俺達の新生活 3

 みんなで食事を終え、各々が好きなようにくつろぎながら過ごし、寝る時間になると……


「えへへっ、今日はパパと寝るー」


「おお、そうか、じゃあ一緒に寝よう」


「うん!」


 新居の部屋は五つもあるので、その中の一番大きな部屋の、元々二戸に別れていて向かい合わせだった二部屋を一部屋にした場所は物置代わりに使い、六畳から八畳ある四つの部屋を一人ずつ使っている。


 もちろん穂乃果の部屋もあるのだが、寝る時は日替わりで俺達のうち誰かの部屋で穂乃果は寝ている。


 今日は俺の部屋に来るみたいだから、三日ぶりくらいに穂乃果と寝るのだが……


「パパ、もっとくっついて!」


「はいはい…… んっと、これでいいか?」


「えへへっ、パパはゴツゴツしてるねー」


 小学生になっても甘えん坊で、パパとしては嬉しいのだが、他の家はどうなんだろう?


 穂乃果には寂しい思いをさせた分、いっぱい甘やかしてやりたい気持ちもあるが、子供の成長という意味で、一人で寝かせた方がいいのか……


「パパ、おやすみぃ…… えへへ……」


 ……いや、そのうち『パパと一緒に寝たくない!』なんて言われる日が来るかもしれないから、今のうちにいっぱい寝ておこう。


「おやすみ……」


 そんな、幸せな悩みも出来るようになるくらい、俺の心にも余裕が持てるようになってきた。


 



 朝は慌ただしく、俺も会社が少し遠くなったので、前よりも早めに家を出ている。


 穂乃果は学校が家から近いのでのんびりと出来るみたいだが、楓は週に二回弁当屋で働き、葉月は……


「今日もリモートワークなんで、帰る時間が分かったら連絡下さいねー」


 鬼島社長に紹介されたという、鬼島グループのヴァーミリオンやその他のアパレルショップの経営管理をしている会社でアルバイトをしていた。


 よりによって経営管理なんて、辛い事を思い出さないかかなり心配だったが……


『まあアルバイトですし、あたしの仕事は各販売店に適切な商品が入荷されているかチェックするのがメインですからねー、直接人と会う機会も少ないですし、大丈夫ですよー』


 と、葉月はあまり気にしていないようで、普通に働ける事を喜んでいるようにも見えた。

 アパレルショップではないが、アパレル関係の仕事に携われるのが嬉しいのかな?


 とにかく、自分を傷付けるような働き方をして欲しくはないので、今の所は少し心配しながらも見守ることにしている。


 そして楓も弁当屋の仕事を続けているが、接客業だから楓の方も心配しているんだが…… 本人は『店長もいるし一人きりになる事は少ないから大丈夫だよ』と言って、日数は減らしたもののまだ働くつもりのようだ。


 週二回の仕事の日は俺が車で弁当屋まで送り迎えをし、なるべく一人で外を歩かせないようにはしているが、楓には『心配し過ぎだよ』と少し嬉しそうに笑われてしまった。


 でも楓と葉月の過去を聞いた俺としては…… いつ、どんな被害にあうか分からないから、過剰と思われても後悔したくないから警戒はしておきたいんだ。


「ありがとう大樹くん、気を付けてね、こまめに連絡するから」


「ああ、俺も連絡するよ、また帰りに迎えに来るから」


「ふふふっ、お仕事頑張ってね」


「ありがとう、楓もな」


 楓を弁当屋まで送り届けた俺は、そのまま会社へと向かった。


 楓とは穂乃果の親としては少しずつ関係を修復出来てはいると思う。

 だけど、男女としての関係は? と言われるとやっぱり…… お互いの間には見えない壁があり、その壁はかなり分厚く、もう壊すことは出来ないんじゃないかと思っている。


 楓も男性が恐いというのもあるだろうが、一番は俺の身体が楓と触れ合うことを拒んでいるから……


 楓は悪くないと頭では分かっているんだ、分かっているんだけど…… 


 それと俺がケガをしてから葉月との触れ合いもなくなった。

 穂乃果と楓がいない間に出来ない事もないが、どうしてもそういう気分にならない。

 葉月とだけ仲良くしてしまうのは、楓に悪いような気がして…… 


 まあ、俺は今すぐどうこうしたいとは思ってないので大丈夫だけど、葉月が不満に思わないかと少し心配なだけだ。


 はぁ…… また余計な事ばかり心配して、仕事でミスしたらみんなに迷惑かけるし、考え過ぎないようにしないとな。




 悩みや心配もまだまだあるが、少しずつみんなが明るくなって笑顔も増えてきた、そんな新生活を続けていたある日……


『もしもし、遅くなってすいません、調査をしていた例の件ですが……』


 仕事中に探偵の大沢さんから連絡が来た。


『木下さんの都合の良い日で構いませんので、事務所で調査結果などを含めた話をしたいんですが…… 仕事中でしたよね? すいません、なるべく早い方がいいかと思いまして』


「いえ、連絡お待ちしてました…… 明日の夕方とかでも大丈夫ですか?」


 明日は楓は休みだし葉月も家にいるはずだ、とにかくどんな結果になったのか早く聞きたい。


『はい、構いません、では夕方にお待ちしてます』


 とりあえず俺一人で話は聞きに行くつもりだ。

 本当なら二人に黙って出かけるのは良くないが、話が話だから楓にはあまり聞かせたくない。

 葉月の事も頼んでいるが…… こっちも話を聞いてから伝えよう。


 どうなるかは分からないが…… 俺達が明るい未来へと進むためには、アイツらをそのままにしておくのは危険だ。


 もし葉月のように襲われてしまったら…… 穂乃果にまで危険が及ぶかもしれない。

 そうならないように、少しでも対策をしておきたい。


 そして仕事終わりに楓を迎えに行き、一緒に帰宅している車の中で


「明日少し遅くなるかもしれないから、連絡するけど晩ご飯は先に食べてていいから」


「大樹くん? ……そっか、分かったよ」


 嘘はつきたくないが、良い結果とは限らないからな…… ごめんな、楓。


「葉月ちゃんにも言ってあげてね?」


「えっ? あ、ああ、もちろん言うよ」


「ふふっ…… あっ、スーパーで買い物してっても良い? 今日の晩ご飯は何にしようかな?」


「良いよ、うーん、そうだなぁー……」


 そして帰宅して、楓に言われた通り葉月にも同じように伝えると……


「大樹さん? そうですか、分かりました…… 楓さんには伝えました? 言ってなかったら楓さんにも言ってあげて下さいね?」


「はははっ、楓には伝えて、同じような事を言われたよ」


「あはっ、そうだったんですかー…… 大樹さん、無理しないで下さいね? も心配してますから」


 これも『女の勘』ってやつなのか?

 隠し事をしているのはバレバレみたいだが、あえて聞かないでいてくれたんだな。


 ごめんな、葉月も……


 


 そして……



「お久しぶりです、大沢さん」


「お待ちしてました、ではこちらに……」

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