穂乃果とお出かけ、そして突然の再会 2

 大型ショッピングセンターの三階にあるフードコート。

 店がたくさんあり席数が多くて、休日にはかなり賑わう人気の場所だ。


 お昼には少し早いがそれなりに人がいて、心配だったので葉月さんと穂乃果には先に席を取っててもらい、俺が三人分の注文をしに行くことにした。


 それにしても、まさかこんなところで出くわすなんて…… それならコンビニの前で見かけた時に話しかけられた方が良かったよ。


 一人の時に出くわすのと穂乃果といる時じゃあ…… 恥ずかしさもあるが、例えたら悪い事をしたのがバレるんじゃないかという、謎のドキドキ感がある。


 あのサービスは仕事だし悪い事ではないんだけど…… 大人のサービスっていうのがやましい気持ちになってしまうのかな?


 ……葉月さんは特に気にした様子もなく、ニコニコしながら穂乃果や俺と話をしていたけどな。


 ……とりあえず料理は注文したし、呼ばれるまで席で待つか。


「はづきちゃん、つめがキラキラしてる! ほのかもやりたい!」


「うーん…… 今はキラキラにするやつを持って来てないから、今度でもいいかなぁ?」


「うん!」


 ……穂乃果、もう『葉月ちゃん』って呼んでるし、キラキラした目で葉月さんの服やネイルなどを見て、楽しそうにおしゃべりしてる。


「あっ、パパ! おかえりー」


「おかえりなさい大樹さん、すいませんあたしの分まで注文してもらって」


「いえ、大丈夫ですよ、こっちこそ穂乃果の話し相手になってもらってありがとうございます」


 四人座れるテーブル席で穂乃果は葉月さんの隣に座っているし、俺は向かい側に座るか…… 


 穂乃果は人懐っこい性格だが、ここまで初対面の人と仲良くおしゃべりするのは珍しい。


「ねぇ、パパ? こんどはづきちゃんがつめをキラキラにしてくれるんだって!」


「ははっ、そうか…… 良かったな」


 今度っていつ? ……まあ、子供に対しての口約束だし、穂乃果を喜ばせるためのこの場での嘘、みたいなものだろう。


「はづきちゃん、こんどっていつ? あした? あさって?」


「う、うーん…… どうだろうねぇ……」


 ほら、葉月さんが困った顔をして俺をチラチラ見ているだろ?


「じゃあきょうは?」


「えっ!? 今日は無理かなぁ…… ねっ? 大樹さん」


「穂乃果、いきなり過ぎるから葉月さんが困ってるだろ? 葉月さんが大丈夫な日を後でパパが聞いておくから」


「はーい…… はづきちゃん、ぜったいだよ? やくそくだからね!」


「……うん、わかったよ」


 そして丁度話が終わったタイミングで料理が完成したと呼ばれて、また俺が一人で席を立ち、料理を取りに行った。


 穂乃果はお子様ランチ、俺はラーメンとチャーハンのセット、葉月さんはカルボナーラと、三人ともバラバラな食事だが、これが出来るのもフードコートの良い所だよな…… 


 楓がいた頃もよく来ていたな……


「いただきまーす! ……んー! おいしいよ、パパ!」


「いただきまーす! ……うん、美味しいです」


「はづきちゃんのもおいしそうだね!」


「穂乃果ちゃん、良かったら一口食べてみる?」


「いいの? わーい!」


 ……少し昔を思い出して寂しい気持ちになってしまったが、楽しそうに食事をする二人を見て、自然と俺も笑顔になった。


「……大樹さん?」


「……んっ? どうしたんですか?」


「ジーッとこっちを見てますけど…… もしかして大樹さんも一口食べたいんですか?」


 ……いやいや! 二人を見ていただけで料理は見てませんから!


「遠慮しなくても良いのに…… じゃないですかぁー、あはっ!」


 『友達』に何か含みがあるような気がするんだが気のせいか? ……まあ、普通の知り合いよりも知り合ってますけどね。


「パパ、じゃあほのかのをたべたいの? ……はい、にんじんあげる!」


「……それは穂乃果が食べたくないだけだろ? 好き嫌いはしないで食べなさい」


「むぅー! ……はーい」


 苦手なだけで、ちゃんと残さず食べるところは偉い。

 ……これも楓の教育が良かったから、なんだろうな。


 はぁっ、また思い出してしまったよ…… 忘れるなんて…… 出来ないよな。


「…………」


 いけない、せっかく楽しい食事なのに一人でしんみりしているなんて…… あっ、葉月さんが俺をチラチラ見ている。


 そして、穂乃果と葉月さんがお互いの料理を一口ずつ食べてみたり、二人に俺のチャーハンを少し分けたりと、食事を楽しんだ後は……


「はづきちゃん! はづきちゃん! ほのかもはづきちゃんみたいにおしゃれしたーい!」


「あはっ、あたしはそんなにおしゃれじゃないよ? 今日だって歩きやすい格好をしてきただけだし」


「おしゃれだよ! それにはづきちゃんかわいいもん! ……あっ、パパ! ほのかのふく、はづきちゃんにえらんでもらいたい!」


「えっ!? そ、それはさすがに迷惑なんじゃ……」


 それに葉月さんの着ている服、ラフに見えるけど一応ブランド物だぞ? 若者向けのうちのグループ会社のブランド…… 何ていう名前だったかな? 思い出せない……


「はづきちゃーん、ほのかもおしゃれになりたいの、おねがーい!」


「あ、ははっ…… 大樹さん、あたしはどうしたらいいですかね」


「パパからもはづきちゃんにおねがいしてー?」


 今日の目的は穂乃果の新しい服、俺と二人じゃあんな浮かない顔をしていたのに、今は服が欲しいと積極的になっているから、穂乃果が乗り気なこのタイミングで買えたら俺としてはひと安心…… 


「葉月さん、この後の予定はありますか?」


「えっ、特にないですけど……」


「それなら…… 穂乃果の服を一緒に選んでもらえませんか? ……お礼は今度しますから」


「……あたしで良いんですか?」


「はい、ぜひお願いします」


「それじゃあ…… あたしで良ければご一緒します」


「ありがとうございます!」


 葉月さんは見た感じファッションセンスがありそうだし、もしかしたら穂乃果の好みな服を選んでくれるんじゃないかと思ってダメ元で聞いてみたが…… 葉月さんが一緒に来てくれると言ってくれて良かった。

 

 正直、俺はあまりファッションに詳しくないし、ましてや女の子の服だから、選ぶのが大変で困っていたから助かる。


「はづきちゃんもいっしょにきてくれるの!? やったー!」


 穂乃果も一緒に買い物出来るのが嬉しいみたいで、笑顔で葉月さんを見ている。


 そして食べ終えた食器を返却口に戻した俺達は、穂乃果の服を見に行くためにフードコートから移動することにした。

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