再会の約束をする
「パパ! はやくはやく!」
食事を終えた後に二人で風呂に入り、部屋着に着替えてから、穂乃果が俺を急かしている。
時刻は二十時、穂乃果が何を急かしているのかというと……
「おっ、メッセージが返ってきた…… 穂乃果、大丈夫だってさ」
「やったー! パパ、スマホかしてー」
「はい」
俺から奪い取るようにスマホを持っていった穂乃果は、慣れた手つきでスマホを操作する、そして……
『もしもーし』
「あっ、はづきちゃん! ほのかだよー」
『穂乃果ちゃん、こんばんはー』
ここ数日、穂乃果は毎日のように二十時過ぎに葉月さんと電話をしている。
「きょうはねー、ほいくえんでねー……」
特別用事があるわけじゃないのに、何故か穂乃果は自分の近況報告を葉月さんにしている。
出会った時から懐いてはいたと思うが、まさかここまで仲良くなるとは……
まるで友達のように会話する二人。
スマホはスピーカーになっているので二人の会話は丸聞こえだが、特に変な話はしていないので邪魔をしないように俺はその間、リビングのソファーでビールをちびちび飲みながらテレビを眺めていた。
「ほいくえんにはづきちゃんのえらんでくれたふくをきていったんだよ!」
『そうなんだぁー』
「それでねー、せんせいに『きょうのほのかちゃんのふく、すごくかわいい!』って、いわれたんだ! えへへっ」
『あはっ、あたしが選んだ服を気に入ってくれたみたいで嬉しいなー』
最近は葉月さんが選んでくれた服ばかりを着回している。
かなり気に入っているみたいで、おかげで買った服の組み合わせだと三日分しかないから洗濯が大変なんだよ…… 今度また服を選んでもらえないかな?
「ねぇ、はづきちゃん、それでいつあそびにくるの?」
『あはは…… それは…… いつになるかなぁ?』
「パパー! はづきちゃんはいつあそびにくるのー?」
…………
別に葉月さんと会うのが嫌なわけではないんだが…… こうして毎日のように電話をして、毎回この質問をされるのも大変だよな……
「……葉月さん、聞こえます?」
『あっ、大樹さん! 大丈夫ですよー』
「今度暇な日があったら家に遊びに来ませんか? ……この間のお礼にごちそうしますよ」
『……良いんですか?』
「はい、穂乃果も葉月さんと遊びたくて仕方がないみたいなんで…… 葉月さんが良ければ是非遊びに来て下さい」
『今週の土曜日は空いてますね、来週なら……』
「どようび!? やったー! はづきちゃんとあそべるー!」
穂乃果、まだ話の途中だよ。
しかも土曜日って…… 明後日じゃないか。
急だけど…… 次の日は休みだからちょうど良いかもな。
「……葉月さんが土曜日で良いなら、俺は大丈夫ですよ」
「わーい! はづきちゃん、まってるねー」
『あ、ははっ…… じゃ、じゃあ…… 土曜日に…… お邪魔しますね』
その後、穂乃果と葉月さんはニ十分くらい通話を続けていた。
本当に仲良しだなぁ……
そういえば、楓がいた時も二人でよくおしゃべりしていたな。
やっぱり女の人同士の方が盛り上がる会話っていうのがあるんだろう…… そういう時、俺はいつも会話に入れてもらえず、一人でテレビを見ていることが多かったな……
「すぅ…… すぅ……」
電話でいっぱい喋ったから疲れたのか、眠たそうにしていた穂乃果を布団に連れて行き、穂乃果が眠るまで俺も一緒に横になっていた。
そして穂乃果が寝たのを確認してから起き上がり、もう少し晩酌の続きをしてから寝ようと思っていたら……
んっ? スマホにメッセージが届いているな…… あれ? 葉月さんからだ、さっき電話したばかりなのにどうしたんだろう。
『大樹さんとお話ししたいんですけど、電話しても大丈夫ですか?』
俺と電話したい? のんびりと晩酌するだけだし……『大丈夫ですよ』と返しておこう。
おっ、メッセージを返信したらすぐに葉月さんから電話がかかってきた。
「もしもし」
『あっ、大樹さん? すいません、急に電話したいなんて言って』
「さっき穂乃果が寝たところなんで別に構わないんですけど…… 何かありました?」
『あのぉ…… あたしが本当に大樹さんのお家にお邪魔しても大丈夫なのかなぁーって、どうしても気になっちゃって…… あはっ、すぐに確認したくて電話しちゃいました』
何だ、その事か…… もう穂乃果に約束しちゃっているし、それに……
「お礼がしたいのは本当ですから気にせず遊びに来て下さい、あとで住所も送っておこうと思ってましたし…… そういえば勝手に決めちゃいましたけど、仕事は大丈夫だったんですか?」
「あはっ! 仕事は…… 多くて週に二回くらいしかしてないですからね…… しかもあたしの勤務時間は平日の昼間が多いですし…… 大樹さんと会った時は珍しく夜に出勤できないか頼まれたんですよね」
意外と少ない日数しか出てないんだな…… しかも平日の昼間って忙しいのかな? 葉月さんくらい可愛くてサービスが良かったら人気がありそうだけど……
「それなら良かったです…… あっ、もし家の場所が分かりづらかったら迎えに行きますよ?」
『えぇっ!? 迎えにまで来てもらったら悪いんで、あたしが直接行きますから大丈夫ですよ! もし迷子になったらその時は連絡しますね』
「ははっ、分かりましたよ、じゃあ明後日、お待ちしてますね」
『……はい、家を出る前に連絡しますね』
「分かりました、それじゃあおやすみなさい」
『あははっ、おやすみなさい…… 大樹さん……』
…………ふぅっ。
よく考えたら女性が我が家に遊びに来るなんて初めてじゃないか? ……念入りに掃除しておかないとな。
そして残っていたビールを飲み干し、歯を磨いた後……
「おやすみ、穂乃果……」
すやすやと眠っている穂乃果を起こさないように、穂乃果の隣に敷いてある布団にそっと潜り込んだ俺は、常夜灯のオレンジ色の光に照らされている、可愛い穂乃果の寝顔を少し見つめてから目を閉じた。
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