約束の日、彼女を自宅に招待する 2
葉月さんが我が家に着いたので、俺は早速料理を始めた。
その間、二人にはのんびり待っていてもらうつもりだ。
「はづきちゃん、はづきちゃん、こっちにきて!」
「えっ? う、うん……」
二人はリビングに座って喋っていたが、穂乃果が急に立ち上がり、葉月さんの腕をグイグイ引っ張ってどこかに連れて行こうとしている…… といっても行く場所は穂乃果と俺の部屋くらいか、あとは物置代わりになっている客間くらいしかない。
料理をしながら二人がどこへ行くか横目で見ていると…… やっぱり俺達の部屋に入っていった。
そして葉月さんに先に部屋へと入ってもらい、あとから穂乃果が入っていったのだが、穂乃果が部屋の入り口からひょっこりと顔だけ出して
「はづきちゃんとじょしかいするから、パパはのぞいちゃダメだよ!」
女子会って…… ははっ、いつの間にそんな言葉を覚えたんだか……
「ああ、パパは今、手が離せないし大丈夫だよ」
「ぜったいだよ!」
ああ、ドアまで閉めちゃって…… 葉月さんと何がしたいんだろう?
まあいいや、とりあえずみんなお腹が空いているだろうから、さっさと作ってしまおう。
◇
大樹さんの家に遊びに来てしまった……
こんなドキドキするのは久しぶりかも…… しかも不安でとかではなく、ワクワクするような嬉しいドキドキ。
しかも来店した時や、この間ショッピングセンターで会った時みたいに緊張した顔の大樹さんじゃなくて、リラックスしている優しい笑顔の大樹さんを見て…… 更にドキドキしている。
ただ、あくまであたし達は知り合い程度、顔を合わせたのだってお店を入れて四回目だよ? なのに……
それよりも穂乃果ちゃんがこんなにあたしに懐いてくれているのが嬉しい。
大樹さんからチラッと聞いた話では、初対面でこんなに懐いている穂乃果ちゃんは初めて見たと言っていた。
そんな穂乃果ちゃんにグイグイ引っ張られて入った部屋には、タンスや小さな机があり部屋の隅には二組の布団が折り畳んで置いてあった。
ここってもしかして寝室にしている部屋? しかも穂乃果ちゃんが部屋に入ってすぐ、クローゼットを開けて何かを取り出そうとしているが、そこには見覚えのあるスーツが掛けてあった。
大樹さんと初めて会った時に着ていたスーツだ…… ああ、色々思い出しちゃう!
「はづきちゃん、みて!」
あたしがいけないことを考えていると、穂乃果ちゃんがクローゼットやタンスから引っ張り出してきた物を並べて見せてきた。
それは服で、すべてあたしが選んであげた服以外のものだった。
どれもおしゃれなデザインだし、有名な子供服ブランドの物ばかり…… どうしてこれを見せたかったのかな?
「これね、ちっちゃくてきれないんだぁ…… どうしたらきれるとおもう?」
「そうなんだぁ…… うーん……」
小さくて着れないなら、もう捨てるか誰かに譲るしかないと思うんだけど…… 捨てられない理由があるのかな?
「……まだあんまりきてないんだよ?」
少し寂しそうな目…… 初めて会った時に見た、大樹さんの寂しそうな目と似ている…… もしかして……
「……せっかくもらったのに」
『誰にもらったの?』とは聞けなかった。
もらった相手が何となく分かってしまったが、それを言うと穂乃果ちゃんの目が更に寂しそうになるような気がしたから。
……やっぱり親子なんだな、寂しそうな雰囲気も似ているから、知り合ったばかりのあたしですらすぐに分かっちゃうよ。
「……このままじゃ着れないけど、ちょっと形は変わっても良いならリメイクしてもらえば着られるようになるかもしれないよ?」
前に…… アパレルショップで働いていた時に知り合った人のお店なら上手く加工してくれそう。
でも…… あたしが…… あんな不義理をしたあたしなんかが、今更どうやって話をつければいいんだろう。
「ほんとに!? わーい! やった、やったぁー! はづきちゃん、だいすきー!」
でも、寂しそうに着れない服を眺める穂乃果ちゃんを見ていたら、どうしても喜んでもらいたいと思って……
「じゃあ、今度一緒にあたしの知っているお店に服を持っていってみよっか! あっ、パパが良いよって言ったらだよ?」
「うん! パパにきいてみる! またみんなでおでかけだね!」
「そう、だね…… あはっ!」
つい言葉にしてしまった。
『ああ、また会う約束をしてしまった』とほんの少し思いながらも『また穂乃果ちゃんと…… 大樹さんと会えるかも』という期待の方が自分の中で大きくなっていることに遅れて気付き、あたしはちょっぴり恥ずかしくなってしまった。
◇
「おーい、二人ともー、ご飯出来たよー」
まだ『女子会』をしているのか? なかなか部屋から出てこないな。
さっきから部屋の中からガサゴソドタバタと聞こえるが、一体何をしているんだろう?
「いまいくからまっててー」
「早くしないとご飯が冷めちゃうぞー」
「はーい!」
葉月さんと遊べて嬉しいのか、元気そうな声で返事をする穂乃果。
『賑やかで良いな』と思いながら、それと同時に『いつも寂しい思いをさせて申し訳ない』と少し…… 思ってしまった。
「パパ、おまたせー」
「すいません、ごちそうになるのに手伝いもしないで」
「葉月さんはお客さんなんですから謝らないで下さいよ、それよりも温かいうちに食べましょう」
「は、はい…… わぁっ、美味しそうですね」
今日俺が作ったのは、穂乃果の大好物のオムライス。
ケチャップライスの上にふわとろのオムレツを乗せ、真ん中から割ってライスを隠すように包み、仕上げにデミグラスソースをかけた…… 穂乃果の『おふくろの味』とも言えるオムライスだ。
俺の家のオムライスは、薄い卵焼きで全体をしっかり包み、上にはケチャップをかけるタイプだったからな。
あとはキャベツとニンジンのコンソメスープくらいしか作ってないんだが……
「パパのオムライスおいしいんだよ! はづきちゃん、はやくたべよー!」
「う、うん…… そうだね」
葉月さんは驚いているのかオムライスをジーッと見つめていて、穂乃果はテーブルの前に座り、すぐに用意してあったスプーンを握った。
「それじゃあ食べようか」
「うん! いただきまーす!」
「……いただきます」
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