リメイク、近付く心の距離 1
楓との二度目となる面会を終えて五日が過ぎ、明日は土曜日。
『大樹さん、明後日って何か予定はありますか?』
会社で昼休憩を取っていると、葉月さんからメッセージが届いた。
『特にありませんよ、何かありましたか?』
『穂乃果ちゃんの着れなくなった服の件なんですけど、お店に聞いてみたら日曜日に予約が取れそうだったので連絡してみました、都合が良ければそのまま予約を取っちゃいますけど、どうしますか?』
ああ…… もうお店に連絡してくれたのか。
この間のお泊まり以降もちょくちょく連絡を取り合っていて、穂乃果の服の話もしていたんだ。
その話だけではなく、特に用事がなくても連絡を取り合う仲にはなったんだけどね。
『じゃあお願いしてもいいですか』
『分かりました! じゃあ予約しておきますね! お仕事中にすいませんでした、また夜に連絡しますね!』
『分かりました』
そして最後に、葉月さんからブタのキャラクターの周りにハートがいっぱい飛んでいるようなスタンプが送られてきて……
俺が穂乃果に見せるために何となく購入したスタンプを、いつの間にか葉月さんまで使っていた。
そんなことを思いながらスマホをしまい、食後のコーヒーを飲んでいると……
「…………」
いつもは騒がしいくらい絡んでくる草薙くんが、ここ一週間くらい大人しくて、何やら真剣な顔をしてスマホをいじっている事が増えたように感じる。
仕事もいつも以上に頑張っているし、どうしたんだろう?
「草薙くん、明日も遊びに行くのかい?」
「……へっ? 行くわけないじゃないっすか! 俺は心を入れかえたんすよ!」
「……どこか調子が悪いの?」
「失礼っすね! ……彼女が出来たんで、大人のお店もギャンブルも卒業したんすよ!」
か、彼女!? 今までそんな気配は全くなかったのに、突然彼女が出来たって……
「俺にはもう
ミカンちゃん!? あの大人のお店で働いていた、あの金髪ギャルみたいな…… あの女の子と!?
「……大丈夫なの? 貢いだりしてない?」
「どんなイメージしてるんすか!? ……柑奈ちゃんはそんな子じゃないっすよ! とにかく…… 今、俺の家で同棲してるんすけど、さすがに狭くて壁も薄いんで、新しい物件を探し中なんすよ、だから遊びに行く気にもないし、暇もないんす、ああ忙しい忙しい……」
交際を始めて即同棲って…… はぁー、行動力があるといえばいいのか、後先考えていないのか…… さすがに心配になる。
『大樹さん……』
な、何で今このタイミングで、葉月さんのことを思い出すんだよ!
葉月さんは穂乃果に会いに来ているのであって、俺はついでなんだから……
『ああ、大樹さんっ!』
ついで……
◇
「葉月、私、今月で店を辞めるから」
「えっ!? 柑奈さん、どうして……」
「親の作った借金もようやく完済したし…… それに…… 彼氏に『俺が面倒見るから、店を辞めてずっとそばにいてくれ』って言われちゃってねぇ…… まったく、面倒見てるのは私だっつーの! ……ふふっ」
柑奈さん…… 四歳年上のお店の先輩で、あたしに色々教えてくれたり、何かと気にかけてくれる…… あたしが勝手にお姉さん的存在だと思っている人。
亡くなった親が残した借金を支払うために『ミカン』という名前で数年働いていたみたいだけど、やっと完済出来たんだ…… 良かったぁ。
でも彼氏がいたなんて知らなかったな。
「付き合い始めたのは二週間くらい前なんだけど、今はほぼ同棲しているみたいな感じだし、我ながらおかしいわよね…… 最初は、ギャンブルが好きだとか言って勝ったお金で遊びに来るくらいだから『コイツから搾り取ってやろう』くらいにしか思ってなかったのに……」
「えっ…… その彼氏、大丈夫ですか?」
「はははっ! 普通に考えたら大丈夫じゃないよね、でも借金をしてでも私を指名して会いに来るとかふざけた事を言っていたから、説教するために食事に誘ったんだけど…… 気付いたら付き合ってた」
それ、騙されてない? 心配だよ……
「貢いだりしてないですよね?」
「そんな事するわけないじゃない! 只でさえお金ないのに…… 何でかなぁ? 話が合うし、アッチの相性も良い、だけど一番は…… この人なら私をずっと大事にしてくれるって…… ビビっときちゃったんだよ」
はぁ…… ビビっと、ねぇ……
『葉月さん……』
っ!? な、な、何で今、大樹さんの顔を思い出すのよ!?
大樹さんとはそういうんじゃなくて、ただ単に一緒にいると癒されるというか…… あたしにとって穂乃果ちゃんが一番の癒しなの!
『葉月さん! …………』
癒し……
「まっ、ギャンブルも辞めるっていうし、しばらく様子見でも、一緒にいてもいいかなーって人が現れたから、私が『ギャンブルだけはもう二度としないなら付き合う』ってお願いしたのを聞いてくれた彼氏のために、私も彼氏のお願いを聞いてあげようかなぁ、と思って…… だから私はお店を辞めるから」
「……はい、柑奈さんには絶対に幸せになってもらいたいので応援してます、今までお世話になりました」
「葉月ももう自分の幸せを考えてもいいんじゃない? 最近、何かニヤニヤしながらスマホを触ってるけど、もしかして良い人見つかったとか?」
「ち、違いますよー!」
「ははっ、怪しいなー! 私に教えなさーい!」
「違いますからぁー!」
ビビっとかぁ…… ビビっと……
よく分からないけど…… 穂乃果ちゃんと大樹さんに会えるのを楽しみにしている今が、あたしにとって幸せ…… なんだろうな。
あっ…… 『じゃあ日曜日においで』って服をリメイクしてくれるお店の店主さんからメッセージが来た……
急に依頼してすいません、ありがとうございます…… っと。
はぁ…… 早く…… 明後日にならないかな?
「モミジ、お客さんだよ、準備は大丈夫かい?」
あっ、店長…… はぁ…… お客さん、かぁ……
「はーい! 大丈夫ですよー」
大樹さんと穂乃果ちゃんに早く会いたいな……
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