いつか救われる日を願って私達が出来る事は…
「『やられたらやり返す、ただし同じくらい、ほんの少し上乗せして』…… お父様は多分、わたくしの曾祖父の教えを元に動いているんだと思いますわ」
「は、はぁ……」
「どこかで聞いたような…… でもあたしが知っているのとはちょっと違いますね……」
昨日、大樹くんに『八百井達の事について鬼島グループの本社に行って話を聞いてきて欲しい』と 言われ、少し恐かったけど家まで迎えに来た黒の高級車に葉月ちゃんと共に乗り、鬼島グループの本社までやってきた。
大樹くんは別の車に乗って違う場所に向かったみたいだけど…… どこに行ったのかな?
穂乃果は? と大樹くんに聞いてみたら、お義母さんの家で預かってもらっているみたい。
そして私と葉月ちゃんは本社に着くと『社長室』まで案内されて、そこにいた凄く美人でスタイルの良い女性、鬼島グループの社長、鬼島葵さんとお話しをする事になった。
どうやら葉月ちゃんは顔見知りらしく鬼島さんに挨拶をしていたが、私はそれよりもパツパツの胸元に目がいっちゃった……
そして会って早々、鬼島の教え? という、どこかで聞いた事のあるような、ないような言葉を聞かされた。
「『やり過ぎたら新たな憎しみを生んでしまうのでほどほどに、ただしやられっぱなしは鬼島の名に恥じるからやり返せ』ということを言いたかったんだと思いますの、まあ、わたくしもやられっぱなしはイヤですから、お父様のやっている事に大体賛成はしてますわ……」
そう…… なんだ…… でも、それを聞かせるためだけに私達を呼んだの?
「急にそんな事を言われても何の事か分かりませんわよね…… とりあえず本題に入りますが…… 旦那さんに軽く聞いているとは思いますけど、木下さんには辛い記憶を思い出させてしまうかもしれません、辛かったら言って下さいまし、それで…… 木下さんは八百井総右という人物はご存知ですわよね?」
八百井……
やっぱり名前を聞いただけであの時の記憶が甦り、身体が震えてしまう……
「楓さん、大丈夫ですか?」
私の様子に気が付いた葉月ちゃんが、私の手をギュッと握り、もう片方の手で落ち着かせるために私の背中を撫でてくれた。
「あ、ありがとう……」
「大丈夫です、あたしがいますから……」
大樹くんがいない時、不安になった私を落ち着かせてくれる葉月ちゃん。
やっぱり穂乃果の言った通り、葉月ちゃんが一緒に暮らしてくれて本当に良かったと感じる瞬間の一つ。
葉月ちゃん自身もきっと私のように辛い目にあっているはず…… なのにこんなに寄り添ってくれて本当に心強い。
「すいません、大丈夫ですか? 呼んでおいてなんですが…… やっぱりまだ話をするのはやめておいた方が良さそうですわね」
「いえ…… 大丈夫ですので続けて下さい」
私は大丈夫…… うん、大丈夫……
穂乃果に大樹くん、葉月ちゃんが私のそばいてくれるだけで、ずっと味方だと言ってくれるだけで、孤独や恐怖、不安で後ろ向きだった気持ちが少しずつ前向きになってきたと自分でも感じている。
それに…… きっと大樹くんが私のために隠れて色々としてくれていたんだよね?
何か隠しているとは思っていたけど、まさか私達を守るために色々調べていてくれたなんて…… 大樹くん……
「では…… 辛くなったらすぐに言って下さいね?」
「はい……」
葉月ちゃんがしっかりと手を握って私を応援してくれている。
ありがとう……
「まず…… 現在、八百井総右は……」
…………
鬼島さんが話してくれた内容は、私にはあまりにも衝撃的な内容で…… すんなり頭に入って来なかった。
罪を償うために漁船に乗って働いて、私への慰謝料を払う? どうしてそんな話になっているのか…… しかも葉月ちゃんにも慰謝料? カマセ? よく分からないよ……
「今、鬼島グループでは水産業に力を入れてますの、そして彼はお父様の友人が船長をしている漁船に乗ってますわ」
それが『罪を償う』のと何が関係あるんだろう?
「マグロやイカ、カニなどを主に獲っているのですが、仕事自体も過酷ですし、あそこで働くのなら人間関係も大変でしょうね…… 最近では外国の方がたくさん働いてくれていますわ、ガチムチな男性ばかりですが……」
遠洋漁業は過酷だとよく聞くけど、人間関係? 長い期間船に乗ってなきゃいけないし、外国の人だからコミュニケーションを取るのが難しい…… とかかな? ……んっ? ガチムチ?
「コミュニケーションが大変…… ある意味当たっていますわね」
そして鬼島さんは机に置いてあった紙を取り、書かれている内容を私達に聞かせてくれた。
「これは業務連絡などをまとめた報告書のようなものですわ、なになに…… 『仕事でミスをして、罰として連帯責任で部屋で三人で清掃をし合った』『ヤりがいのある仕事で、みんなで夜にはお互いを称え合いながら仲良くヤっています』…… ふむふむ、誤字が多いですわね…… 報告者は佐上さん、八百井の教育係の方らしいですわ」
報告書の内容は…… 普通に働いているようにしか聞こえない、だけど葉月ちゃんが『うわぁ……』とでも言いたそうな顔をしているのが少し気になるな。
「もしもっと詳しく知りたいと思ったら、帰ってから旦那様に聞いてみるといいですわ、もちろん知りたくなかったら聞かなくても大丈夫ですけど…… とにかく、八百井に二度と女性に酷い事をしないよう、自分がした事がどういう事なのかを、みっちり言い聞かせるように教育、反省させるのがお父様の目的のようですわ」
よく分からないけど…… あの男のせいで私のような思いをする人がいなくなるなら…… それでいいのかな……
私は…… 一生忘れる事は出来ないと思う、でも…… 私の味方だと、ずっとそばにいてくれると約束してくれた『家族』がいるから、前を向いて歩いていけそう。
「わたくし達にはこんな事しか出来ないですけど、これからもあなた方が少しでも安心して暮らせるようにサポートさせて頂きますわ……」
そう言いながら葉月ちゃんの方を見て頭を下げている鬼島さん。
今日の話は私の事だけではなく葉月ちゃんの過去にも関係がある話だったのか、と口には出さなかったが心の中で思った。
「……わたくし個人としてはこのような犯罪者は万死に値すると思っていますわ、女性の心を殺すくらい傷付けて、のうのうと生きている事すら許せませんわ、でも世の中思い通りにはいかないものですから…… だから、自分自身『悪意』から身を守る事も必要ですわ」
そして鬼島さんは、自分の叔母が昔被害を受け、その後どう暮らしているか、それに私や葉月ちゃん以外にもいた被害者の話をしてくれた。
「小林さんの件に絡む話で言えば…… 未遂で終わりましたが、襲われそうになったけど格闘技を習っていた事で身を守れたという話もありますし、普段から貞操帯を装着し、防犯グッズを買い揃えて携帯していたおかげで助かったという話も聞きましたわ」
誰かの支えも必要、だけど最終的には自分で自分の身を守るしかない…… そうだよね…… 常に誰かがそばにいてくれるわけじゃない、それに…… そういう意識を持って生活することも必要なんだ…… 私のような経験を穂乃果には絶対にしてもらいたくない。
私達の事を話したりはしないが、今からでもきちんと穂乃果に教えてあげないと……
「それでですけど…… こちら、鬼島グループで新たに販売を始めた防犯グッズですわ! 良かったら使って下さいまし!」
段ボール箱いっぱいに入った様々な防犯グッズ。
防犯ブザー、催涙スプレー、それに…… スタンガン!? その他にも色々入っているけど…… もらってもいいの!?
「あなた方が住んでいるマンションも防犯はかなりしっかりしていると思いますし、もし気になることや足りないものがあれば、マンションの管理人をしているわたくしの
「あ、ありがとうございます……」
「わたくし達はあなた達の『味方』ですわ、もし何か不安な事があればすぐに、遠慮なく言って下さいまし」
味方……
成り行きで私達の事を知ったみたいだけど、ここまで親身になってくれるなんて……
「はい、本当にありがとうございます」
そして鬼島グループの本社を後にし、段ボールいっぱいの防犯グッズと、お土産の『お団子』をもらい、それを抱えて私達は我が家に帰宅した。
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