穂乃果とお出かけ、そして突然の再会 3
「穂乃果ちゃん、こんなのはどうかなぁ?」
「わぁぁ…… かわいい!」
「じゃあこれもあっちで試着してみよっか」
「うん! えへへっ」
…………
俺達が移動した先は、最初に穂乃果と二人で服を見ていた子供服専門店ではなく、別の場所にある小さな子供服売場。
葉月さん曰く、穂乃果よりも年齢が少し上、小学生とか中学生くらいの子供向けの服が売っている店らしいが…… 置いてある物を見る限り、穂乃果にはまだ早いんじゃないかと思っている。
穂乃果はまだ五歳だぞ? パッと見た感じ大人が着ていても変じゃないデザインだし、サイズだって穂乃果にはまだ大きそうに見えるんだが…… と、こっそり葉月さんに伝えてみたところ、
『今の子供はおしゃれなんですよ? 穂乃果ちゃんもおしゃれをしたい…… というか、きっと大人っぽい格好をしたいんですよ! ……ファッションには自信があるんでここはあたしに任せてくれませんか?』
と言われ、俺は二人の様子を黙って見守ることにしたんだが……
葉月さんの言う通りだったのかもしれない。
キラキラした目で葉月さんが手に取る服を見つめ、葉月さんがハンガーに掛けられた上着やズボン、スカートなどを重ねて見せて、組み合わせを簡単に説明するたびに、穂乃果は『かわいいー!』と手を叩いて喜んでいる。
しかも『パパのえらぶふくはかわいくない』と、俺に聞こえないようにしているつもりでヒソヒソと話している声が聞こえてしまい、俺は軽くショックを受けている。
だから穂乃果は浮かない顔をしていたのか……
「大樹さん、大樹さん! こっちに来て下さい!」
んっ? 葉月さんが手招きしてるな…… 試着室の方に行けばいいのか? ……どれどれ。
「えへへっ、パパ、どう? ほのかもはづきちゃんみたいにおしゃれ?」
「お、おお……! うん、凄く可愛いよ穂乃果」
葉月さんが試着室のカーテンを開けると、そこには片手を腰に当てて可愛らしくポーズを取る穂乃果が立っていた。
薄いピンクの袖が広がったような形のブラウス、フリルの付いた膝下くらいの長さのブラウンのスカート…… ちょっと背伸びをした女の子、みたいな印象もあるが、穂乃果には似合っていると思う。
「あとは好みでハイソックスとかタイツなんかを履いて、首元にリボンとか短めなネクタイなんかをすればもっとおしゃれに見えるかもしれませんねぇ」
……うん、俺では思い付かない服装だったかも。
どうしても『穂乃果はまだ五歳』という考えがあるから、こんな服はまだ着ないだろうと勝手に決め付けていた。
その後、今着ていた服とはまた違う組み合わせの服に着替えた穂乃果。
ダボっとした大人が着てもおしゃれそうなカーディガンに、ウエスト部分が少し長めのデニムの組み合わせ、あとはワンピースやちょっと裾が広がって足の部分が太めなオーバーオールなど、葉月さんが用意した服を何着も試着していた。
……どの服もどこか今よりも大人っぽく見えるような服ばかり、しかも穂乃果はすべて『可愛い』と大喜びだ。
「穂乃果ちゃんはどの服が気に入った?」
「うーん…… はづきちゃんがえらんだふく、どれもかわいいからえらべないよぉー!」
予算は二万円くらいのつもりだったが…… うん、全部買うとしたら四万は越えるな。
「パパぁー、えらべないよぉ、どうしよー!」
「あはっ、一応リーズナブルな店なんで二、三着くらいだったら予算内だと思ったんですけど、張り切って選び過ぎちゃいましたね…… ごめんなさい」
困った…… でも穂乃果が楽しそうにしている姿、それに葉月さんも穂乃果のために一生懸命探してくれた服だ…… よし!
「穂乃果、今日は特別だ、全部買っちゃおう」
「えー!? パパ…… いいの?」
「ああ、その代わり…… 家でパパのお手伝いをいつもより頑張ってもらうからね」
「うん、ほのかおてつだいがんばる! わーい、パパだいすきー!」
それに最近、飲み会に行ったりと穂乃果には寂しい思いをさせていたからな…… いや、ここ一年、ずっと寂しい思いをしているであろう穂乃果に、少しでも笑顔でいて欲しいから…… これくらいの買い物、安いものだ。
そして試着したすべての服を購入し、店を出た俺達。
今日の目的は達成したし、これで解散だな。
「大樹さん、良かったんですか? あたしのせいで予算オーバーしてしまって…… すいません」
出口に向かって歩いていると、穂乃果と手を繋ぎ並んで歩いていた葉月さんが申し訳なさそうに俺に謝ってきた。
「いえいえ、謝らないで下さい、どっちみち穂乃果の着れる服が少なくなってましたから、それに……」
葉月さんの選んだ服、どれもサイズが大きめで長く着れそうな物ばかりで、それにで穂乃果が気に入る服を選んでくれたんだ。
「わーい! やったー!」
「穂乃果がこんなに喜んでますから…… 葉月さんがいてくれたおかげです、今日は本当にありがとうございました」
「大樹さん……」
「今度お礼をさせて下さ……」
「こんど!? あっ、はづきちゃん、つめをキラキラにしてくれるのはいつ!?」
あっ…… し、しまった!! せっかく穂乃果が忘れかけていたのに、思い出させてしまった!
「ねぇー、はづきちゃーん……」
「あ、あはっ…… どうしましょう、大樹さん……」
今度、といってもこの場で決めるわけにもいかないし、どちらにせよお礼をしなきゃいけないと考えているから……
「……葉月さん、もし良かったら連絡先を教えてもらってもいいですか?」
「えっ…… れ、連絡先?」
あぁっ! よく考えたら葉月さんとの出会いは大人のお店…… その客に連絡先を教えるなんて嫌だよな。
「す、すいません! 迷惑でしたね……」
「……大樹さん、名刺の他に渡した紙、見ました?」
「……へっ?」
「やっぱりぃ…… あたしのプライベートで使っているスマホの連絡先を渡したのに…… 連絡来ないかなぁってずっと待っていたんですよ?」
名刺の他!? そういえば名刺と一緒にもう一枚渡されていたよな…… どこにあったかな? もしかして実家に忘れてきたか?
……でも葉月さんが連絡を待っていた? 何のために俺の連絡を待っていたんだ?
「大樹さんが寂しくなったら慰めてあげようと思ってたんですけど…… あはっ、連絡が来なくて寂しくなったのはあたしでしたね!」
ど、どういう事だよ!? 慰めるって ……ああ、お店に来てもらうための営業って事かな? きっとそうだよな、うん。
「まあいいです、じゃあ『今度』をいつにするか決めるために、今日絶対に連絡してきて下さいね?」
「…………」
「絶対に、ですよ? 大樹さん」
「……はい」
「あはっ! それじゃあ…… 穂乃果ちゃん、またねー!」
「うん! ばいばーい、はづきちゃん!」
そして葉月さんと別れて帰宅した俺と穂乃果。
家に帰ると早速、穂乃果は買ってきた服を紙袋から出して、床に一枚ずつ並べてニコニコしていた。
その間、俺は……
あれぇ? あの日名刺をスーツのポケットに入れてから…… どうしたっけ?
穂乃果を実家に迎えに行って、母さんに風呂に入るよう言われて…… あぁっ!!
そ、そうだ! スーツを脱いでいた時に名刺が落ちたから財布にしまったんだ!
思い出して財布を確認してみると、カードを入れるスペースの、一番幅の広い深めな所に、財布を取り出した時に間違って落ちないようにと隠してあった『モミジ』と書かれた名刺を発見、そして同じ名刺が二枚あり、二枚目の名刺には手書きで電話番号とメッセージアプリのアドレスも書かれていた。
そして電話をしてみると……
『あはっ! 大樹さん、約束通り連絡してきてくれたんですね』
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