幸せな未来を手に入れるために 3

「大樹くん、つまり…… 楓は不倫していなかったという事かい?」


「はい、すべて僕の勘違いでした…… そのせいで楓を…… 娘さんを傷付けてしまい、すいませんでした!」


 俺は今、楓の実家を訪ねていて、楓の両親と話をさせてもらっていた。


 楓と両親に仲直りしてもらいたいと思い、不倫と勘違いして離婚した事を殴られる覚悟で謝罪をしに来たんだ。


 もちろん『楓が大学生に酷い事をされた』なんて俺の口から楓の両親に話せはしないので、あの写真はよく調べたら別人だったという嘘をつく事にした。


 じゃあ何故楓は離婚に応じたのか? 何故黙っていたのか? など質問されたら困ると色々と楓が傷付かないような言い訳を必死に考えてはいたが……


「そして、今は再び一緒に暮らしています、報告が遅くなってすいませんでした」


「……大樹くんはそれでいいのか?」


「はい、すべては僕が悪かったんです、でも楓はそんな僕を許してくれました、なのでこれからは一生を捧げるつもりで償っていきたいと思います」


 楓の両親がそんな俺を様子を見て、お互いに顔を見合わせいた。


 そして……


「分かった…… とりあえず楓に話を聞きたい、会わせてもらえないだろうか?」


「はい、実は引っ越しもしていて…… 他にも話したい事があるので、ぜひ我が家に来ていただけるとありがたいです」


 楓の両親に二人の女性と暮らしていると知られたら更に激怒されるな…… だけど俺がどう思われようがいい。

 楓を…… 家族を守るためならなんだってやる。

 だから楓の両親には楓と仲直りしてもらって、楓の味方を増やしてあげたいんだ。


 最悪、楓の両親が楓を連れ戻すと言ったら…… 俺が別の場所で暮らしてもいいと思っている。


 とにかく…… このまま絶縁された状態じゃ良くないと思ったんだ。


「大樹くんごめんなさい…… 急で申し訳ないんだけど、今週末にでもお家に伺ってもいいかしら?」


「僕は大丈夫ですけど、楓にも確認してからでいいですか?」


「もちろんよ…… 今日は来てくれて本当にありがとね、花弥さん…… 大樹くんのお母さんにも『ありがとう』って伝えておいてくれる?」


「は、はい……」


 何で母さんの名前が出てくるんだ? と少し引っ掛かったが、とりあえず週末に会う約束をした俺は、ついでに少し寄り道をしてから帰宅した。


 

 …………


 

 帰宅すると既に三人は帰って来ていて、リビングで楽しそうに話をしていた。


「パパおかえりー、遅かったねー、どこ行ってたのー?」


「あ、ああ、ちょっとお仕事の話をしに行ってたんだよ」


「へぇー、お休みなのに大変だねー」


 穂乃果の祖父母でもあるが、下手に話して『やっぱり仲直りは出来ない』と言われてしまったら…… だから、まだ穂乃果には黙っていよう。


 そんな事を頭の中で考えながら、ふと楓の顔を見ると…… 何だか申し訳なさそうな顔で俺を見ている事に気が付いた。


 ただ、その時は俺を見つめているだけで何も言わなかったのだが、穂乃果が葉月と一緒に眠った後…… 楓が俺の部屋に来た。


「大樹くん…… ちょっとお話ししたいんだけど、良い?」


「ちょうど良かった、俺も話があったんだ」


「……私の実家の事でしょ?」


 えっ、何で分かったんだ? と一瞬思ったが……


「GPSを見て気が付いちゃった……」


 ああ、そうか…… お互いに居場所が分かるようにとスマホのアプリに登録したもんな。


「何も相談せずに行ってしまって済まなかった、ただ…… まずは俺が一人で謝りに行かなければならないと思ったんだ」


「大樹くんが謝る必要なんてないよ…… 私が……」


「楓、言っただろ? 俺が悪かったって」


「…………」


 再び一緒に暮らすようになってからも時々不安になって泣く理由の一つは、今でも楓が自分を責めているからだと思っている。


 だから…… そんな不安を一つでも取り除いて、楓には更に前を向いて欲しい。

 そのためには両親との仲直りも大切だ。


「ご両親が今度楓に会いたいと言っていた、もちろん…… 真実は言ってない、ただ、不倫は俺の一方的な勘違いですべて俺が悪いというのと、再び一緒に暮らしている事だけ伝えた、あとは…… 葉月の事もまだ伝えてない、まずは楓との関係修復が先だと思ってな…… もしその事でご両親が俺に対して怒るのなら、俺は別な所で暮らしていいとも思っている」


「そんな…… そんなのダメだよ! みんな一緒にいないと…… 私達はすぐにバラバラになっちゃう……」


「だから口で説明して済ますより、ご両親を招いて実際に見てもらった方が早いと思って、俺が先に一人で行ったんだ」


 この複雑で特殊な俺達の関係は、一般的には受け入れられる状況じゃない、でも…… 楓の言う通り、俺達は一緒じゃないと、一人でも欠けるとすぐに壊れてしまう。

 穂乃果が俺達の間のバランスを上手く取ってくれているおかげで成り立っている関係なんだ…… 


「大樹くんの考えは分かった…… うん、私…… お父さんとお母さんと会う、そして、もし反対されそうになったら…… バラバラになるくらいなら真実を話してもいい」


「楓…… お願いだ、俺は怒られても、どうなってもいいから…… 自分を一番大切に考えてくれよ? 楓が傷付く姿はもう…… 見たくないんだ」


 二年も楓には辛い思いをさせてしまった、まだまだ償い切れないくらい傷付けてしまったのに、これ以上は……


 それよりも…… 心の傷が少しでも癒えて、幸せになってもらいたいんだ。


 楓に、葉月に、穂乃果に…… みんな笑顔でいてもらいたいんだ。


「ふふっ、大樹くん、私のために色々考えてくれてありがとう、凄く嬉しいよ…… うん、とりあえず私も二人に何も話さなかった事を謝るから」




 そして週末になり……



「楓……」


「久しぶりだな…… 楓」


「うぅっ…… お父さん、お母さん…… 今まで…… 本当に、ごめんなさい……」


 楓は二年ぶりにご両親と再会した。

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