休日の……終わり 《葉月》
◇
朝の貸し切り状態の露天風呂でも柑奈さんと本音で語り合えて良かった。
……半分はちょっぴりエッチな話だったけどね。
そして朝食を食べてから少し部屋でくつろぎ、あたし達は帰り支度を始めた。
『これからお土産を買いに行って、それから帰ります』っと……
大樹さんにメッセージを送り、 スマホをテーブルに置くと、あたしの顔をジッと見ていた柑奈さんと目が合った。
「なんですか?」
「……今日はスマホをいじっている時間が少ないなーと思ってね、見てただけよ」
あはっ…… だって、大樹さんは今日『用事』があるから、忙しいんじゃないかと思って、連絡は控えめにしているからね。
「元奥さんと会ってるかも、って思ってるんでしょ? 心配じゃないの?」
……大樹さんは何も言わないようにしていたけど、あたしは何となく分かった。
……『女の勘』ってやつかな? あはっ。
でも、穂乃果ちゃんのお母さんでもあるし、離婚した理由も知らないから…… あたしみたいな『友達』が心配しても仕方ないよね。
「心配はしてないですよ」
例え、何かがあって寄りを戻したとしても…… 『友達』だから祝福しないと。
「ふーん…… めちゃくちゃ心配そうな顔をしてるけどね、ふふふっ!」
「えっ!? そ、そんな顔してないですよぉー!」
「もう! 素直じゃないんだから…… まあ、今の葉月は生き生きしていて私は好きだけどね!」
生き生き? 前はすべてを諦めていたから…… かな?
……うん、今も『友達』でいることを諦めたくないから、こうしてメッセージを送っちゃったのかも。
「じゃあ、その愛しの大樹さんと穂乃果ちゃんのために、お土産を選びに行きますかー」
「そうですね、何をお土産に…… 『愛しの』って何ですか!?」
「ああ、はいはい、分かってるから」
何を分かってるんですかー!!
…………
「もしもしくーくん? お土産何が良いー?」
宿をチェックアウトして温泉街のお土産屋に到着したあたし達。
着いて早々、柑奈さんは彼氏さんにお土産は何がいいかと電話をし始めた。
そんな様子を見ながら、あたしも二人へのお土産を選んでいた。
無難にまんじゅうは買うでしょ? あとは…… あっ! 穂乃果ちゃんが気に入っているからって大樹さんがメッセージのスタンプで良く使う『ブタのポゥさん』のご当地キーホルダーがある!
鬼の金棒を持っている物と、手ぬぐいを頭に乗せて温泉に入っているような物…… どっちにしようかなー? ……大樹さんと穂乃果ちゃんに一つずつあげるとして、二種類とも買うのもアリかも!
それなら、あたしの分も欲しいなぁ。
みんなでお揃い…… あはっ!
なんてお土産を買うだけでワクワクするなんて…… これも二人に出会ったおかげ。
「そういうのはいいから! 食べ物にするの? それとも置物とかキーホルダーみたいな物? ……もう! 真面目に返事しないと切るからね! うん…… うん…… わ、わたしも…… 大好きだからね、くーくん……」
……あはっ! なんだかんだ文句を言いつつ幸せそうだね、柑奈さん。
そして、迷ったあげくにあたしはキーホルダーを三つ買い、まんじゅうにおつまみみたいなお菓子まで買っちゃった。
柑奈さんは結局、あたしと同じまんじゅうを一つ買っただけだった。
理由を聞いてみると……
『形に残るお土産は、今度二人で旅行する時に買おうって言われた』と少し顔を赤らめながら言っていた。
そんな柑奈さんを少しからかいながら、あたし達は帰りの電車に乗るために駅へと向かうことにした。
『今から電車に乗って帰ります、お土産は今度渡しますね』
……朝に送ったメッセージは既読になっているけど返事がないから忙しいんだな、と少しだけ寂しく感じながらも、そのうち返してくれると思い、スマホをジーンズのポケットにしまった。
帰りの電車内では次の仕事についての話になった。
あたしは…… まだ決めていないが、以前働いていたアパレルショップの店長から、再び働かないかと誘われている事を話した。
「葉月ってアパレルショップで働いてたんだ、だからいつもおしゃれな服を着ていたのね」
あたしが持っているおしゃれな服、というのはほとんど『ヴァーミリオン』で買ったものばかりで、働いていた大人のお店に通勤時にはよく着ていた。
あと普段着ているのは安物のセール品ばかりだし、あまり良い物ではないけど…… おしゃれと言われると、元アパレルショップ店員としては…… 嬉しいかな。
「でも、次の就職先のあてがあるのは羨ましいわ、私はどうしよう…… 結局彼氏に同棲しようって押し切られて、私が借りていた部屋も解約しちゃったし……」
「あはっ、柑奈さんは何事にも慎重だと思ってたんですけど、意外と大胆な行動をするんですね」
「仕方ないじゃない…… 彼氏が一緒に住んで欲しい! ってしつこいし…… それに…… 私も一人じゃ寂しいし」
柑奈さん、それだけ彼氏さんが好きなんだね……
でも、もしもあたしが大樹さん達に一緒に住んで欲しい、なんて言われたら……
断れる自信がないなぁ……
「まっ、とにかく何かアルバイトくらいはしないと、彼氏に申し訳ないから私も色々探してみよーっと!」
「あははっ……」
そうだね…… あたしも将来の事を考えたら…… 働いた方がいいよね。
亜梨沙さんに電話してみようかな?
…………
『連絡が遅れてゴメン、今用事が終わって帰宅するところ』
あと二駅くらいであたしの降りる駅に到着する、というタイミングで大樹さんからメッセージが返ってきた。
もうすぐ19時…… どこに行ってたんだろう? と少しだけ気になりはするけど、あたしが聞くのはおかしいと思い、特にその話題には触れずに返信した。
『お疲れさまです! あたしももうすぐ◯◯駅に着きますよー』
お土産は…… 今度にしよう。
きっと大樹さん…… 疲れているもんね。
『そうなの? 気を付けて帰ってね』
……会いたいって言ったら迷惑だよね。
元奥さんと会ってたんだもん、その後にあたしと会うなんて。
でも『会いたい』と思うのは…… どうしてだろう?
もしかしてあたし…… 嫉妬している?
……いや、そんなわけない。
大樹さんとあたしは友達…… そう、友達なんだよ……
そして、あたしは『会いたい』と入力しかけたメッセージを消して
『お土産、なるべく早く渡しに行きますね』
一日でも早く会えるようにと、新たに入力したメッセージを送信した。
「じゃあまたね! 今度はご飯でも食べに行こう」
「はい! それじゃあまた連絡しますねー」
柑奈さんが降りるのはもう一つ先の駅なので、電車の中でお別れをした。
電車の中の柑奈さんが見えなくなるまで手を振り、そしてあたしは一人で帰宅するために歩き出した。
もう真っ暗だし、コートを着ないと肌寒い季節になってきたな……
そんな事を思いながら、大きい道から住宅街へと入る細い道に入っていくと……
「ようやく見つけたぞ…… 葉月」
えっ……
背後から男性の声が聞こえ、慌てて振り向くと……
「あっ…… あっ……」
そこには、地獄のような日々を送る原因となった、かつてあたしを弄んで楽しんでいた男…… 浦野が立っていた。
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