞ…… 良かったら大樹さんも一口食べてみてね」


「ありがとうございます、いただきます」


 ああ、大樹さんにあたしの家の味の料理を食べてもらうなんて…… 少しドキドキしちゃう。


 じゃああたしも…… いただきます。


 っ! うん…… 懐かしい…… 小さな頃からずっと食べていた、お母さんの味だ……


「うぅっ…… ぐすっ…… おいしい…… おいしいよ、お母さん……」


「あははっ、良かった…… 大樹さんはどうだい? 口に合えば良いけど」


「いや、凄く美味しいですよ、にんにくのおかげ味が締まるというか、よりコクが出て美味しいです!」


「そうでしょ? 変わっているけどこれが小林家の味なのよね」


「母さん、せっかく来てもらったのにうま煮だけじゃかわいそうだろ、大樹さん、トマトソースのパスタも食べるかい? とれたて新鮮なトマトを使っているから美味しいんだよ」


 そして、お父さんやお母さんが、あれこれとおもてなししてくれて、お腹いっぱいになるまであたし達にご飯を食べさせてくれた。



 …………



「あの時は本当にごめんなさい」


「いいのよ、お母さん達もごめんなさい…… 葉月の悪い噂を、親である私達も真に受けてしまったんだからね、でも少ししてから風太くんのその後様子がおかしい事に気付いてね…… 確認のためにもう一度葉月に連絡してみようと思ったら『この番号は現在使われておりません』って…… それ以来、私達も葉月に連絡しづらくて、探す事もしないでごめんなさい、大樹さんが私達を探し出して説明してくれなかったら、一生会う事が出来なかったわ……」


「ううん、仕方ないよ…… って、大樹さん?」


「ええ、大樹さんと…… その後にヴァーミリオンの元店長の古江さん、あと親会社の鬼島さんって人が来て、私達に直接謝罪しに来たわ……」


 亜梨沙さんと鬼島社長が?

 ああ、そっか…… 大樹さんの依頼していた探偵さんって、鬼島グループと繋がりがあるんだっけ…… 


「そっか…… それで? 風太く…… じゃなくて上木うえきさんの様子がおかしいって、何かあったの?」


 あたしの不貞行為を目撃して暴言を吐いていなくなった…… それはあたしが悪いから仕方ないけど、村中に広めて両親を村から追い出すなんて酷い…… と、自分のした事を棚に上げたわけではないが思っていたんだけど、一体あの後どうなったんだろう? 


「葉月、近所に住んでいた美知子みちこちゃんって覚えてる? 実はね、葉月の悪い噂が流れて、美知子ちゃんが風太くんの子供を事が分かったの、それで上木家は葉月の噂どころじゃない大騒ぎになったのよ」


 えっ…… 妊娠? すぐ? しかも相手が…… あの美知子ちゃん?


 あたしや上木さんとは同学年で、可愛い子だけど…… ちょっと女の子の間では色々と噂になっていた子だ。


 村の若いの男の子や、独身のおじさん達ともになった事があるという…… が好きな女の子だって……


 妊娠していたって事は…… あたしに絶縁する勢いで暴言を吐いた時には既に二人は……


「大樹さんの前でこんな話をするのは申し訳ないけど、一応葉月と婚約していた訳ではないけど、周りの大人達の雰囲気から、それに似た関係だというのは村のみんなが知っていたから、タイミングが良すぎ…… いや、悪すぎて『葉月と別れるために風太くんが嘘をついているんじゃないか?』って、新たな噂が流れ始めたのよね……」


 でも…… あたしが夢のために遠距離恋愛を選んだせいで寂しくなって…… という可能性もあるから、上木さんだけを責めるわけには……


「そしたらね、実は葉月が村にいる間から二人は関係があったような噂も聞こえてきてね、『村外れの物置小屋に二人でこそこそ入っていく姿を見た』だの『畑仕事中に二人がいなかった時があった』だの、後から色々と話が出てきて…… その噂を耳にした風太くんの本家の当主さんが激怒して、風太くんの家も色々大変だった


 いや、噂だから本当の話かは分からない、けど『妊娠していた』のは事実……


「それで葉月を散々悪者扱いして色々言ってきた村の人が、手の平を返して何事もなかったように接してくるから、お母さん達はそれで更にあの村が嫌になっちゃってね…… だからさっさと引っ越そうと思って、予定より早いけど喫茶店を始めることにしたの、だから…… 風太くんに関しては、葉月がこれ以上気に病む必要はないと思うわ」


 そっか…… あはっ…… そっかぁ……


 ショックを全く受けなかったわけではないが、別にもう気にしなくていいんだと思ったら、少し気分が楽になった。


 それに……


 あたしが辛くなっても大丈夫なように、隣に座り優しく手を握ってくれている大樹さんがあたしにはもういるから……


「大樹さん、変な話を聞かせてすいませんでした……」


「逆に俺が聞いていい話なのか分からなくて、すぐに席を外せずに最後まで聞いちゃってごめん……」


「いえ…… 大樹さんが隣にいてくれて良かったです!」


 これで完全に未練というか後悔はなくなった。

 だから今まで以上に真っ直ぐ、大樹さんや穂乃果ちゃん、そして楓さんと幸せになるために前を向ける。


「本当に…… 今日はありがとうございます大樹さん、あはっ!」


「いや、これくらいしか俺には出来ないけど、みんなで幸せになるためなら俺に出来る事は何でもやるつもりだから」


 あはっ、出会った頃とはまるで別人ですね…… いや、楓さんが何も言わずに嬉しそうにしている様子からして…… これが本来の大樹さんの姿、なのかな?

 大切な人や家族のために真っ直ぐ全力で愛情を注いでくれて、行動力もある…… 


 ちょっぴり真っ直ぐ過ぎて視野が狭くなっちゃう時があるけど、それを楓さんがカバーして…… だから二人は上手くやれていたんだろうな。


 ……今度からはあたしも大樹さんや楓さんをカバーしますからね! そして穂乃果ちゃんとみんなでもっともっと幸せにならなきゃいけないんです。


 今までの辛い出来事が薄れてしまうくらい、もっともっと……


「葉月さんのお父さん、お母さん、今日は会っていただきありがとうございました、今度は家族も連れて食事をしに来ますね、あと良ければ家に遊びに来て下さい」


「いいや、こちらこそ葉月と再会させてくれてありがとう、ぜひみんなで店に来て欲しい、事前に連絡をくれたらまた貸し切りにするからさ」


「大樹さん、本当にありがとうね…… 葉月、これお父さんとお母さんの連絡先…… 何かあってもなくても、気軽に連絡してね? 親子なんだから…… 」


「お母さん…… うん、ありがとう…… また遊びに来るからね」


 まだまだお互いに話し足りないけど、とりあえず今日は店を後にしてお別れすることにした。


 これからはすぐに会おうと思えば会えるから大丈夫。

 こんな日が来るなんて、あの頃は想像も出来なかった。

 これもすべて大樹さん達のおかげ。


 ありがとう大樹さん…… あたしを、みんなを愛してくれて……


 あたしも精一杯恩返ししますから、大樹さんももっともーっと幸せになって下さいね!

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