穂乃果とお出かけ、そして突然の再会 1

 大人のお店に行って、モミジさんにサービスしてもらってから一週間。


 さすがに三週連続お店に行くことはなく、今日の休みは穂乃果と二人きりでお出かけをしている。

 行き先は家から少し離れた大型ショッピングセンターで、値段もお手頃な子供服がたくさん売っているお店に行くのが目的だ。


 今日こそは穂乃果に新しい服を買ってあげたいと思っているのだが…… 穂乃果はあまり嬉しそうではない。


「穂乃果、どんな服が良い?」


「…………」


 フリルがいっぱい付いた服や、穂乃果の好きなキャラクターが描かれた服だっていっぱいあるのに、なかなか選ぼうとしない。


「今日は穂乃果が好きなのを選んで良いんだぞ?」


 前に俺が買ってきた、ネズミのキャラクターが胸の部分に小さく描かれたトレーナーはお気に召さなかったらしく、部屋着ですらあまり着てくれないから、今日は穂乃果に選ばせようと思ったのに……


「パパ、おなかすいた!」


「えっ…… それじゃあ先にご飯食べに行く?」


「うん!」


 時間は…… 十一時過ぎか。

 お昼には少し早いが、お腹が空いているならフードコートが人でいっぱいになる前に食べた方がいいか。


「じゃあ行こっか」


「わーい! ほのか、おこさまランチがたべたーい!」


 あははっ、ちょっと機嫌が良くなったみたいで安心した……


 そしてフードコートに向かって二人で手を繋ぎ歩いていると……


「あっ! ……お兄、さん?」


「えっ? あっ……」


 向かい側から歩いてきた、大きなサングラスをかけた小柄で茶髪の女性にいきなり話しかけられた…… って、よく見たらモミジさんじゃないか!!


「あはっ、やっぱりぃ…… って、お子さんがいらっしゃったんですねー」


「あ、は、はい…… 娘の穂乃果です」


 うわぁぁぁっ!!  ど、どうして休みの日にこんな大きなショッピングセンターでバッタリ出くわしてしまうんだよー!! 

 しかも穂乃果と一緒にいる所を見られた!


『あはっ! ほら、お兄さん…… 赤ちゃんみたいに甘えていいんですよ……』


 あぁ…… なんか恥ずかしい!!


 明るい柄のチェックのダボっとしたシャツに、黒のキャミソール、それにムッチリとした足をこれでもかというくらい出したホットパンツと…… ラフだがオシャレな格好をしたモミジさん。

 穂乃果にはなんて紹介すれば……


「穂乃果ちゃんっていうんだぁー、お姉さんはパパのお友達の『葉月はづき』っていうんだぁ、よろしくねー」


 は、葉月!? モミジじゃないのか?


「……あれはお店での名前ですよ、源氏名ってやつです」


 うっ…… 穂乃果に聞こえないようにと、俺の耳元に顔を近付けて話すモミ…… じゃなくて葉月さん。

 フワリと葉月さんが付けている香水の良い匂いがして……


『あっ、お兄さんっ! あたしも…………』


 またの事を思い出しちゃったじゃないか!


「…………」


「穂乃果? ほら、お姉さんに挨拶しないと……」


「…………」


 どうしたんだ? ポカーンと口を開けて葉月さんを見つめているけど……


「あはっ、緊張してるのかなぁ? こんにちわ、穂乃果ちゃん」


「……かわいい」


「……えっ?」


「おねえさん、かわいいー! ほのかもこんなおようふくきてみたーい」


「「えぇっ!?」」


 こ、こんな露出の多い服は…… パパ、穂乃果には着てもらいたくないなぁー!


「あはっ、ありがとう穂乃果ちゃん」


「ねぇねぇ! そのおようふくはどこでかったのー? ここでうってる?」


「これはね、ここでは売ってないんだぁ」


「えー…… そうなんだぁ……」


 ほ、穂乃果 ……もしここで売っていると言われていたら『パパ、買って!』って言われていたかも! 良かった…… 売ってなくて。


 このまま服の話を続けていたら『そのお店に行って買う!』と言われかねないので話題を変えないと……


「モミ…… 葉月さんは何か買いに来たんですか?」


「いえ、あたしはこれといって目的はなくて、休みで暇だったので適当にぶらぶらしていただけですよ、お兄さん達は……」


「あっ……」


 穂乃果に友達だと紹介しているのに『お兄さん』は変だよな…… 『葉月』って名前だと教えてもらったんだし、俺も教えないと。


「……木下大樹です」


「はぅっ! ……もう、あたし耳が弱いんですから、いきなり耳元で囁かないで下さいよぉ、あはっ! ……分かりました、大樹さん」


 なっ!? 穂乃果に気付かれないようにと思って、さっき葉月さんに耳打ちされたから真似をしただけだったのに…… 変な声を出すから、またまた思い出しちゃう……


「大樹さん達は買い物ですか?」


「はい、穂乃果の服を買いに来たんですが、気に入る物がなかったらしくて…… その前にお腹が空いたと言うのでフードコートに向かっていた所です」


「へぇー! そうなんですかぁー」


「パパとおこさまランチたべるの!」


「そうなんだぁ、良かったねー」


「おねえさんもいっしょにたべようよー」


「「……えっ!? い、一緒に? ……あっ」」


 穂乃果がビックリさせるようなことをいきなり言うから、ハモってしまったじゃないか。


「……ぷっ! あはっ! 大樹さんとあたし、ハモっちゃいましたね」


「は、ははっ……」


「ねぇ、パパー、いいでしょー? おねえさんとごはんたべたーい! パパー! おねがーい!」


 わがまま言ったら駄目だよ…… と言いたいところだが、穂乃果に可愛くおねだりされるのに俺は弱いんだよ……


「葉月さん、良かったら一緒にご飯食べませんか?」


「えっ、良いんですか…… その、奥さんとか……」


「…………シングルファーザーなので、心配はいりませんよ」


 そうだよな…… 休みの日に子供を連れて歩いていたら、普通なら母親も一緒にいるんじゃないかと思われるよな。


「ご、ごめんなさい! ……それならご一緒させてもらってもいいですか?」


「わぁーい! パパ、ありがとー!」


 申し訳なさそうに謝っている葉月さんと、ピョンピョンと飛び跳ねて喜んでいる穂乃果。


「葉月さん、謝らなくても大丈夫ですから、気にしないで下さいね ……ほら、穂乃果もあまりピョンピョンしていると転ぶよ? ……じゃあ行きましょうか」


 そんな二人と一緒にフードコートを目指して歩き出した。

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