あたしの選ぶ道 1 《葉月》
◇
「ばぁばー! きたよー!」
「あらぁー! 穂乃果ちゃんいらっしゃい、葉月さんもいらっしゃい」
「お、お邪魔します……」
今日は穂乃果ちゃんを連れて大樹さんの実家へと遊びに来た。
大樹さんのお母さんが穂乃果ちゃんと会いたかったというのと、あたしと話がしたいというのが理由みたいだけど、ちょうど良いタイミングで誘ってくれてありがたかった。
だって…… これで大樹さんと楓さんが二人きりになり、話し合う絶好の機会が出来たから。
「あー! こたつだー! ばぁば、こたつだしたのー?」
「寒くなってきたからねー、穂乃果ちゃんも好きでしょ? だから出しておいたよ」
「わーい! はづきちゃん、こたつはいろーよー」
「う、うん……」
初めて来たのにいきなりくつろいでもいいのかな? と少し気になって大樹さんのお母さんの方を見ると、笑顔で頷いてくれたので、穂乃果ちゃんと一緒にこたつに入れさせてもらうことにした。
ああ、こたつなんて久しぶり…… あたしの実家にもあったなぁ……
両親は元気にしているのかな? あたしのせいで別の場所に引っ越したんだろうけど、どこにいるかは知らないから…… 心配だな。
「穂乃果ちゃん、葉月さん、みかん食べるかい?」
「みかん!? たべるー」
「じゃあ…… あたしもいただきます」
『ミカン』と言われてドキっとしちゃった…… そういえばあの事件があってから柑奈さんにもあまり連絡してないな。
もしもあたしにまた何かあって巻き込んだらいけないし、大樹さんが落ち着くまでは連絡は控えようと思っていたんだよね。
その後、穂乃果ちゃんと大樹さんのお母さんとおしゃべりしながら、まったりとした時間が過ぎていった。
大樹さんの実家って、落ち着くなぁ…… 大樹さん達、上手く話せているかな?
なんてぼんやりと考えていると……
「すぅ…… すぅ……」
こたつに入って気持ち良くなったのか、穂乃果ちゃんがこたつの中で寝てしまった。
「あらまぁ、風邪ひかないようにしないと…… よいしょっと」
大樹さんのお母さんが上半身が出ていた穂乃果ちゃんに毛布をかけた後、無言であたしに手招きをしてきた。
そして別の部屋へと案内されたあたしは、そこで大樹さんのお母さんと向き合って……
「万が一穂乃果に聞かれたらマズいから、ごめんなさいね」
「いえ大丈夫です、それでお話しって…… 何ですか?」
「いや、大したことじゃないんだけどね…… 今日こうして葉月さんと話をしていて思ったんだけど…… 葉月さん、やっぱり楓ちゃんに似ているわね」
えっ…… 顔は全く似てないけど、もしかして……
「ほんと、穂乃果ちゃんと話している姿とか受け答えがそっくりで…… 葉月さん、ごめんなさい…… 大樹が迷惑をかけて」
「いえ、前にも言いましたが、あたしも大樹さん達に出会えて救われてますから…… こちらこそあたしのせいで大樹さんに大ケガを負わせてしまってすいませんでした」
「大樹の事はいいのよ! 昔っから視野が狭いというか…… 感情的になると前しか見えなくなる子だったからねぇ、楓ちゃんに出会ってからは楓ちゃんがさりげなくサポートしてくれていたおかげで何とか大丈夫だったけど、さすがに今回の事で考えを改めてくれるんじゃないかしら?」
「そんな事は……」
不器用だけど真っ直ぐな所が大樹さんの良い所でもあるから、悪くは言えないよ。
でも、その性格のせいで…… 二人は離婚するまでなってしまったんだろうな。
「それで葉月さん、これからの事についてなんだけど……」
やっぱり…… そういう話だよね。
大樹さんのお母さん的には、あたしの存在は邪魔になるとは思っていた。
「こんな事、親である私が言う事じゃないっていうのは十分分かってはいるんだけど…… もしも葉月さんさえ良かったらなんだけど…… これからも大樹と仲良くしてあげてくれないかしら?」
「えっ……」
「穂乃果ちゃんの事を考えたら、両親が仲直りするのが一番なんだろうけど、葉月さんがあまりにも楓ちゃんに似ていて…… このまま身を引いて欲しいとはとても言えないのよ…… もちろん三人で話し合って決めるのが前提よ? だけど親である私に遠慮したりして、葉月さんが自分の気持ちを抑え込んでしまうようなことはして欲しくないの…… あなた達はちゃんとした大人だと信じているから、あなた達がこれから決める事に私は文句を言うつもりはないからね?」
あたしがいなければ綺麗に話がまとまりそうなのに、あたしのためにそんな事まで考えてくれていたなんて…… やっぱり大樹さんのお母さん、なんだな……
「だから私に遠慮しなくていいから、自分の気持ちに正直になっていいのよ? 自分の中に抱え込んじゃダメだからね、楓ちゃんみたいに……」
わざわざあたしのために…… ありがとうございます……
「あとは三人でよーく話し合って決めなさい、穂乃果ちゃんのためにも、もうみんな逃げちゃダメよ?」
「はい…… ありがとう…… ございます」
こんな優しい人達が周りにいてくれるなんて…… 幸せだな。
大樹さん…… 楓さん…… みんな、あなた達の選択を優しく見守ってますからね、だから…… 自分達の気持ちを、ぶつけ合って下さい。
…………
そして、穂乃果ちゃんと一緒にタクシーに乗り大樹さんの家に帰宅すると……
朝とは明らかに二人の雰囲気が変わっていた。
楓さんは抱えていた闇が少し晴れたようにも感じるし、大樹さんは…… 楓さんに対して向けていた、どこかトゲトゲしたような雰囲気がなくなっていた。
「パパー! ママー! ただいまー! えへへっ!」
それを一番感じたのは穂乃果ちゃんだと思う。
だって…… 少し距離はあるが二人が並んで座っていて、穂乃果ちゃんに少しぎこちないが笑顔を見せているから……
良かった…… 二人とも、ちゃんと話し合えたんだ…… 本当に良かった……
その後、楓さんとあたしは毎日大樹さんの家に泊まって欲しいと頼まれてしまった。
理由は多分…… 優しい大樹さんの事だから、あたし達を一人にするのが恐いんじゃないかな?
楓さんも男性が少し恐いみたいだし、あたしも事件があってから一人で外を歩くのが少し恐くなっていた。
それを感じ取った大樹さんが、あたし達のために提案してくれたんだと思う。
その気持ちは嬉しい…… でも、このままじゃあ…… いつまでたってもあたし達の関係をどうするのか、決められないんじゃないかな?
そんな悩みを胸に秘めつつ、それでも大樹さんのそばにいたいと少しわがままになっていた。
そして大樹さんと楓さんが仲直りして数日経ったある日……
「……もしもし、お久しぶりですね、亜梨沙さん」
『急に連絡してごめんね、突然なんだけど…… 明日時間が空いてないかな? 私も葉月ちゃんに話があるんだけど、もう一人葉月ちゃんと話がしたいって人がいるのよね……』
「えっ……」
『あっ、多分葉月ちゃんも名前は聞いた事ある人で女性だから大丈夫だと思うんだけど…… 無理かな?』
あたしも知っている? 誰だろう……
『実は……』
そして、亜梨沙さんが軽く説明してくれた内容を聞いたあたしは、次の日に亜梨沙さんと会う約束をした。
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