悪因悪果 2 《???》

 鬼島グループの本社を出て、再び黒の高級車に乗せられた。


 そして一時間くらい車で移動して辿り着いた先は港だった。


 大きな船…… おそらく漁船だと思うが、その近くで車から降ろされた俺を待っていたのは、身体が大きく日焼けをした、まるでプロレスラーかボディービルダーのような四十代くらいの男だった。


「待っていたよ八百井くん、俺はこの漁船の船長の屋良奈やらなヒロシだ、よろしくな」


 この人の元で俺は約半年働くのか…… 『教育』って言っていたのが少し気になったけど、身体は大きいが、笑顔だし恐くはなさそうだ…… 良かった。


「早速だが明日の早朝には出港するから、相部屋になるがこれから約三ヶ月、君の使う部屋に案内するよ、仕事内容はそれから説明をする、まあ外国人労働者もいるが日本語は話せるし、みんな優しく教えてくれるから心配しなくても大丈夫だ」


「よ、よろしくお願いします……」


 そして船に乗り込み、思ったよりも広い船の中を、設備などの説明を受けながら歩き、最後にこれから俺が過ごすという部屋へと案内された。


「二人とも新人の八百井くんだ、仲良くしてやってくれ…… 八百井くん、同室となる外国人のぺぺと、こっちは日本人の佐上さがみだ、分からない事があったら彼らに聞いてくれ」


「八百井総右です、よろしくお願いします」


「オー! ソースケ! ヨロシク!」


「八百井くん、佐上です、仲良くヤっていきましょうね」


 相部屋になる二人もムキムキで身体は大きいが、ぺぺさんは陽気そうだし、佐上さんは優しそうだ…… これならやっていけそうだな、あの時会長に抵抗しなくて良かった…… これで長くて半年働いて、その給料から慰謝料を払えば警察に捕まらなくてもいいんだろ? ラッキーじゃないか。


 そして次の日…… 俺達が乗る第二屋良奈丸は遠洋へ向けて出港した。


 船では漁に向けての仕掛けの準備や雑用などの仕事を教えてもらい、仕事終わりは先輩方と酒などを飲んで盛り上がったりと、思っていたほど厳しくなく、俺はすっかり安心していた。


 ただ……


「佐上さん、あの人…… 大丈夫ですか?」


 船員の中で気になる人を見つけてしまい、思わず聞いてしまった。


 ニコニコと笑顔だが、精神的にどこか壊れているような…… 少し不気味な感じがするんだよ。


「ああ、鎌瀬ケンくんか…… 実はね、一ヶ月前、彼のお兄さんが夜中に海に転落して行方不明になってしまったんだよ…… 仕事中ならまだ分からなかったが、他の船員ほとんどが就寝中で、辺りも真っ暗だったからね…… ケンくんはお兄さんが転落する姿を間近で見ていたみたいで…… かなりのショックを受けてしまったみたいだ」


 そんな事が…… やっぱり危険な仕事とは聞いていたがそんな事故もあるんだな…… 気を引き締めて仕事をしないと。


 鎌瀬さんを気遣ってなのか、他の船員さんが寄り添っている…… 


「さあ、もうすぐ仕事も終わりだ、総右くん、今日も晩酌するんでしょ? ぺぺが楽しみにしていたよ」


「は、はい!」


 でも、上手く説明出来ないけど何か変なんだよ…… 距離感がおかしいというか、まるで恋人に寄り添うような距離感なんだよ…… まあ寄り添っているのが外国の人だからというのもあるのかな?



 そして……



「ソースケ…… ソースケ……」


 ぐっ…… な、なんだ? ……飲み過ぎて…… ぐわぁっ!!


「ヤット、メヲサマシタネ! サガミ、ネクスト……」


「総右くん、次は僕が『歓迎』してあげるよ……」


 な、何をしているんだ!? 俺達は男同士…… や、やめろ! やめろぉぉぉぉー!!



 …………

 …………



 うっ、うぅっ…… こんな…… こんな事ってあるのか……


 とてもじゃないが口には出せない酷い目にあった俺は、慌てて船長室へと向かった。


 こんな被害にあって、あんな所にはもういられない!!


「屋良奈さん! た、助けて下さい……」


 そして屋良奈さんにアイツらにされた事を…… 思い出したくもなかったが、助けを求めるために…… 何とか説明した、


 すると……


「んっ? 八百井くん、何を言ってるんだ? そんな訳ないだろ…… 『同意』していたんじゃないのか?」


「何を言ってるんだ?  って屋良奈の方ですよ! 俺は酒を飲んで寝ている所を無理矢理……」


「だから?」


「……へっ?」


「だから何だと言っているんだ? 八百井くんだって同じ事をしたんだろ? しかも『同意した』と言って…… 自分はやっても許されて、自分がやられたら助けて欲しいと? おかしな話じゃないか?」


 あっ…………


 一瞬、何の事かと思ったら…… 記憶がなくなるまで酒を飲んで、気が付いたら…… って、同じ状況……


「トラちゃん…… 鬼島会長からすべて聞いているよ、君らが女性にしてきた事も、その後の態度も…… だから『教育してくれ』と言われているんだ、『自分がやられたら嫌な事は人にしたら駄目』それが分からないようだから、実際に体験してもらおうと思ってな」


 …………


「三ヶ月間、恐がる女性を脅して、半ば無理矢理オモチャのように扱ったと…… ははっ、君に更生して欲しいとご家族もこの条件を受け入れてくれたし、ここは逃げ場のない海の上…… 自分がどれだけの事をしたか、身を持って学んでもらわないといけないからね、三ヶ月、みっちり『教育』して、君が心から反省出来るよう私も全力でサポートするよ」


 あ…… あ……


「ソースケ、サガシタヨ!」


「歓迎会はまだ終わってないからね、みんなでじゃないか」



 …………

 …………




 ごめんなさい…… 許されない事をして。


 ごめんなさい…… 酷い事をして。

 

 ごめんなさい…… ごめんなさい…… ごめんなさい……



「カモン、ソースケ!」


「総右くん、もうすぐ出港の時間だよ」

 

「あはっ! すぐに行きまーす! あははっ……」

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