街に溢れるデジタルサイネージ
寒さが増していく一方で、街もますます賑やかになっていった。クリスマスソングが通りに響き渡り、店のショーウィンドウには贈り物が並べられている。カラフルな電飾が木々に巻きつけられ、夜になるとその光が一層鮮やかさを増す。人々の足取りも、どこか急いでいるように見えた。 そんな中、僕は何も変わらない日々を淡々と過ごしていた。特に何か予定があるわけでもなく、ただ街を歩き回る。いつものスーパーに立ち寄って、必要最低限の買い物を済ませる。パン、牛乳、少しの野菜。それ以上は特に欲しいものもない。
店内では、クリスマスの装飾が目立つようになった。レジ近くにはクリスマスケーキの予約案内が並び、目に入るすべてがこの時期の特別感を演出していた。人々は楽しそうにショッピングカートを押し、家族や友人への贈り物を選んでいる様子が見受けられる。けれど、僕にはその空気がどこか遠いものに感じられた。
レジに並び、周囲の賑わいをぼんやりと眺めていると、ふと小さなクリスマスツリーが目に入った。店の隅に控えめに飾られたそれは、子供たちが楽しそうに触れてはしゃいでいる。それを見て、僕は少しだけ羨ましさを感じた。家族で一緒に過ごすクリスマスの様子がぼんやりと浮かび上がってきたのだ。 ツリーに飾りつけをし、プレゼントを期待しながら眠りにつく。そこにいる自分は、きっと幸せなんだろうな。もしかしたらの過去を空想し、思いもよらないところでひっそりとクリスマスを感じることができた。
買い物を終えて店を出ると、冷たい風がまた顔に触れる。街の賑わいの中で、僕はひとり歩き続けた。周りにはカップルや家族連れが楽しそうに過ごしている姿が見えるが、僕はその中に溶け込むことはなかった。ただ、黙々と足を運んでいく。 ふと、道端に立ち止まると、何かが目に留まった。向かいのビルの壁に、大きなスクリーンが取り付けられていた。デジタル保存を宣伝する広告が流れていたが、それ自体はもう珍しくない。けれど、画面の片隅に映った顔が、僕を足止めさせた。画面に映ったのは、あの女性だった。僕は目を凝らし、スクリーンを見つめた。しかし、次の瞬間には広告が切り替わり、クリスマスセールの映像が流れ出していた。あの顔は、ただの偶然なのか、それとも――
しばらくその場に立ち尽くしていたが、結局それ以上は何も起こらなかった。寒さに負け、僕は歩き出したが、何かが胸の奥に引っかかる。それが何なのかは、まだ自分でもよくわからない。ただ、彼女が一体何者なのか、その謎が少しずつ深まっていくように感じた。 街を歩いていると、ふと違和感を覚える。どこからともなく視線を感じるのだ。振り返ってみても、ただ人々が行き交うだけで、特に怪しい動きは見えない。それでも、何かが僕の背後で起こっているような不安感が拭えなかった。 その日の夜、家に帰ってからも、彼女の顔が頭から離れなかった。なぜ、あの広告に彼女が映っていたのだろうか?それが偶然の一致なのか、何か意図されたものなのか。冷たい夜風が窓を叩く音が、僕の不安をさらに煽った。
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