楓との話し合い そして真実を知る 1

 次の日、朝早く起きた穂乃果は、俺の実家に遊びに行くために準備を始めていた。


「パパー、どっちがいいかなぁー?」


 お気に入りの服を俺の前に並べて、その中から自分で考えた組み合わせを、身体にあてがいながら俺に見せてくる。


 リメイクした服や葉月に買ってもらった服など、色々組み合わせているが…… 正直、服のセンスが悪い俺が選んで穂乃果が気に入るのかは疑問だ。


「今日は少し寒いしジャケットにスカート、あとはこのシャツが良いんじゃない?」


「えへへっ、じゃあパパがえらんでくれたふくにするね! ……ママぁー、このふくにするー!」


 俺が選んだ穂乃果の服を、すぐに楓に見せるために部屋から出ていった。

 昨日は楓が泊まっていったので、朝から俺の家にいる。

 それは穂乃果や俺の世話をするためにだから、申し訳なく思ってはいるが…… 葉月の過去の話を聞いて、更に楓とも話し合うようにと言われてしまったから…… 少し顔を合わせるのが気まずい。


 楓も俺に気を使っているようで、ほとんど話しかけてくることはないが…… 楓まで気まずそうな顔をするのは何でだ?


「ふふっ、じゃあ葉月ちゃんが来る前に着替えちゃおっか」


「うん! ママ、かみのけむすぶのてつだってー」


 リビングからは楽しそうな話し声がする。

 ……やっぱり、母である楓が毎日のようにそばにいて、穂乃果は嬉しそうだ。

 穂乃果が笑顔でいてくれるのが俺の一番の幸せだ。



 『穂乃果のために』


 母さんや葉月に言われた事が、俺に重くのしかかる……


『やはり穂乃果には母親である楓が必要なんじゃないか?』


 離婚してから何度も考え悩んできた。

 だけど穂乃果を失いたくなくて、母さんに協力してもらいながら今まで必死に生活してきた。


 だけど今の穂乃果を見ていると…… 本当に俺が親権を取って良かったのか? と思えてしまう。


 あの時は怒りと悲しみのせいで楓を拒絶し、俺は…… 『逃げたんだ』


 そんな悩みや心の痛みを葉月は癒してくれた。

 そして前に進むために、あんなに震えながら過去の話もしてくれた。

 俺も前に進めるようにと…… 背中も押してくれた。

 だから…… 今日こそ楓と向き合わなきゃいけないんだ。


 ……何を恐がっているんだ、俺は!!

 

 穂乃果の、葉月の、そして…… 楓のこれからのために! もう…… 向き合わないとダメなんだよ!


 ああ…… 考え過ぎて頭の中がぐちゃぐちゃになっている、こんなんだから母さんに『ウジウジするな』と怒られるんだな。



「パパー? えへへっ、どう? ほのか、かわいい?」


 穂乃果達が出かけると楓と二人きりなると思い一人で悩んでいると、俺に相談して決めた服を着た穂乃果が笑顔で部屋に入って来た。


「うん、今日の服装も可愛いな」


「えへへーっ、かみもママにセットしてもらったんだぁー」


 リメイクしたデニムのジャケット、膝上くらいの長さのベージュと白の生地を合わせてリメイクしたスカート、あとは葉月に買ってもらったボーダーのシャツ。

 髪型は両横の髪をこれも葉月に買ってもらったヘアゴムで少し束ね、ピョコンとした小さなツインテールを作ったような髪型で、唇はリップを塗ってうっすらピンク色になっていた。


 可愛く着飾って嬉しいのか、ポーズを取ったりその場でクルッと回ってみたりと、穂乃果は少しはしゃいでいる。


 そんな姿を見ていると、先ほどまでの息苦しいような気持ちも少し和らいでいく。


「……パパ?」


「んー? どうした?」


「ほのかね…… パパがだいすき!」


 い、いきなり何だよ…… はははっ。


「嬉しいなぁ、パパも穂乃果が大好きだよ」


「それでね…… えっとね…… ほのか、ママもだいすきだよ」


「……ははっ、ママも喜ぶと思うよ」


 本当に、いきなりどうしたんだ?


「ママね…… このあいだ、いっしょにねているときにね、ほのかとパパに『ごめんなさい』っていってたの」


 えっ…… 


「『ごめんなさい』っていって、ほのかをぎゅーってしたの…… だからね、パパぁ…… ママとおはなししてあげて? ママ、きっとパパに『ごめんなさい』っていいたいんだよ」


 ほ、穂乃果……


 穂乃果には『ママは仕事で忙しいから』としか伝えてないはずだが…… 子供ながらに俺達の間で何かあったと感付いていたのかもしれない……


 いつから? いや、もしかしたら…… 『ママ』と泣かなくなった頃からかもしれない……


 穂乃果…… 


 それからいつも笑顔で『可愛いおねだり』はするが、困らせるようなワガママは言わなくなった。


 ああ…… 俺達の仲が悪くなったと気付いていたのか…… 何をやってるんだ、俺は!


 穂乃果を悲しませないようにとついていた嘘が、逆に穂乃果を傷付け陰で悲しませていたのか……


「ほのかはパパもママもだいすきだよ! だから…… ママとおはなし、してあげてね? パパぁ…… おねがい」


 そう言って、穂乃果は俺に抱き着いてきた。


 この小さな身体でパパとママを仲直りさせようと密かに頑張ってきたのか?

 思い返せば面会の時や今も必ずパパとママがバラバラにならないようにと交互に話しかけていた……


 情けないパパでごめん…… 気付かなくて本当にごめんな…… 穂乃果。


「分かった、ちゃんとママとお話しするから……」


「うん! おねがいね、パパ!」




 そしてその後すぐに、葉月が家にやってきた。


「では…… 行ってきますね、夕方には帰りますから」


「パパ、ママ、いってきまーす!」


「ああ、気をつけて、ばぁばによろしくな」


「いってらっしゃい、穂乃果、葉月ちゃん」


 タクシーに乗り込む二人を玄関先で見送った俺達。

 楓の肩を借りながら立っていた俺は、穂乃果達が見えなくなった後、家に戻り……

 楓に声をかけた。


「楓…… 話がある」


「……はい、私も大樹くんに話があります」


 そしてもうすぐ離婚して二年になるという頃、俺達はようやくお互いに逃げずに向き合って話をすることにした。

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