彼女との出会いは、大人のお店でした 2
「俺の方の女の子は大当たりでしたよ! ああ、また来たいっす……」
「あ、あははっ、良かったね……」
「木下さんの方はどうだったんすか?」
…………
『こんな風にされるはどうですか?』
『元気になぁれ…… あはっ! まだ大丈夫そうですね』
『…………お兄さんのお好きな時にどうぞ』
…………
「うん…… まあ…… 良かったよ」
「はははっ! 木下さんも気に入ったみたいっすね! また行きましょうよ、来週とか」
「無理に決まってるだろ、今日だけだよ」
確かに良かったけど、だからといって穂乃果と過ごす時間を削ってまで行きたいとは思わない。
そして草薙くんと別れ、穂乃果を迎えに行くために実家へと向かい歩き出した。
楓との離婚後、穂乃果と生活するためには母の手を借りなければ厳しい時があると思い、実家の近くに引っ越しをした。
俺には父親がいないので母は実家に一人で暮らしているし、妹は結婚して地方に移り住んでいるから、どちらにせよ母の様子を頻繁に見に行かなければならないと思っていたし、丁度良かったのかもしれない。
前は楓が頻繁に俺の実家に顔を出してくれていたから心配なかったが…… そう考えると楓にはかなり負担をかけていたな。
だから不倫に走ったのか……
『お兄さん…… こうしたら疲れが癒されるらしいですよ?』
な、なぜ俺はモミジさんを思い出しているんだ!? 母性が詰まった二つの大きな塊に顔を埋めるように言われ、そのまま抱き締められたからか?
……確かにあの大きな塊には癒し効果はあったけどな。
そんなことを考えているうちに実家に到着した。
時間はもう二十三時になりそうだったので、そっと玄関の鍵を開けて実家に入ると
「あら、おかえり大樹」
「母さん、起きてたのか、今日は穂乃果の面倒を見てくれてありがとう…… 穂乃果は?」
「さっきまで『起きてパパを待ってる!』って言ってたんだけど、待ち切れずに寝ちゃったわ」
「そうか……」
そして茶の間の奥にある襖を開けた先の和室を覗いて見ると、布団で寝ている穂乃果の姿が見えた。
「……ただいま、遅くなってごめんな」
寝顔を見つめそっと頭を撫でると、穂乃果はくすぐったそうに頭を動かし寝返りをうった。
そして起こさないように布団をかけ直した俺は音を立てないよう和室から出た。
「母さんはもう寝るけど、どうするの?」
「穂乃果も寝ちゃってるし…… 悪いけど今日はこのまま泊まっていってもいいかな?」
「ええ、実家なんだから大樹の好きにしなさい…… あっ、穂乃果ちゃんと一緒に寝るつもりなら風呂に入りなさいよ? ……匂うわよ」
「っ!? わ、分かったよ……」
な、何だよ! その変な奴を見るような目は! ったく…… シャワーは浴びたんだけど匂うのか? ……もしかして最後に抱き締められたから、モミジさんの香水の匂いが服に付いたのかな?
…………
「パパー、おきてー! おしごとおくれちゃうよー!」
うっ、うぅん…… もう…… 朝か?
「パパー! おきて、おきてー! ……こうなったらぁ…… えーい!」
「ぐふぅっ!! ……ほ、穂乃果ぁ、パパのお腹の上にドスンと座らないでぇ」
「パパがおねぼうさんだからわるいんだよ! ばぁばがごはんだって! おーきーてー!!」
「こらぁ、パパの顔をペチペチしないで…… はいはい、今起きるから…… おはよう穂乃果」
「えへっ、おはようパパ」
朝から元気に寝ている俺にイタズラをして楽しそうに笑っている穂乃果。
顔は昔写真で見せてもらった楓の小さな頃とそっくりで、でも目だけは俺に似て少しタレ目気味な…… 俺の天使で最愛の娘だ。
きっと将来美人になるが…… 嫁には出さないと決めている。
それを楓に言ったら『もう! 大樹くん親バカ過ぎ!』と笑われた事もあったっけ……
はぁ…… 朝からまた思い出してしまった。
実家で三人で朝食を食べ、穂乃果を保育園に連れて行くために一度俺達の住む家へと帰った。
そして帰ってすぐに、穂乃果が保育園に着ていく服を選んでいたのだが……
「穂乃果、そのお洋服…… 小さくないか?」
「だいじょうぶ! きょうはこれをきていくの!」
穂乃果が選んだのは、楓が買ってきた袖や裾にフリルが付いたピンク色のシャツ。
だけど今の穂乃果が着ると少しピチピチで動きづらそうなんだよ。
俺的にはもう着れないと思っているのだが、穂乃果は頑なに『まだ着られるから大丈夫』だと言う。
さすがに勝手に捨てたりしたら穂乃果に怒られてしまうからそんな事はしないが…… どうしたものか。
「今度パパと一緒にお洋服を買いに行こうか」
「……うん」
穂乃果、そんな嫌そうな顔をしないでくれよ……
穂乃果を保育園に連れて行き、そのまま俺は会社へと向かう。
弁当を作る時間がなかったから昼は食べに行くとして…… あそこにあるコンビニで飲み物を買って行くか。
んっ? 今コンビニから出てきた人、どこかで見たことあるような気がするな…… ここじゃ遠くてハッキリと顔が分からな…… あぁっ!!
身長が低く丸顔、白いカーディガンにミニスカートと少し下半身の露出が多く、ムチっとした足が見えている。
そして盛り上がる胸元に、セミロングの少しウェーブがかかった茶髪…… あれって、モミジさんじゃないか?
マズイと思って慌てて左の脇道に入るよう曲がり、モミジさんが出てきたコンビニを避けるルートに変えた。
……この辺は飲み屋や大人のお店がある場所から電車などで移動しないと徒歩では少し距離がある地域だし、まさかモミジさんはここら辺に住んでいるのか?
『……スッキリしましたか?』
昨日お世話になったばかりで出くわすのは恥ずかしい! ……向こうは俺みたいなお客さんの一人を覚えているか分からないけど……
『お兄さんになら特別に、うーんとサービスしますから』
そう言われた手前、覚えられている可能性が高い…… もう二度とお店に行くつもりがないから避けた方が良さそうだ。
そして俺はコンビニに寄るのを諦め、周りを少し警戒しながら小走りで真っ直ぐ会社へと向かった。
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