二度目の面会、仮初めの家族団らん 1 《楓》
◇
「お待たせしましたー、鮭のり弁当大盛りになります」
「ありがとうございます…… また来ます」
「いつもありがとうございます!」
……ふぅっ、これでお昼のピークは過ぎたかな。
「お疲れさま楓ちゃん、お客さんもいないし、丁度良い時間だから休憩入っちゃって」
「はい!」
小さな弁当屋さんだけど、平日の昼間は近くの会社の人や常連客などで結構忙しい。
もうすぐ十三時過ぎ、私は遅めの昼休憩を取ることにした。
お昼ご飯はまかないとして余ったおかずなどを詰め合わせたもので、今日は唐揚げや焼き魚、きんぴらごぼうなどを適当にご飯の上に乗せたものだった。
「……いただきます」
余ったキャベツの千切り、ついでにみそ汁まで頂いて…… ボリュームたっぷりで食べ過ぎなくらい。
それでも杏子さんは『楓ちゃんは細すぎるからいっぱい食べないと倒れちゃうわ!』といって、おかずを追加してくることがあるのよね……
でも、そんな杏子さんの優しさが嬉しくて、断れずに食べちゃうんだけどね、ふふっ……
はぁっ、今週の日曜日かぁ…… やっと一ヶ月経ったんだ。
昨日、大樹くんから連絡が来て、お互いに都合の良い日を選び、次回の面会の日を決めた。
穂乃果と大樹くんに会える、それだけが私の唯一の楽しみ。
二人が元気な姿を直接見られるだけで…… 私は幸せなの。
許されるとは思っていない。
ただ…… いつか穂乃果の親として、大樹くんと普通に話せる日が来る事を…… 夢見ている。
そのためにはきちんと償いをして、少しでも信頼を取り戻すしかない。
「あら、楓ちゃん、今日は機嫌が良さそうね」
「ふふっ、そうですか?」
「……もしかして娘さんに会えるから?」
「はい」
「そう…… 良かったわね」
杏子さんには離婚した理由を軽く説明している。
そして月に一回、穂乃果と大樹くんと面会出来るようになった事も話してある。
杏子さんは私の話を聞いて『もう少し二人で話し合った方が良い』と何度か言ってくれたが…… それは大樹くんを深く傷付けた私が決めることではないと思っているので、言われるたびに笑って誤魔化している。
んっ…… 余った唐揚げ、まだ温かくて美味しい ……大樹くんが好きそうな味付けだし、食べさせてあげたいな。
……いけない、すぐに大樹くんや穂乃果にしてあげたい事ばかり考えてしまう。
……寂しくなるから仕事中は極力考えないようにしているのに。
ああ、早く日曜日にならないかな……
◇◇◇
久しぶりにしっかりとメイクをしたし、今持っている服からなるべくおしゃれな物を選んで着た、あとは指輪を外して…… 待ち合わせの時間にはまだ早いけど、もう家を出よう。
ようやく待ち望んだ約束の日曜日が来た。
穂乃果と大樹くんに会えるのが嬉しくて、早く目覚めてしまったので準備はとっくに出来ていた。
穂乃果へのプレゼントが入った紙袋を持ち、待ち合わせ場所の隣町の駅前へと向かう。
ついつい早歩きになってしまい、予定より二本くらい早いバスに乗ってしまったが、遅れるよりはいいよね?
一秒でも長く…… 二人と一緒に居たいから、遅刻だけは絶対にしたくない。
それに……
バスを降り、駅前にあるベンチがいくつも設置してある広場に向かうと…… やっぱり!
「あっ! ママぁーー! こっちだよー!」
大樹くんは昔から待ち合わせをすると、約束の時間よりも十五分以上早く来て待っているから、きっといると思った。
「穂乃果ぁー、ふふっ、久しぶりだね、元気だった?」
「うん! ほのかはげんきだよ!」
駆け寄ってきた穂乃果を抱き締め笑顔で問いかけると、穂乃果も笑顔で頷いた。
前回は二人して泣いてしまったから、周りの人にジロジロ見られていたんだよね……
「……久しぶり、今日は早いな」
「うん、待ち合わせに遅れないように早めに家を出たら、予定よりも更に早くなっちゃった」
「そうか…… それじゃあ穂乃果、ママと一緒にご飯を食べに行こうか」
「いくー! ママ、えへへっ」
穂乃果に手を差し出されたので手を繋ぐと、私と繋いでいない方の手を大樹くんに差し出した。
穂乃果を真ん中に、親子三人で手を繋いで歩く…… これだけで涙が出そうならくらい嬉しい。
「…………」
あれっ? 穂乃果の服…… 凄くおしゃれで可愛い…… しかも、私がプレゼントした服じゃないってことは…… 大樹くんが買ってあげたの?
……いや、大樹くんはあまり服のセンスがないから、もしかしてお義母さんが買ってあげたのかな?
私がプレゼントした服はきっと……
一ヶ月前、約一年ぶりに会った穂乃果は、私の想像以上に成長していた。
だからきっと…… もう着れなくなったのかもしれない。
……子供の成長って早いからね、仕方ないよ。
「ママ?」
あっ、いけない! せっかくの面会なんだから今日は笑顔でいないと!
「どうしたの?」
「……ううん、なんでもなーい、あっ! ママがプレゼントしてくれたふく、ちいさくてきれなくなっちゃったの! でもきれるようにしてくれるから、こんどきてくるね!」
「……ふふっ、そうなんだぁ、じゃあ今度楽しみにしてるね」
やっぱり小さくて着れないのか…… でも『着れるようにする』ってどういう事なんだろう?
チラリと大樹くんの方を見ると、私を見て少し苦笑いしていた……
苦笑い!? 前回はあまり目を合わせないようにしていたし、私が恐る恐る大樹くんの方を向いても無表情だったのに…… 大樹くんが笑ってくれた!
ああ…… 多分穂乃果の話を聞いて苦笑いしていただけなんだろうけど、あれ以来一年以上ほとんど見られなかった私に向けての笑顔…… 苦笑いでも…… 嬉しい。
心なしか大樹くんの雰囲気もピリピリしてないというか…… 恐い感じが減ったような気がするし…… 何かあったのかな?
『嬉しい』と同時に、何か分からないが心がモヤモヤとして、ほんの少し不安に感じてしまった、だけど…… 私が大樹くんに私生活の事で質問するわけにはいかないから、気になるけど黙っていることにした。
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