二度目の面会、仮初めの家族団らん 2 《楓》
三人で手を繋ぎながら歩き、到着したのは……
「ママー、ここでごはんたべよー?」
「うん、でも…… ここでいいの?」
「ほのかはここがいいのー」
前回も来た、そして三人で暮らしていた時にもたまに来ていたファミリーレストラン。
この店ならあちこちにあるし、いつでも食べられるのに…… 他にも値段は少し高いけど美味しい店だってあるんだよ?
「はははっ、昨日からずっと行きたいって言ってたもんな…… じゃあ入ろうか」
遠慮しているのか、それとも…… やっぱり家族で来た思い出が穂乃果にも残っているのかな。
店に入ると席に案内され、私は穂乃果と並んでベンチシートに座り、大樹くんは向かい側の木製のイスに座った。
すぐに店員さんがメニュー表を持ってきてくれて、私と穂乃果は一つのメニュー表を二人で見ながらメニューを決めていた。
「ママはどれにするのー?」
「うーん、どうしよう…… 穂乃果はどれがいいの?」
「ほのかはねぇ…… あっ、カルボナーラ! カルボナーラがたべたーい!」
いつもはお子さまランチを頼んでいたのに…… ふふっ、穂乃果もちょっぴりお姉さんになったのかな?
「じゃあカルボナーラを頼もうね…… ママはじゃあ…… ドリアにしようかな?」
「わー! ほのかにもひとくちちょうだいね!」
「ふふっ、いいよ」
「やったー! ……パパは? なににするのー」
「どうしよう、穂乃果がカルボナーラで…… ママがドリアだろ? ……よし」
一人でメニューを見ていた大樹くん。
少し悩んでいたが、メニューが決まったようで、すぐに店員さんを呼んだ。
「カルボナーラ一つにドリアが一つ、あとは…… マルゲリータピザを一つ、飲み物は……」
大樹くんも珍しいものを頼んでいるな…… あっ、大樹くん…… いつもドリアだもんね。
私と同じものが嫌だからかな? きっと……
そして穂乃果の保育園の話などを聞きながら料理を待っていると……
「お待たせしましたー」
テーブルに三人分の料理が運ばれてきた。
「わーい! おいしそー!」
それぞれ注文した料理を目の前に置いてもらったのだが…… ここの店のカルボナーラって結構ボリュームあるんだね。
それにピザは…… 思ったよりペラペラで少ない。
そっか、それで大樹くんはピザにしたんだ…… あははっ、私と一緒が嫌だったわけではなさそう…… 気にしすぎだったな。
「いただきまーす!」
穂乃果がフォークとスプーンを使ってくるくると器用にパスタを巻いている…… こんな事も出来るようになったんだ。
というより、きっと前に食べたことあるんだな…… 慣れているというか、初めてではなさそう。
ただ、食べる時にソースが付いちゃって口の周りがベタベタになっている…… ふふふっ、可愛い。
「穂乃果、こっち向いて?」
「んー…… えへへっ、ママありがとー!」
「ふふっ、どういたしまして」
そんな私達の様子を、大樹くんはピザを食べながら…… 少し笑顔で見つめていた。
大樹くん…… 前より少しだけ…… 元気になったのかな? やっぱり前よりも雰囲気が柔らかくなっている。
それでも私の方を見ることはほとんどなく、迷惑になるかと思い私もあまり見ないようにしていた。
思った通り、穂乃果は途中でお腹いっぱいになって、余ったカルボナーラを大樹くんが食べていた。
だけど食後のデザートは食べたかったらしく、チョコレートパフェを穂乃果と私で半分こにして食べることにした。
大樹くんはコーヒーを注文し、私達がパフェを食べているのを眺めていた。
「えへへっ、おいしー!」
「ふふふっ」
穂乃果が美味しそうに食べて、私に笑いかけてくれるだけで幸せ……
ああ、そんな幸せな時間も食事が済んだら終わりで、次はまた一ヶ月後……
ううん、悲しい顔はしちゃダメ! これはすべて…… 私が選択を間違えたせいなんだから。
そしてゆっくり食べていたパフェも無くなり、少し休憩をしてから私達は店を出ることに。
会計は私がするつもりだったが、大樹くんがいつの間にか済ませていた。
……さっき泣きそうになってトイレに行って誤魔化した時にだよね、きっと。
「ごちそうさまでした……」
穂乃果には聞こえないよう小さな声で囁くと、大樹くんは無言で頷いた。
そして…… 今日の面会はこれで終わりなんだと、表情には出さないよう心の中で落ち込んでいると
「あー…… 穂乃果、あっちに公園があるんだけど、ママと遊んで行くか?」
「こうえん!? わー! あそびたーい! ママ、いこうよー」
えっ…… 今日はこれで終わりじゃ…… ないの?
本当にいいの? と思いながら大樹くんを見つめてしまった。
すると大樹くんは私の顔をチラッと見て、少し複雑そうな顔でまた無言で頷く……
嫌そうな顔をしているわけではないのは分かる…… でもその顔は…… 何か隠し事がある時の顔に似ている……
何だろう…… 二人ともう少し一緒に居られるのは凄く嬉しい…… でも、今の大樹くんを見ていると胸がざわざわしてしまう。
「わー! ママ、もっとおしてー!」
「ふふふっ、分かった、ちゃんと掴んでないとダメだよ?」
そして公園に到着すると、穂乃果はまずブランコに乗りたいと言ったので、私は後ろから穂乃果の背中を軽く押してあげた。
その間、大樹くんは近くのベンチに座り私達の様子を少し微笑みながら見守っていた。
「穂乃果、ママ疲れちゃったからブランコは終わりにしない?」
「えー!? ……じゃあほのかはすべりだいにいってくるねー」
「気をつけるのよー」
走ってすべり台に向かう穂乃果。
そんな元気な様子を見ながら……
「あの…… 隣に座っても…… いいですか?」
「……ああ」
恐る恐る、大樹くんの座っているベンチのなるべく端に腰を下ろした。
「…………」
もちろん会話はない。
分かりきっていることだけど、改めて大樹くんと他人になってしまったと実感して悲しくなってしまう。
「……弁当屋で働いているんだって?」
……えっ?
「……母さんが言ってた」
……実は、お義母さんとは大樹くんには内緒で時々連絡を取っている。
もちろん私から連絡することはないが、私を心配してくれているのか、たまにお義母さんの方から連絡してくれて、穂乃果の様子などを教えてくれる。
弁当屋で働いていることも伝えてはあるが…… まさか大樹くんにまで伝えているなんて!
「ご、ごめんなさ……」
「ああ、謝らなくていい、どうせ母さんから連絡してるんだろ? ……時々独り言のように俺に言ってくるからさ、知っていただけだ、それで…… 仕事は上手くいってるのか?」
「……っ!? う、うん…… 小さな店だけど、店主の杏子さんもパートのおば様も良くしてくれるから…… 上手くいってる」
「……そうか」
これで会話は終わってしまったが…… 大樹くんが私に話しかけてくれた、それだけで私にとってこの凄く嬉しい時間になった。
「ママー! すべるからみててー!」
「あっ、はーい! 今行くから待っててねー」
でも大樹くん…… この一ヶ月で何かあったのかな? やっぱり前回とは雰囲気が違うような気がする……
嬉しい…… でも不安になってしまうような、複雑な気持ち……
それでも、仮初めだとしてもこうして一日、家族として過ごせるのが私の唯一の幸せで、心の支えだった。
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