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 ……六甲山を景勝地にしたのって、日本人じゃなくて明治時代のイギリス人なんだよな。





 そんなどうでもいいことが、死体を掘り出している俺の脳内に浮かんだ。





 埋めた場所なんかいちいち覚えちゃいねーよ、と思ったけど、その夜の俺はやけに勘が良く、暗闇の中でも自分が死体を埋めた場所を懐中電灯一本で確認することができた。





 掘り出した死体は当然防腐処理も行われていないため、ひどい臭いがした。

 腐敗現象があちこちで起こっていることが、懐中電灯に照らされた青白い肌だけでわかった。

 目や耳などあちこちの穴からも血が抜けている。




(この穴からも血が出てるぞ……)




 そう思って確認して。

 俺は二度見するように懐中電灯をその場所に向け直した。







 服と胸をぶち抜く、二つの穴に。







「撃たれた跡……??」





 どう考えても、致命傷だった。

 俺に轢かれて死んだわけじゃなかったってことか……?

 でも、じゃ、この銃創は誰が……?

 まさか……





 ヴ―……

     ヴ―……





 バイブ音が聞こえた。

 処理するの忘れてた、と思いながら、俺は死体のポケットの中からスマホを取り出す。




『あの、平田さん? 少し待たせすぎでは。道日警部を蹴ってこちらと組むとおっしゃったのはそちらのはずでしょう?』




 聞こえてきたのは、女性のやや低めの声。

 藤乃よりも若干フォーマルな口調だが、発音に若干の訛りがある。

 多分、少なくとも生まれは日本じゃない。

 でも組むって、誰と?

 死体こいつとか?




『台北への船のチケットはとっておきましたのに、もうすぐ船は出てしまいますよ。例のUSBの隠し場所に困っているなら、人目に映らない場所に隠せばいいでしょう。そう例えば、体内とかに』





 例のUSB……?





『あなたまさか、一人で【リュウチェンヴォの遺産】を奪い取ろうと……………………………………』

 一瞬の間。

『………………………………こいつ……………………!!!』

 ピ。





 あちらが話している途中だったはずなのに、通話を切られた。

 息遣いで、死体の主―――平田じゃなくて俺であることがバレたのだろう。





 【例のUSB】。

 【隠し場所に困ってる】。

 【リュチェンヴォの遺産】……

 銃創を見るまでもなく、平田がカタギの人間じゃないことは明白だった。

 その男が、【道日警部を蹴った】。

 そして、今こうやって死体になっている。





 ……なるほど。

(あいつ、やったな…………)

 俺を殴ってきた大柄の男の殺気ですぐにわかる。

 藤乃あいつは、だ。 

 そして今、俺は平田と同じように、あの女に取引を持ち掛けられている。

 俺の命も、彼女の掌の上ということに他ならない。

(…………まともに取り合っても、生涯をドブに捨てるようなもんだな)


 




 生涯そんなことしたことないのでこういう言葉が適切かはわからないが、俺はことにした。

 県警の権力者の娘にしてエリート警官が、何者かを撃たせた。

 この事実と、この死体を、俺は俺自身のために最大限利用するしかなかった。

(………………………………あとは、いざという時の切り札も……だな)






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