リメイク、近付く心の距離 3

 俺が運転する車に乗り、隣町にある洋服の直しを専門にしているというお店にやって来た。

 隣町といっても俺の職場や葉月さんのお店がある場所とは反対方向で、俺が住んでいる地域と比べたら、大きなビルなどは少なくあまり栄えてない。


 どちらかというと住宅の方が多い、そんな地域なんだが、その中にその専門店があった。


 一階がお店で二階が住居、みたいな作りの建物…… 店の名前は『望月もちづき』っていうのか。


「ついたのー?」


「うん、ここだよー」


 後部座席にあるチャイルドシート座る穂乃果、その隣に座っている葉月さんが穂乃果のシートベルトを外しながら答えていた。


 洋服をリメイクしてもらえると、朝からテンションの高い穂乃果、その相手を朝からずっとしてくれている葉月さんには感謝だな…… が少し長引いて寝不足のはずなのに…… ありがとう。


 そして楓の買ってきた服や、その他にも着れなくなった服を色々入れた紙袋を持って、三人で店内へと入る。


「こんにちは…… あっ、お久しぶり…… です、望月さん」


「葉月ちゃん…… 久しぶりね、元気…… だった?」


「はい…… 今日はよろしくお願いします」


 店に入るとカウンターには、四十代後半、五十代くらいの女性が待っていて、葉月さんを見るなり…… 少し目が潤んでいたような気がした。


 知り合いのわりにはぎこちない挨拶をしているが、俺は気付かないふりをして望月さんに話をすることに。


「木下です、今日はよろしくお願いします、それと娘の……」


「きのしたほのかです! よろしくおねがいします!」


「いらっしゃいませ、望月です…… あらあら、元気な娘さんねぇ! よろしくねー」


「えへへー」


「それで、今日は小さくなった子供服のリメイクだったわよね? じゃあ早速サイズを計りたいから…… 穂乃果ちゃん、おばちゃんと一緒にこっちに来てくれる?」


「はーい!」


 穂乃果は望月さんと一緒にカウンターの裏側で胴や腕、首回りなどあちこちのサイズを細かく計測、その間俺と葉月さんは入口の横にあったソファーに座り待っていた。


「ふぁぁ…… あはっ、すいません、あくびが出ちゃいました」


「……すいません、色々付き合わせて」


「大丈夫ですよ、可愛い穂乃果ちゃんの頼みですもん、それに…… 昨日の夜はどちらかというとあたしが付き合ってもらったような感じでしたから」


 ちょっと、昨日の夜の話は…… 


『ん…… 大樹さん……』


 あまり騒がしく出来ないからと、ゆっくり時間をかけていたからなぁ…… 仕方ない。


「あはっ、でもそのおかげで、寝不足ですけど凄く気分が良いんですよねー、お肌の調子も良い気がします」


「そ、それは良かったね……」


 そんな話をヒソヒソとしていると、計測を終えた穂乃果が楽しそうにピョンピョン跳ねながら俺達のそばに戻ってきた。


「パパー、はづきちゃん、おわったよー!」


 そう言いながら穂乃果は…… 俺ではなく、葉月さんに抱き着く…… ちょっぴり悲しい……


「あはっ、じゃあ…… どんなデザインになるか話を聞きましょうか」


「は、はい……」


「パパー、はなしをきこー!」


 今度は俺の方へ来て、俺の手を握りグイグイっと引っ張る穂乃果…… ははっ、穂乃果に手を握られただけで笑顔になってしまうなんて…… パパは穂乃果に対してはチョロいんだ。


「このピンクのひらひらがついたふくがおきにいりなの!」


「そうなのね…… こっちの服はどうかな?」


「こっちはねー …………」


 穂乃果にどの服がお気に入りなのかを質問しているが、そのお気に入りの服をメインに、他の着られない服の布を使いサイズの大きな服に作り変えるらしい。


 継ぎ足しに使う分の何着かは原型が残らないからと、一着一着穂乃果に質問しながら選び、それからデザインを決めるみたいだ。


 なるべくお気に入りの服は似たような形にするけど、同じ物ではなくなるとも説明された。


 それでも穂乃果は、楓からもらった服を捨てずに済むのが嬉しいみたいだ。


「ちょっと待ってねー、簡単なイメージを描いてみるから……」


 望月さんはスケッチブックを取り出し、穂乃果の服を見ながら何かを描いている。


「とりあえず…… 一着目のイメージ的にこんな感じになるけど、どうかな?」


 望月さんがこちらに向けて見せてくれたスケッチブックには、ピンクのシャツと白のスカートを組み合わせたワンピースが描かれていた。 


 両脇腹の付近にはもう少し色の薄い、ピンクのチェック柄のTシャツの布を使い、サイズアップするつもりみたいだ。


「わぁぁ…… かわいー!!」


「ふふっ、気に入ってくれたみたいね、次は……」


 そして、楓が買ってくれた服をメインに他にジャケットやパンツ、あとはスカートなどを作ってくれると言っていた。


 ……俺が買った服はすべてパーツとして使われるだけみたいだけどな。


 服のセンスがないのは知っていた。

 楓と付き合っていた頃から、俺が服を選ぼうとしたら楓がさりげなく別の服を持って来て、楓が持って来た服を買ったりしていたし。

 まあ、捨てられるよりはマシか、そのために穂乃果が俺の買った服もお店持って行くと言ってくれたんだから。


「…………んっ?」


 そんなことを考えていると、葉月さんがこっそりと手を握ってきた。


「…………」


 葉月さんは何も言わずニコリと笑って、望月さんの説明を聞いているが…… いきなり手を繋いできたからビックリした。


 ……服が使われないからと、俺がショックを受けているとでも思ったのかな?

 まあいいや、穂乃果は話を夢中で聞いてるし、カウンター越しで望月さんには見えないからな。

 


 とりあえず完成は二週間後くらいになるという話で、完成したらすぐ連絡をもらえるらしい。


 穂乃果は楽しみで仕方ないのか、望月さんにお礼を言ってはしゃいでいる。 

 穂乃果が喜んでくれる姿を見ると、こっちも嬉しくなる。


 そして俺達は店を出て、帰宅するために車に乗り込む。


「はづきちゃん、ありがとー!」


「いいんだよ、良かったねー」


「うん!」


 すぐに葉月さんにお礼を言った穂乃果は、どれだけ楽しみで感謝しているかを一生懸命伝えていた。


 本当に…… 葉月さんには世話になってばかりだ、食事のお礼だけじゃ足りないくらいに。


 どうすればいいかな……


 そんな事を考えつつ、楽しそうに会話をする二人の声を聞きながら、ゆっくりと安全運転で帰宅した。 

 

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