葉月の元へと……

 草薙くんが葉月の居場所を教えてくれた。

 葉月に会いたい…… そして謝りたい。


 葉月がいなくなった今だから言える。

 あのまま俺が二人とも癒したいからそばにいてくれと、葉月と楓がいる生活を続けていれば、遅かれ早かれこうなっていたんだと思う。


 もしかしたら姿を消していたのは楓かもしれない。

 二人とも…… 自分よりも他人を優先してしまうくらい優しいから。


 俺はまた周りが見えてなかったんだ……

 でも、どちらかを選べないくらい…… 二人とも心配で、大切だと気付いてしまったんだよ……


 今まで守れずに逆に傷付けてしまった、それでも俺達が傷付かないようにしてくれていた楓。

 ボロボロだった俺や穂乃果を癒してくれて、楓の真実に気付かせてくれた葉月。


 二人には感謝しているし、それと同じくらい酷い事をしたと後悔もしている。


 だから…… 何としてでも二人が前を向いて歩き、笑顔で生活出来るようになるまで俺なりに二人を守りたかったんだ。

 そして二人の心からの笑顔が、穂乃果の笑顔にも繋がると思っていた……


 だけど…… この生活が続けば、二人のうちどちらと共に歩んで行くかを、俺が更に選べなくなると思った葉月がきっと…… 先に身を引いたんだ。


 頼りなくて情けない俺のせいで葉月にまた辛い思いをさせてしまった。


 とにかく…… 会って謝りたいという俺のワガママだ…… でも、このまま動かずに本当にお別れになるのは嫌なんだ……


 葉月…… 



 

 そして帰宅し三人で夕食を済ませて、家事などをしているうちに穂乃果の寝る時間となり、穂乃果が寝た後……



「葉月の居場所が分かった……」


「えっ…… 本当に!?」


「○○市のアパレルショップで働いているらしい」


「○○市って…… 車で五時間以上はかかるんじゃない?」


「ああ…… だから今度の休み、俺は葉月に会いに行きたいと思っているんだ…… すまない」


 楓の気持ちを考えると、俺が葉月に会いに行って欲しくはないと思う、でも…… このままじゃ後悔したまま、ずっと葉月への気持ちを引きずってしまいそうなんだ。


「ふふっ、私の事は気にしなくていいから、いってらっしゃい、気をつけてね……」


「いいのか?」


「うん、私のせいでお別れになるなんて…… いや、私だって葉月ちゃんが心配だから会いに行ってあげて? きっと…… 大樹くんに会えなくなって寂しがっていると思うから」


「ごめん…… ありがとう……」


「謝らなくても大丈夫だから…… 大樹くん、自分の気持ちに正直になってね?」


 楓、本当に…… ごめん。

 俺が情けなくて優柔不断なばかりに…… 



 そして数日後の休みの日、朝早くに起きて○○市に向かう準備を一人でしていると……


「パパ! おはよ!」


「おはよう穂乃果、早起きだな…… って、その格好…… どうしたんだ?」


 まだ朝の七時なのに、穂乃果はパジャマを着ておらず、ダボっとしたカーディガンにウエスト部分が長めのデニムと…… 葉月と初めて会った時に選んでもらい買った服と、俺の買った穂乃果のトレーナーや楓に買ってもらったが小さかった服などの切れ端をを使いリメイクした、穂乃果のお出かけ用のバッグを持って、笑顔で俺に抱き着いてきた。


「えへへっ! パパ、はやくいこー!」


「えっ…… 穂乃果、パパは用事があって一人で出かけるんだ…… 遊びに行くんじゃ……」


「ほのか、きいちゃったもんねー! はづきちゃんにあいにいくって! だからー、パパぁ、ほのかもつれてってー! おねがいおねがいおねがぁーい!」


 何で知ってるんだ…… 聞いた? もしかして…… あの時、寝たふりしていたのか!?


「ねたふりじゃないもーん! 『おんなのかん』だよ! えへへーっ!」


 穂乃果…… 『女の勘』って、まるで葉月みたいな事を言って…… 


 すると、今は穂乃果と楓の部屋になりつつある、穂乃果と二人で暮らしていた時の俺達が寝室にしていた部屋から、申し訳なさそうな顔をした楓が出てきた。


「大樹くんごめんなさい…… 何とか穂乃果を説得しようと頑張ってたんだけど……」


「ママ! ママもはやくじゅんびして! はやくいかないとはづきちゃんにあえないよー」


「穂乃果、だからママは行かないって……」


「ママもいっしょじゃないとダメなの! ママもいこー! おねがいおねがぁーい! ねっ? ママぁ…… おねがい……」


 困った…… 

 ただ、俺は葉月に会って謝罪をしたかっただけ……


 謝罪を…… 


「おねがいパパ! はやくはづきちゃんを?」


 穂乃果…… 



 そして……




 


「ここか……」


 結局、葉月に会うために三人で○○市に向かう事になり、家を出発する時間が遅くなってしまい、○○市に着く頃にはすっかり暗くなってしまった。


 草薙くんに聞いたパープルサウンドという店の前まで到着したが、都会ではないしもう閉店したのか、十九時前なのに店の電気は消えていた。


「パパぁ、はづきちゃんはー?」


「いや…… ここにはいないみたいだ」


「えー!? じゃあどこにいるのー?」


「…………」


 さすがに葉月が住んでいる所までは知らない…… 困ったな…… ここまで来て帰るわけにもいかないし、今日はどこかに泊まって、明日出直すしかない……


「大樹くん……」


「仕方ない、今日は諦めてどこか泊まれそうな宿かホテルがないか探すしかないか…… そして明日の日中に行ってみよう」


「はづきちゃん……」


 スマホで検索してここから一番近い宿を探し、とりあえず向かってみることにしよう。

 ……おっ、近くにあるな、このビジネスホテルなら部屋が空いてるかな?


「よし、とりあえず車を走らせるからな」


 そしてホテルに車で向かっていると……


「……あーっ!! はづきちゃん!!」


 ……えっ?


「パパ、くるまとめてー! んしょ、んしょ………… はづきちゃーん!」


「ちょっと…… 穂乃果!! 危ないから…… あっ!!」


 車を止めた瞬間、穂乃果がチャイルドシートのベルトを外し、車から降りて走り出してしまった。


 慌てて俺達も降りて、穂乃果の後を追うと、そこには……


「うわぁぁぁん!! はづきちゃーん! あいたかったよぉぉー!!」


「穂乃果ちゃん!? どうしてここに…… あっ……」


 黙っていなくなってしまった葉月がいて、俺達は三ヶ月ぶりに再会した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る