幸せな未来を手に入れるために 1

 あれから鬼島会長の車で家まで送ってもらい、そのまま自分の車に乗って実家まで穂乃果を迎えに行った。

 そして母さんにお礼を言って、穂乃果と帰宅することにした。


「えへへっ、今日のお昼ご飯、ばぁばとお寿司食べて来たんだー」


「えー、パパも食べたかったなー」


「いいでしょー、マグロとイカとサーモン、カニも食べたよー」


 は、ははっ…… 穂乃果に話を合わせたが、海産物はいい…… かな。

 あんな話をした後だ、アイツらの話を思い出してイライラしてしまいそうだ。


 アイツらへの罰が本当にこれでいいのか? とは思ってはいるが、楓が警察に行ったり裁判をしたりするよりは、楓の心を守るという点では良かったのかもしれない。


 どれだけ反省しているのかは分からないが、あの『すべてを諦めたような』姿を見たら少しだけ溜飲が下がった…… 俺の中ではな……


「パパぁ?」


「んー?」


「今日ねー、ばぁばと話してたんだー、穂乃果ね、パパとママと葉月ちゃん、みんなでいると嬉しいから、ずっと一緒にいたいんだーって」


「えっ……」


「凪海ちゃんちも『ママ』が二人いるんだって! 凪海ちゃんのいとこは四人も『ママ』がいるんだよ、だから一緒にいても大丈夫って、凪海ちゃんママが言ってたんだー、大海くんママも大丈夫って言ってたよ!」


 凪海ちゃんママって…… 管理人さん、だよな? 俺らを気遣って言ってくれているのか…… でも? あれ? 大海くんも管理人さんの子供じゃないの?


 とにかく…… 何となく穂乃果の言いたい事が分かった。

 それがやっぱり…… 『穂乃果の願い』なんだろうな。


 俺達は穂乃果がいなければこうして今のように笑顔で生活することは出来なかった。

 穂乃果がいなければ葉月とも大人のお店で一回限りの関係で終わり仲良くなるなることもなく、楓の真実を知るきっかけを作れずにずっと傷付けたままの状態だったはずだ。


 そうなれば穂乃果はいつまでも楓と離れ離れになり、姉のような第二の母のような葉月もいなくて、寂しい思いをさせ続けることになっただろう、そして俺も…… 


「そうだな、みんなでいると…… 楽しいもんな」


「うん! えへへっ」


 あれこれ悩むのはもうやめよう。

 穂乃果の望みでもある。


 どちらも大切でどちらか選べないのなら…… 

 周りに何と言われようと俺が二人を、家族を守っていけばいいんだ。

 


 俺達は悩み苦しむために生きているんじゃない。

 幸せになりたくて、前を向いて生きようとしているんだ。




 …………




 穂乃果と帰宅すると、楓と葉月もちょうど帰宅したばかりなのか、リビングで荷物を片付けていた。


 テーブルの上には『吉備きび団子店』と書かれた紙でラッピングされた大きな箱が置かれていた。


 ……それよりも葉月が慌てて自分の部屋に運んでいた段ボールが少し気になる。


「あっ、穂乃果、パパ、おかえりなさい」


「ママ、ただいまー」


 穂乃果は一目散に楓に駆け寄り抱き着いた。

 そんな穂乃果を笑顔で抱き締めているのを見て、俺は少しホッとした。


 楓に危害を加えたアイツらのその後の話を楓に聞かせるか、本当にギリギリまで悩んでいたが、少しでも楓の心の闇が晴れてくれればと思い軽く説明してみたが、葉月と一緒なら大丈夫と言ってくれたので鬼島グループの本社に向かってもらったが……

 どうやら話を聞いても何とか大丈夫だったみたいだ。


 楓がどう思っているか今は分からないが、これで少しでも不安が取り除かれてくれたら嬉しい……


「穂乃果ちゃん、大樹さん、おかえりなさい!」


「葉月ちゃん! ただいまー、えへへっ」


 葉月も…… 自分だって話を聞くのは辛かっただろうに、楓のそばにいてくれてありがとう…… 

 とりあえず今日の事は穂乃果が寝てから二人とゆっくり話そう。


「今日はねー、ばぁばとお寿司食べたの! 美味しかったよー」


「ふふふっ、良かったね」


「いいなー、今度はみんなで食べに行こうねー」


「うん!」


 

 …………



 そして穂乃果が眠った後、葉月の部屋で俺達は話をしていた。


 とりあえず楓はよく分からない部分もあったけど、話を聞いて良かったと言っていた。

 葉月はアイツらの身に何が起こっているのか何となく理解しているようで、楓の話を聞いて苦笑いしていた。


「それで…… こんなに防犯グッズをもらっちゃったの」


「スタンガンなんて初めて見ました……」


 葉月がさっき隠していた段ボールの中には、様々な防犯グッズが入っていた。


 しかし貞操帯も初めて見たよ…… こんなのを装着したら…… 用を足す時大変なんじゃないの?


「GPSとか防犯ブザーは持ち歩いた方が良さそうですね! 穂乃果ちゃんのランドセルにも付けておきましょう」


「そうだな…… 本当に、いつ、何があるのかなんて分からないからな…… 備えていることに越したことはないよな」


「私は…… 外出する時に使ってみようかな……」


 そう言いながら楓は貞操帯を手に取りまじまじと見つめていた。

 

「さすがに歩きづらいんじゃないか?」


「でも…… もう二度と……」


 何で俺を見て申し訳なさそうな顔をするんだよ…… 言っただろ? 楓は悪くないって。


「楓さんがそれで安心出来るならいいじゃないですか ……あはっ、じゃああたしも楓さんとお揃いで付けますね!」


「葉月ちゃん、別に無理してお揃いにしなくても……」


「えー? 楓さんはあたしとお揃いはイヤなんですか?」


「そういうわけじゃ……」


「じゃあそうしましょうよ! せっかくタダでもらったんですから、お試しですよ、お試し!」


 は、ははっ…… くっつくくらいの距離で段ボールの中身をあれこれと見ながら話して、時々顔を合わせて笑ったりと…… 本当に姉妹のように仲が良いな……


 楓と葉月が一緒にいることで、お互い癒しになっているのかもしれない。

 穂乃果の言う通り、俺達はみんな一緒じゃないとダメなんだな。


「大樹さん! 大樹さんもあたし達とお揃いにします? あはっ!」


「ふふふっ、葉月ちゃん、女性用しか入ってないよ? 無理だよ」


 辛い事を思い出すような話を聞いた後でも、こうして冗談を言って笑い合えるくらいだからな…… 俺も頑張って二人を守らないと!


「いや、もしかしたら付けられるかもしれませんよ? 大樹さん、立ってみて下さい!」


 冗談…… じゃないの?


「いやいや、無理だって!」


「試してみないと分からないじゃないですか!」


 いや、どう考えても無理だから! ……ちゃうよ!


「ほら、大樹さんってば!」


「や、やめろって! 葉月!」


「ふふふっ」


 『ふふふっ』じゃなくて、楓も止めてくれー!

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