楓の真実を知った俺は……
「楓…… ごめん…… 本当に…… ごめん……」
楓がどれだけ自分の中に苦しみを抱え込みながら今まで過ごしていたか、俺にはとても想像出来ないくらいの苦しみだったはずだ。
今の俺には謝ることしか出来ない……
「ぐすっ…… 私は大丈夫だよ…… 大樹くんは悪くないんだから……」
「何で!! 何で…… 何で楓はいつも……」
いつもそうだ…… 付き合っている時からそう…… 何かと世話を焼きたがって、一歳しか違わないのに『お姉さん』ぶって……
「楓は…… 何でいつも…… 一人で抱え込んでしまうんだよ…… そんなに俺は頼りなかったか?」
「ううん、大樹くんはとても頼りになるよ…… 私や穂乃果を誰よりも大切にしてくれていたし……」
「それなら! ……」
「でも…… 焦ると周りが見えなくなって危なっかしい所もあったから、そこだけは心配だった……」
楓も…… やっぱり母さんと同じような事を気にしていたのか。
そんな俺の悪い癖を、いつもさりげなく誘導するように手を引いて止めてくれる楓だったからこそ…… 十年以上何事もなく幸せに過ごせていたのかもしれない。
やっぱり俺のせいじゃないか……
「謝って許されるとは思ってないが…… 今までの事を償わせてくれないか?」
「そんな…… 私が一生をかけて償わなきゃいけない事だから……」
「いや、償わせてくれ! これから先、楓が辛い思い出を少しでも忘れられるように…… お願いします…… 償わせて下さい……」
「うぅぅっ…… 大樹くん…… ごめんね、うぅっ…… 今まで、黙っていたせいで、辛い思いをさせて…… ごめんね……」
そして、楓と真実を知った俺は……
…………
…………
『はい、大沢探偵事務所です』
「もしもし、以前お世話になった木下ですが……」
『ああ! お久しぶりです! その後はどうですか?』
「実は、その事でお話があるんですが……」
楓と葉月を守るため、ケガで動けない俺はとりあえず、以前楓の身辺調査でお世話になった探偵の大沢さんに連絡をしてみる事にした。
何故連絡をしたのかというと、あの大学生達の行方や、葉月の過去に関わっていたと思われる男達の行方を調べるため。
あの浦野という男のように危害を加えようと再び二人の前に現れないように、先に居場所を知っておこうと思ったんだ。
葉月の方は話で聞いた名前と職場くらいしか分からないが、大学生達なら大沢さんは分かるだろうと思い、再び頼る事にした。
それと出来れば大学生達が楓に加害した証拠も見つけられないかと頼んでみるつもりだ。
……証拠もないまま警察に相談したところで相手にされないだろうしな。
ましてや一度は『不倫』として弁護士を雇い示談にしてしまったから、今さら証拠も無しに『被害にあった』と言っても…… 厳しいと思う。
それにあの、ふてぶてしい態度を取っていた大学生がすんなり罪を認めるとは思えないしな…… とにかく、楓が『立ち向かう』事を選んだ時に助けられるように、『もう思い出したくない』と言えば、二度と楓に近付けないように、手を尽くしておこうと決めたんだ。
もちろん葉月も同じ事を…… と思ってそれも頼んでみたのだが、大沢さんから意外な答えが返ってきた。
『なるほど『ヴァーミリオン』の彼女ですか…… それならもう心配はいらないと思います、なんせ鎌瀬達は『虎の尾を踏んで』しまいましたからね……』
『虎の尾』とは何の事か分からなかったが、葉月の件に関してはすぐにとはいかないかもしれないが、近いうちに連絡をくれると約束してくれた。
ただ…… 楓の証拠に関してはかなり難しいらしい。
連絡先も知らない、メッセージのやりとり等もない、ホテル内での事や大学生の部屋で複数で行われた酷い事も、映像や写真があるわけでもないし、身体などに残る行為の証拠もないので、その状態でどう罪を認めさせるか、かなり考えなきゃいけないみたいだ。
そして証拠が無い中、俺の思っていた通り、『不倫』として示談にしているので、すぐに裁判をしたとしても負ける可能性が高いとも言われてしまった。
とにかく今は楓に寄り添い、心の傷を少し癒すのが先だと思うので、時間がかかってもいいので何か証拠になるようなものが出てこないか調査して欲しい、とは頼んでおいた。
ケガが治ったら直接顔を出しにいかないとな……
そしてあの話し合い以来、俺の家には楓と葉月がどちらも常にいる状態になっていて、楓は弁当屋の仕事を続けているし、葉月も用事があると出掛けてはいるが、二人とも夕方には帰って来て、家に泊まっている。
どちらも一人にしておきたくないという俺のわがままで頼んでいる事なんだが…… とりあえずケガが治るまでの間、俺達の関係をこれからどうするか、考える時間をもらいたいとお願いした。
優柔不断で情けないが、どちらも守りたいし一人にしたくないんだよ…… 二人ともすまない、もう少し考えさせてくれ……
「えへへっ! パパー、きょうはねー、ママとはづきちゃんとカレーをつくるんだよ!」
「そうか、楽しみだなー」
「ほのか、ママのカレーだいすき! パパもママのカレーだいすきだもんね?」
「ああ、大好きだよ……」
「えへへっ!」
楓と話し合い、お互いに過去の過ちを謝罪し合ったことで、今までのようにピリピリとした雰囲気がなくなり、ぎこちないが目を見ながら話せるようになってきた。
そんな俺達の様子を見た穂乃果は『ケンカしていたパパとママが仲直りした』と感じているんだろう、今までにないくらい毎日ご機嫌で、嬉しそうに俺や楓そして葉月の間を行ったり来たりしている。
「はづきちゃん! ちょっとこっちにきてー」
「なーに?」
「ほのかねー、ひとりでもじょうずにかみをむすべるようになったんだよ! みててー」
良かった…… あのまま楓の真実を知らずに過ごしていたら、穂乃果のこの笑顔も見る事が出来なくなっていたかもしれない。
俺はこれから先…… 三人の笑顔を守るために選択しなければいけないんだ。
でも…… どうすればいいんだ?
もし楓と寄りを戻したとして、それなら葉月はどういう関係になる?
葉月と共にいる事を選べば…… 楓とは? 穂乃果の親として関係を続けるのか? そうなれば穂乃果の親権を楓に……
でも、あれだけ失いたくないと行動して得た親権を簡単に渡すような事をしたら…… 協力してくれた周りの人達の思いを裏切る事にならないか?
みんな幸せになるためには…… どうすれば……
そして、答えを決められずに悩みながらも時間は過ぎていき、ちょうど俺のケガが完治して自由に動けるようになった頃……
葉月は何も言わずに突然、俺達の前から姿を消した。
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