悪因悪果 《???》
どうしてこうなったんだ……
少し『火遊び』をしただけで内定取り消し、大学は退学せざるを得ない状況になってしまった。
ずっと住んでいた地元では俺の悪い噂で持ち切りになり、耐えられなくなった両親は引っ越しする事を決断した。
俺も今まで散々『一流企業に内定が決まった』と近所のババア共に自慢していたので、外を出歩けなくなってしまった。
……つい魔が差したんだ。
俺の送別会後、同じアルバイトの木下さんが酔っ払ってフラフラしているのに、ババア共は気にせずそのまま帰ろうとするから、仕方なく俺が送って行こうと肩を貸してやりながら歩いていたら…… 木下さんは俺を旦那と勘違いしていたのか、甘えるように身体をくっつけてくるから、誘っているのかと思って、つい……
ホテルに行くと言ったら一応返事もした。
俺じゃない名前を呼んでいたが、行為中は抵抗もしていなかった。
終わった後は顔を真っ青にして慌てていたが、誘ったのは向こうだし俺は応じただけ。
その後の事だって、冗談で言ったのにノコノコついてきて、反応は薄かったが俺を受け入れていたんだ。
そして…… 友達も誘ってみんなで楽しんだ時だって、抵抗しなかったじゃないか。
だから俺は悪くない、悪くないのに……
…………
『お兄ちゃんのせいで友達から絶交された』
『おまえのせいで降格になって会社に居場所がなくなった』
『あんたのせいでこんな田舎に引っ越さなければならなくなった』
俺だって、あんなオバサンのせいで内定取り消しになったんだ……
だから、悪くな……
…………
「
「はっ? あんたら誰だよ…… えっ、き、鬼島グループ?」
突然、俺の家に黒いスーツを着た男達が、黒い高級車に乗って訪ねてきた。
最初不審者だと思ったが、男達の一人が俺に名刺を渡してきた。
そこに書かれていたのは『鬼島グループ』という会社名……
話って一体何だ? と混乱していると、俺の後ろに立っていた両親が、スーツの男達に深々と頭を下げ……
「お待ちしておりました、息子を…… どうかよろしくお願いします」
「父さん!? 母さんまで……」
「はい、息子さんは私達が責任を持って…… 『教育』しますので」
はっ? 教育? 何の話だよ! 俺は絶対に行かな……
「お兄ちゃん」
「ゆ、
「……行ってらっしゃい」
この田舎に引っ越して来てから引きこもりになっていた妹に睨まれながら見送られた俺は、半ば拉致されるように車に乗せられ…… 連れて来られたのは、鬼島グループの本社だった。
黒いスーツの男達に囲まれながら建物の中に入り、エレベーターで最上階まで昇り、降りた先には『会長室』と書かれた扉が…… そして中に案内され……
「やあ、待っていたよ、八百井総右くん、私は鬼島グループ会長の
あっ…… あっ…… お、覚えている…… 俺が内定を貰った会社の、三人いた面接官の内の一人…… ニコニコして優しそうな雰囲気の面接官だと思ったが、まさか会長だったなんて……
「お、お、お久しぶり…… です……」
ただ、今の会長は…… 殺気が伝わってくらい…… 恐ろしい雰囲気だ。
「さて、手短に話すが…… 君を鬼島グループで雇う事にした」
「…………えっ?」
俺を…… 雇う? いきなり過ぎて意味が分からないが…… 雇うって…… 鬼島グループで働けるのか!?
「今、鬼島グループでは『水産業』に力を入れていてね…… ぜひ君にはそこで働いてもらいたい」
「あの…… 水産業とは?」
「ああ、簡単に仕事内容を説明すると、漁船に乗って遠洋に出て漁をするんだ、ご両親には明日から働いても大丈夫だと許可をもらっているし、早速港に向かってもらうよ」
「はっ? な、何を…… そんな急に言われても漁なんて絶対に嫌ですし、こんな無理矢理働かせるなんて…… 人権侵害になりますよ!」
何を勝手に決めているんだ! こんなバカな話があってたまるか…… 警察に通報して……
「はははっ、人権侵害? 君がそれを言うかい? 女性をオモチャのように扱って…… 私はそういう男が一番許せないんだ!!」
ひぃっ!! 殺気が更に増して…… このままじゃ……こ、殺されるんじゃないか? あっ…… も、もしかして『鬼島の虎』って…… 会長のこと…… なのか?
「オ、オ、オモチャのように、なんて…… 扱ってない……」
「お友達は素直に認めて従ってくれたんだけどね…… ちなみに君が前に住んでいた場所で、近所の方々から色々な証言を聞くことが出来たから…… 警察に行くのでも構わないんだよ? ああ、前科がついてからの生活はどうなるか分からないし、警察に行く場合は雇う話も無しにするよ」
友達って…… アイツら、喋ったのか!? しかも近所のって、あのババア共か!! 証拠を残さないように色々と気を付けていたのに、もし警察に捕まったら……
「もちろん働いてくれるのならきちんとした雇用契約もするしきちんと給料も支払うよ、ただ…… 被害にあった女性への慰謝料は天引きするけどね」
うっ…… でも……
「遠洋漁業といっても三ヶ月…… 長くて半年も行かないんだよ? 警察に捕まるのと…… どっちが君にとって良いのかな?」
け、警察に捕まって前科がつくくらいなら…… この会長がどんな証拠を握っているのかは分からないが、ここまで連れてくるくらいだ、かなり有利な証拠を掴んでいるのかも…… くっ…… そ、それなら……
「君の好きな方を選べばいい、もちろん逃げ出しても構わないよ」
どうせ逃げ出したとしても警察に捕まるだけ…… 三ヶ月、長くて半年耐えれば許してもらえるなら……
「わ、分かりました…… 働かせて下さい……」
「ははっ、では…… 明日からよろしく頼むよ」
◇
「会長、いつの間に証言なんて取っていたんですか?」
「ああ、あれはハッタリだよ、本当に悪い事をしていないのなら焦る必要はないと思うんだけど、あの動揺の仕方…… やっぱりクロだね」
「……会長、大丈夫なんですか? あんな強引なやり方…… 普通ならおかしいって気が付きますよ? 」
「はははっ、そうだね、あんな無茶苦茶なやり方をしたら、『脅された!』と逆にこっちが訴えられて警察に捕まってしまうね…… でも、人って追い込まれると正しい判断をするのって難しくなっちゃうんだよ、特に恐怖を感じたりしたらね」
「凄かったですよ、会長の殺気……」
「ははっ、そうかい? でも被害にあった女性はこんな恐怖とは比べ物にならないと思うけどね、それにそんな女性を支えているご家族の事を考えると…… 僕達にはご家族の気持ちが凄く理解出来るから、余計に…… だからあの男のふざけた態度に怒りを覚えたのかもしれないね」
「…………」
「さて、大沢くんにしばらくしたら被害者とそのご家族に僕の名刺と電話番号を教えておいて欲しいって連絡しておこうか…… その頃には彼が、自分がどれだけの事をしたのか理解出来ていたらいいんだけど…… あとは『教育係』に任せるとしよう」
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