幸せな未来を手に入れるために 4

 まずは三人で話してもらおうと、楓と楓の両親が再会する場を作るために、葉月と穂乃果には少しだけ外出してもらった。


 俺は家に残って、もしも楓の精神状態が悪くなってしまった時のために自分の部屋で待機していることにしたのだが……


 何故かあっという間に話が終わり、楓と楓の両親の仲直りすることになった。


 そして葉月達を呼び戻し…… 今度は久しぶりに穂乃果と再会して、楓の両親…… 特にお義父さんが喜んでいた。


「おじいちゃーん、えへへーっ」


「穂乃果ちゃん、大きくなったねぇー、はははっ、小学校は楽しいかい?」


「うん! あのね、ここに引っ越してきて、お友達がいっぱいできたんだよー」


「おお、それは良かったねぇー」


 穂乃果も久しぶりのおじいちゃんおばあちゃんとの再会でテンションが上がったのか、お義父さんの膝の上に座って、学校の事などあれこれしゃべっている。


「お父さんったら、あんなデレデレした顔をしちゃって…… 大樹くん、今日はありがとうね」


「いえ、こちらこそ来ていただきありがとうございます…… それでこちらが俺達と同居している……」


「初めまして、小林葉月です」


「ああ、あなたが…… 大樹くんのお母さんから色々聞いているわ、楓と大樹くんの復縁を手助けしてくれたとか、楓がいない間、大樹くんや穂乃果ちゃんの心のケアをしてくれたとか…… あなたがいなければ楓は救われなかったとも言っていたわ」


「そ、そんな! あたしは特に何も…… むしろあたしの方が三人に救われたんですから!」


「いいえ、あなたがいなければ、私達もこうして楓と直接再会出来なかったし…… ふふっ、あんな嬉しそうなお父さんの顔をまた見られなかったわ……」


 穂乃果を膝の上に乗せたお義父さんの顔…… 目尻が下がるくらい満面の笑みを浮かべている。

 穂乃果が産まれた時も泣くぐらい喜んでくれたし、それからも毎週のように家に穂乃果の様子見に来てくれたもんな。


 穂乃果が三歳くらいになるとあちこち遊びに連れて行ったり、誕生日やクリスマスになればもの凄い数のプレゼントを買って来たりと…… 穂乃果を本当に可愛がってくれていたから、二年間も孫の成長を見せてあげられなかったのは本当に申し訳なく思う。


 ただ…… 母さんが裏で俺達の近況を色々伝えたり、悪者になってしまっていた楓のフォローを楓の両親にもしてくれていたみたいだ。

 だからこうしてこの家の状態を見ても責められるような事を言われずに済んでいるんだと思う。


 裏ではそんな事をしながらも、母さんが二年近くも俺達に直接口出しせずに我慢していたのは…… 多分『親に言われて』俺達が復縁するのは良くないと思ったんだろう。

 だから自分達で向き合えと、一歩引いた所から俺達を見守っていたんだ。


 そう考えると、今になって母さんがどれだけ俺達を心配していたのかが分かった。

 だから俺がケガをした時にあんなに『ウジウジするな、情けない』と怒って、この機会を逃したら俺達は一生話し合いをしないと思って、葉月を巻き込んでまでも向き合わせようとしていたんだ。


 もしかしたら俺が楓に言われるまで気が付かなかった『真実』に、母さんは薄々感が付いていたのかも…… そして、似たような過去を持つ葉月の事に何かを感じていたんだろうな。


 今でも母さんは楓はもちろん、葉月も『自分の娘』のように接して、下手したら息子の俺よりも可愛がっているからな…… 


 やっぱりこれも『女の勘』ってやつなのかな?

 そしてお義母さんも…… 娘に何があったのか、薄々気が付いているのかもしれない。


 楓と再会したが『不倫をしてなかったのなら何故黙っていたのか』と、お義父さんもだが、一切質問してはいなかった。


 ただ謝った楓に対して『私達も一方的に楓を責めてごめんなさい』としか言わなかったから…… 離婚当時の楓の様子や、母さんから聞いた俺達の様子などを照らし合わせて気が付いたのかな?


 何にせよ、楓と両親の関係は修復出来そうで良かった。


「葉月ちゃんはねー、穂乃果のお姉ちゃんみたいなの! たまにママっぽいけどね、えへへっ」


「…………そうかそうか! 穂乃果ちゃんと葉月さんは仲良しって事なんだね」


「うん! だからずっと一緒にいてくれるんだって!」


 穂乃果が葉月の事をお義父さんに一生懸命説明している…… その様子を見て、お義母さんは少し苦笑いしながら


「ここに来る前に花弥さんに言われたの、『今は何も言わずに見守ってあげて! きっとあの子達を見れば分かるから』って…… 楓も穂乃果ちゃんも葉月さんを信頼しているみたいだし、私達があれこれ言うのはやめておくわね…… でも一つだけ、穂乃果ちゃんを不幸にしたら私達は許さないわよ? 今のあなた達の様子を見る限り上手くはいっているようだけど…… 大樹くん、大変だけど大丈夫なの?」


「はい…… もちろん穂乃果を一番に考えた結果、俺達はこの形で生活する事を選びました」


 この家の中心にいるのは穂乃果なんだ。

 俺は穂乃果が笑顔で生活出来るように、今よりも幸せになってもらうために…… 家族が壊れないよう、世間にどう思われようが守ると決めたんだ。


 だけど、そのためには俺一人じゃ限界がある。

 その事でずっと悩んでいたが、鬼島会長、そして娘さんである社長さん、そして管理人さんを含む近所の人達と出会って思ったんだ。


 味方でいてくれる人がそばにいてくれるってだけでこんなに心強いのかと。


 だからこそ楓の両親と関係を修復して、味方になってくれる人を増やしたいと。

 味方が増えれば楓や葉月の心が安定するんじゃないかと、そう考えたんだ。


 だから俺が悪者になろうが、何としても楓と両親を仲直りさせようとしたんだが……


 結局、今回も母さんに助けられたわけで…… あとでちゃんとお礼の電話をしておこう。


「お父さん、お母さん、良かったら家でご飯食べていかない? いいよね、大樹くん?」


「ああ、ぜひ食べていって下さい」


「みんなでご飯食べるのー? わーい! おじいちゃん、おばあちゃん、一緒に食べよーね!」



 少しずつ、少しずつ、前を向いた事で幸せになってきている。


 幸せを感じることでみんなの心の傷が癒され、あの辛くて苦しい日々が少しでも過去になって…… いつか思い出さないで済むようになる事を俺は心から願っている。


「あはっ、穂乃果ちゃん、嬉しそうですね! ……楓さんも」


「ああ、そうだな……」


 本当に嬉しそうな顔で笑っている。


 そんな笑顔の葉月も…… 俺は見たいんだ。

 また勝手な事をしているが…… 葉月の場合は伝えない方が良いと思っている。


 きっと、楓以上に過去を悔やんでいるから。


 でも…… 葉月、きっと今なら……


 そんな、リビングで楽しそうに話す四人を見ている少し寂しげな葉月の横顔を見つめながら。俺はそう考えていた。

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