リメイク、近付く心の距離 2

「すいません…… 結局またお泊まりさせてもらうことになっちゃって」


「いいんですよ、穂乃果が無理言ってお願いしたんですから……」


「じゃあお詫びといったらあれですけど…… もうちょっと甘えます? あはっ!」


 そう言って隣で横になっていた葉月さんは、大きな二つの果実を俺の顔へと……



 本当は明日、小さくなった穂乃果の服をリメイクしてもらいに、葉月さんの知り合いがやっているという専門のお店に行く約束になっていた。


 ただ、それを穂乃果に伝えたところ……


『じゃあまたはづきちゃんがおとまりにくるの!? やったー!』


 と、どういう勘違いをしていたのか、穂乃果は葉月さんが土曜日に泊まりに来て、それから日曜日に出かけると思ったみたいだ。


 違うと伝えたんだけど、そういう気分になってしまった穂乃果は葉月さんに電話をかけて『おとまりにきて!』と何度もおねだりをし始めてしまい…… それで、土曜日である今日、我が家に葉月さんが遊びに来ている。


 葉月さんが遊びに来て大はしゃぎしていた穂乃果は今、隣の部屋でグッスリと寝ている。


 そして俺達は……


「あはっ、大樹さん甘えすぎですよぉ……」


 またそういう雰囲気になって、二人で一つの布団の上、仲を深めていた。


「……二週間ぶりですからね」


 仲を深めるといっても、万が一穂乃果が起きてきて見られてしまったら大変なので、客間にしている部屋の鍵は閉めて、静かにだけどな。

 

「あはっ! じゃあ、大樹さんの気が済むまでたっぷり甘えて下さい…… 大樹さんだけにしかしない、特別なサービスです」


 特別なサービスか…… 俺達はただの友達、だけど葉月さんが二週間のうち何日かは仕事で知らない客と…… そう考えてしまうとモヤモヤと、嫉妬に似たような何とも言えない感情が湧いてきてしまう…… 


「大樹さん、あたし……」


「そろそろいいですか?」


「はい……」


 

 …………

 …………



「大樹さん……」


「葉月さん……」


 仲を深め合った俺達は、余韻に浸るようにキスをしてから横になる。


「あはっ…… んー、大樹さぁん……」


 横になると満足した顔で甘えるように俺の腕に頭を乗せてくる葉月さん。

 まだ少し息が荒いので、空いている手でリラックス出来るようにと優しく頭を撫でた。


「大丈夫ですか?」


「……大丈夫じゃないです、だからギュッとしてくれますか?」


 頭からは俺の家で使っているトリートメントの匂い、更に着ていた服に付いていたのか、首筋からは葉月さんの甘めな香水の匂いがする…… 良い匂いだな。


 そして少し汗ばんでしっとりとした身体を抱き締めていると…… 寂しい気持ちが薄れていく。


 女性のぬくもりか…… 草薙くんの言っていた事が何となく理解出来た。

 しかも相手が葉月さんだから余計に癒されるんだろうな……


 お互いに相手を癒そうという気持ちで繋がるのが心地良く感じるんだろう。


「大樹さんはどうでした?」


「とても良かったですよ」


「あはっ…… 大人のお店で働いている女ですよ? 汚いとかいうイメージを持たれてそうで…… ずっと不安だったんです、でも大樹さんったらあたしのあちこちを……」


「いや…… そんな事は思ってないですよ……」


 大人のお店で働いているからといって、正直葉月さんを汚いとは思わないんだ…… それに表面的な汚れの話であれば、洗えば綺麗になるし…… 今がであれば……


 多分と思う理由は…… 

 大切に、綺麗にしていたのに汚された時…… なんだと思う。


「……って、急にどうしたんですか?」


「実はですね…… 良くしてくれた先輩に彼氏が出来たみたいで、今月で仕事を辞めると聞かされて…… あっ、辞める理由はそれだけではないんですけどね、それで…… その彼氏さんっていうのが、先輩のお客さんとしてお店に来ていた人だったらしくて、その話を思い出してつい変な事を聞いちゃいました、あはっ」


 そうなのか…… んっ? お客さんが…… 彼氏? 葉月さんの店の先輩…… 


 あれ? どこかで聞いたような話だな……


「あっ……」


「どうしたんですか?」


「その先輩の彼氏…… 俺の後輩かもしれません」


 そして最近やけに真面目に働いていることと、昨日聞いた話をしてみる。


 すると葉月さんも先輩に聞いたという話をしだして……


「その話が本当なら心配しなくても大丈夫そうですね」


「そうですね…… 俺はてっきりミカンさんに騙されているんじゃないかと思ってましたよ」


「あはっ! あたしも同じ事を思ってました」


 そうか、他人の恋愛に口出しするのはどうかと思ってそれ以上何も言わなかったけど、そんな彼女だったら…… 応援してあげようという気持ちになるな。


 まあ、価値観や相性とかは付き合っていくうちにそれぞれ分かってくるだろうから大丈夫だろう。


「その話を聞いてから…… あたしもこの先、このお仕事を続けるかで悩んでいるんですよねー」


「えっ……」


「とりあえず今のところはそんなに稼ぐ必要もないですし……」


 そんな話をしている葉月さんの目が…… やはりどこか『すべてを諦めたような目』をしているように見えてしまい……


「無理して働いているなら…… 辞めても良いんじゃないですか?」


 無責任だが…… そんなをしてまで身体を使って働いている姿なんて……



『大樹くん……』



 ……俺は見たくない。


「でもしたい仕事も…… 出来ないですし、だからまずはアルバイトでも探しますかねー」


 出来ない? ……ここは踏み込んで聞いてもいいのか? 

 

 だけど俺から目を逸らし、甘えるように胸元に顔を埋めるように抱き着いてきた葉月さん。

 これはきっと『聞かないで』と言っているように感じた俺は……


「俺はいつでも話を聞きますから、とにかく葉月さんがしたいようにすればいいんですよ、辞めるにしても、続けるにしても」


 もし恋人なら草薙くんのように『辞めて欲しい』と言っていたのかな?

 だけど俺は、葉月さんが答えを出すまで待つことを…… 選んだ


「大樹さんは本当に…… 優しいんですね」


「はい?」


『本当に』の後…… 何と言ったんだ? 胸元で小さな声で呟くように喋っていたから聞こえなかった。


「本当に…… あはっ、元気ですねー」


「えっ!? あっ、こ、これは……」


「いいですよ、あたしもまだ元気ですから……」



 そして…… 次の日、俺達は少し寝不足な状態で、葉月さんの知り合いのお店へと三人で出掛けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る