休日の……終わり 2
「ようやく見つけたぞ…… 葉月」
浦野…… 何で今更あたしの前に現れたの? あ、あぁ、早く逃げないと……
でも、あの地獄のような日々がフラッシュバックして…… 身体が震えて動けない!
「あっ…… あっ……」
「よくも俺を嵌めやがったな……
鎌瀬? 鎌瀬って、あの…… 浦野にあたしへの客を紹介して案内役をしたり、浦野を手助けしていたあの男?
直接手を出されたわけではないが…… 浦野と切れた同時期くらいから一切連絡がないし…… 姿を現さないようになったから…… 居場所なんて……
「し、し、知らな……」
声も震えて上手く出ない…… うぅっ、恐い…… それに、浦野が着ている服もヨレヨレで見た目も不潔……
あたしが弄ばれていた時は、太ってはいたが高級なスーツを着て、身なりには気を使っていたはずなのに…… 浦野に一体何があったんだろう……
目は血走っているし…… 何をされるか分からなくて…… 余計に恐いよ……
「ふざけるな!! ……あの野郎、自分達がやっていた売春まがいな商売を『
「ひっ! そ、そんな話、あたしは知らない!」
あたしが解放されてからそんな話になっていたなんて…… でも『鬼島の虎』って聞いたことある…… この地域では有名な『鬼島グループ』の会長…… だよね? じゃあ…… あたしのように男達に弄ばれていた女の子達は…… 助かったのかな?
「鎌瀬め…… 姿をくらませやがって…… 俺はアイツらに復讐するためにこの街に戻ってきたんだ…… おい葉月! アイツらの誰でもいい、連絡をして呼び出せ! でなければ…… お前の命もないぞ!!」
そして浦野はポケットから折り畳みナイフを取り出し、ナイフの先をあたしに向かって突きつけてきた。
「い、いやぁ…… 知らない! 本当に知らないの!」
「アイツらを庇おうとしているならタダじゃ済まないぞ!? ……俺はもう、失うものはないんだ!!」
っ!! うぅっ! 何で…… 頭に血が上っているのか話が通じない…… 本当に知らないのに…… あたしは嵌められて、脅されて…… アンタ達に散々弄ばれて、飽きたからと切り捨てられただけじゃない!
「早くしろ! ……死にたいのか!?」
いやぁっ…… だ、誰か…… 助け……
「葉月!!」
……えっ!? ……な、何で、ここに?
何でここにいるの!? 大樹さん……
◇
「ありがとう…… ここで大丈夫」
「本当にいいのか? ……いや、じゃあまた連絡する」
「うん…… 今日はありがとうございました、気を付けて帰ってね……」
「ああ」
遊園地からの帰り、楓を駅前まで車で送り届けた。
すっかり暗くなってしまったので家の前まで送ろうかと提案したのだが、家を見られるのが恥ずかしいと断られた。
……葉月もそうだが、家の外観まで気になるものなのか? と少し疑問に思ったが、無理に送っていくというのも…… だから楓の指定した駅前で車を停車させたのだが……
ここって葉月も利用している駅だよな…… 楓もここら辺に住んでいるのか。
と、何故か分からないが悪い事をしているような気分になってしまった。
「…………」
穂乃果はグッスリ眠っていて、楓が車から降りたことにも気付いていないが…… 楓が起こさなくてもいいと言ったので、そのまま寝かせてあげることにした。
楓の姿が見えなくなったのを確認してから車を発進…… と、その前にメッセージの確認をしておこう。
葉月から午前中にメッセージが届いていたが、既読にはしたが返信してなかった。
さすがに楓と会っている時に返信するのは…… 葉月にも悪いしな。
そして車を発進させる前にメッセージの中身を改めて確認してから返信しておくことにした。
するとすぐに葉月から『お疲れさまです! あたしももうすぐ◯◯駅に着きますよー』と返信がきた。
ここにもうすぐ葉月が? 暗いし送っていこうか? ……と返信しようかと一瞬考えたが、さっきまで楓と会っていたのにすぐに葉月と会うなんて…… 何か最低な事をしている気分になりそうだったので『そうなの? 気を付けて帰ってね』とだけ送っておいた。
『お土産、なるべく早く渡しに行きますね』ときたのでスタンプで返し、俺達も家に帰ろうと今度こそ車を発進させた。
時々バックミラーを確認すると、バックミラー越しにはチラチラと街灯に照らされるたびに見える穂乃果の寝顔。
その寝顔を見ながら俺は考えていた。
……やっぱり穂乃果には母親が必要なのかもしれないと。
穂乃果は基本的にワガママを言わない、とても良い子だと思う。
よく喋り、よく笑う、俺の可愛い娘だ。
俺の事も大好きだと思うし、何かあればすぐ『パパ、パパ』と話しかけてくれる。
でも…… 『パパ』と『ママ』では『好き』の形が少し違うんだと思う。
『男親』よりも『女親』の方が同性で話しやすいというのもあるが……
穂乃果は口に出さないが、心のどこかで『母親』を求めているように感じている。
面会の時の楓への甘え方なんかを見ていると…… より感じてしまう。
俺にとって穂乃果が幸せなのが一番だ。
このまま二人で暮らすことが穂乃果のためになるのか、それが幸せなのかと……
この一年半くらいは不倫された怒りと悲しみを抱えながら、穂乃果を一人で幸せにしなければと必死に生活していたが、ほんの少し…… 心に余裕が出てきて、ついそんな事を考えてしまうことが増えた。
だからといって、今すぐどうこうするつもりはないが……
『大樹くん……』
『大樹さん……』
こんな悩みが増えたことも…… 葉月が俺の心を癒してくれているおかげだ。
どうなるかは分からないが…… ゆっくり、自分自身も見つめ直しながら…… 答えを出していきたい。
…………んっ?
あれ…… 道を間違えた。
こっちは…… 楓と暮らしていた時に住んでいた家がある方面で、今住んでいる家とは反対方面だ。
穂乃果を乗せているのに考え事をしながら運転なんかしちゃダメじゃないか!
そして、慌てて再び駅の方へと戻る道に進路を変えて走り出す。
すると前の信号が赤になり、交差点手前で停車していると……
えっ? あの右側の歩道を歩いている人…… 葉月に似ているな。
ギャルっぽい見た目でボストンバッグを持ち、着ているコートもこの前俺の家に遊びに来た時に羽織っていたものと似ている。
まさか…… な。
んっ? ……あっ、路地に曲がっていった。
もしもあれが葉月だったとしても旅行帰りで疲れているだろうし、今日は…… 会うのが少し気まずい。
だからこのまま気付かなかったことにして帰ろうと思ったのだが……
あれ? 何か見るからに怪しい男が…… 葉月が曲がっていった道を同じく曲がって入っていったな。
…………いや、心配し過ぎか。
『……変なおじさんに絡まれるかもしれないじゃないっすか!』
何故草薙くんが言ったことを今思い出すんだよ! ……気になるじゃないか!
そして一旦通り過ぎてしまったが、Uターンして、葉月らしき人物が曲がっていった道へと左折する。
少し細い道で街灯も少なめだから薄暗いのでゆっくり車を走らせていたが…… 人影らしきものすら見当たらない……
やっぱり見間違いかもしれないし帰ろう……
そう思い、次の十字路を右折しようと交差点で一旦停止して左右を確認していると…… 右側の道に人が二人立っているのが見えた。
あっ…… やっぱりあれは…… 葉月? それと…… っ!!
その姿を見た瞬間、停車させ、車から降りて走り出していた。
葉月と向かい合うように立っていた男の手に、ちょうど街灯に照らされて光る細い物が見えたから。
「葉月!! ……おい! お前、葉月に何してるんだぁぁぁーーー!!」
葉月の怯えている顔を横目で見ながら、驚いた男が俺の姿を確認するのと同時くらいに、俺は勢いそのまま、男を葉月から引き離すために体当たりをした。
「うぐっ! だ、誰だコノヤロォーー!!」
「は、葉月! 110番!!」
「あっ…… あっ……」
そして…… 体制を崩した男を取り押さえようと揉み合いになっていると……
「クソッ…… はっ、離せぇぇぇーーー!!」
「……ぐっ!!」
脇腹に痛みが走り、一瞬怯んだ隙に男は俺を振り払うように暴れながら立ち上がり…… その勢いで俺は地面に頭を打ち付け……
「だ、大樹さん!? ……大樹さん!! 大樹さん!!」
「ぐっ…… うぅっ……」
「お、俺のせいじゃないぞ!? コイツが手を出してきたから悪いんだぁー!」
「ま…… て……」
「いやぁぁぁっ! 大樹さん、血…… 血がぁ…… きゅ、救急車…… 救急車を……」
「はづき…… くる、ま、に…… ほのか、が……」
…………
…………
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