彼女との出会いは、大人のお店でした 1
飲み会が終わると同時に逃げるはずだった。
だが、草薙くんにがっちりマークされていて……
「木下さん! どこ行くんすか、こっちこっち!」
「いや、俺は本当にいいから…… ちょっ、ちょっと!」
肩を組まれ、ズルズルと引きずられるように飲み会をしていた居酒屋がある場所から…… 少し離れた怪しいネオンがピカピカとたくさん光る通りまで連れて行かれた。
「木下さん、そんなに嫌なんすか? 分かりましたよ、じゃあ今日は……」
おっ、諦めてくれるのか?
「本番NGな所にしておきましょう!」
「草薙くん!?」
そして、急に方向転換した…… と思ったらグイっと引っ張られ、目の前にある店へと入ってしまった。
『にゃんにゃん倶楽部』
入口の看板にはそう書いてあり、小さなカウンターにはやる気のなさそうなおばちゃんが座っていた。
「すいませーん、二名なんですけど今大丈夫っすか?」
「あー…… 大丈夫だよ、ちょっと待つかもしれないけどいいかい?」
「大丈夫っす! じゃあ木下さんから好きな女の子を指名していいっすよ」
「えっ!? そう言われてもなぁ……」
もうここまで来たら諦めるしかないと腹をくくったが…… おばちゃんが見せてくれた写真じゃよく分からない。
「木下さんはどんな女の子が好みなんすか?」
好み、と言われてパッと思い付いたのは…… 楓の姿。
背が高くスレンダーで、胸や尻は薄めだが足も長くモデルのような体型…… 美人だがキリっとしたつり目気味の目が印象的な…… だから……
「背が小さくて…… 少し肉付きが良い女性…… かな」
全く違うタイプの女の子じゃないと…… どうしても楓の顔がちらついてしまいそうだ。
「じゃあお兄さんはこの『モミジ』ちゃんって子が良いと思うよ」
モミジ…… この
簡単に書いてあるプロフィールがあり、身長が低めな胸が大きな
写真は口元が隠れているし、実際にはどうか分からないけど、写真を見る限りでは可愛らしい顔をしている印象だった。
「もう一人のお兄さんはどうする?」
「あー、じゃあ俺はこのミカンちゃんって子でお願いします!」
草薙くんは即答で、いかにもギャルって感じがする金髪な女の子を選んでいた。
「じゃあ順番が来たら呼ぶから、待合室で待っててね」
そして俺達が案内された待合室に入ると、先に来ていた客が雑誌を読みながら待合室のソファーに座って待っていた。
俺達も空いている所に座り順番を待つ。
するとすぐに客が呼ばれて待合室から出ていった。
その背中をチラリと見て、姿が見えなくなって二人きりになったのを確認したと同時に、俺は深くため息をついた。
「木下さん、まさか緊張してるんすか?」
「……当たり前だろ? こういう所は初めてなんだよ」
「あははっ! 大丈夫っすよ、初めてだって言えば女の子が優しくサービスしてくれますから!」
そういう問題じゃないんだよ……
まあ、まだ三十歳だし俺にだってそういう欲はある。
だけど…… よく分からないが、悪いことをしている気分になってしまうんだよ……
「モミジちゃんを指名したお兄さん? 準備出来たのでこちらへどうぞ」
「へへっ、木下さん、楽しんできて下さいね!」
「…………」
そして待合室を出て、カウンターの裏側にある、カーテンの前まで案内される。
「じゃあごゆっくり」
そしておばちゃんがカーテンを開けると……
「モミジです、よろしくお願いしまーす」
目の前には写真で見るよりも可愛らしい…… 背の低い女性が俺に笑顔でペコリと頭を下げた。
「よ、よろしく……」
二十代半ばくらいの女性…… セミロングくらいのウェーブがかかった茶髪にクリクリとした大きな目でちょっと丸顔。
お店の衣装なのかダボダボでピンク色のパジャマのような上着だけを着ていて、ボタンをしっかりと留めていないから大きな胸の谷間がチラリ、気まずくて視線を下にずらすと、少し太めの健康的な生足が出ていた。
「こちらへどうぞー、足元が暗いんで気をつけて下さいねー?」
そして彼女に手を引かれて薄暗い廊下を進み、部屋へと案内された。
中に入ると部屋は狭く、まずベッドと大きな鏡が目に入ってきた。
あとはタオルや彼女の私物らしきバッグなどが置かれているだけの…… いかにもそういうことをするだけに使われる部屋っていう感じがした。
「お兄さん…… もしかしてこういう所に来るの初めてですか?」
「えっ? あっ、はい……」
「あはっ、やっぱりぃ! それなのにあたしを指名してくれたんですね…… ありがとうございますぅ…… んっ……」
さっき会話をしたばかりなのに、流れるようにごく自然に、まるで恋人かのように抱きついてきてキスをされた…… 少し背伸びをし、俺の首に腕を回して顔を近付ける…… これってもうプロのサービスが始まっているのか?
しかも…… 手…… 手が! ズボンの上から俺のをさりげなく、そして優しく撫でている!
「ぷはぁっ…… 六十分コースですもんね? じゃあ早速脱ぎ脱ぎしてシャワーを浴びちゃいましょ? 時間いっぱいたーっぷりサービスしてあげますね」
プロのサービスか…… き、緊張する……
…………
…………
「もうそろそろ時間なので、最後にシャワー入っちゃいましょう?」
「は、はい……」
「あはっ、さすがに元気なくなっちゃいましたね、頑張り過ぎたかなぁ?」
洗ってもらいながら先ほどまでのことを思い出す…… 久しぶりだからというのと、プロの技も相まって、時間いっぱいがっつりと搾り取られてしまったな……
サービスもとても良くて…… まるで本当の恋人かのように…… 最後までベタベタしながら優しく、時には激しくサービスをしてくれた。
もちろん最後までするお店ではないのでそれはないが、それでもモミジさんの巧みな技は凄くて、詳しくは話せないが…… どれも初めての体験だった。
とても気持ち良い思いをさせてもらって、ありがたいのだが……
「……お兄さん?」
やっぱり…… 何故か悪いことをしている気分になってしまう…… 独り身だから問題ないはずなのに……
「…………」
そんな事を考えていると、シャワー中にモミジさんが抱きついてきた。
「お兄さんを少しでも癒せるように頑張っちゃいました…… これはお兄さんにだけの特別サービスですからね?」
……えっ?
「そんな頑張ったあたしに…… 最後にお兄さんの方からキスをして欲しいです」
これもプロとしての接客なのかな? でも……
この接客を受けた一時間弱、ずっと気になっていたことがある。
モミジさんはプレイ中以外は常にニコニコしていた。
ただ…… 笑顔なんだけど、目が……
すべてを諦めたような、まるであの日の楓のような目をしていて、俺はそれが凄く気になってしまった。
だからそんな目で見つめられお願いされたら…… 言うことを聞いてあげたくなってしまった。
「んんっ…… あはっ、ありがとうございます…… また来て下さいね…… お兄さんになら特別に、うーんとサービスしますから」
……そんな事言われたらまた来てしまいそうだ。
それもまた来店してもらうための技なんだろう…… 『さすがはプロだ』と思いながらも、モミジさんとの過ごしたこの一時間はずっと忘れられないだろう、と顔に出ないよう心の中で思った。
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