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昨日俺は、兄貴から借りた中古車でバイト先から表六甲ドライブウェイを疾走していた。
その日の日付が変わるまでに、六甲山中にあるホテルに向かい、渡されたブツをある男に渡さなければならなかったからだ。
新開地にある職場のバイト仲間から紹介され、なんとなく始めて見たら想像以上に儲かったので続けていたブツの運び屋の仕事。
報酬が悪くない分、約束時刻に遅れるなどの失敗をした者は相応のケジメをつけなければならないリスキーな仕事でもあった。
不義理をやらかした結果、山中で埋め合わせをさせられた奴を、俺は何度も見てきた。
元々俺は時間を正確に守るタイプなので、連中みたいなヘマはよほどのことがない限り大丈夫だろう、と思っていた。
しかし、その日は色々な不確定要素が重なった。
ヤクザの抗争だか爆破テロだかしらないが、とにかくつい数時間前に、神戸市内で白昼堂々道路を封鎖しなければならない状況が起こった。
おかげで六甲山への道までも封鎖され、市内はおろか郊外に向かう道路までも延々と長い渋滞の帯が敷かれてしまった。
人目に付くと何かと不利な職業だし、電車やバスも使えない。
そして俺たちの雇い主の性格上、何か不手際があった場合はあちら側は一切の責任を俺たちになすりつける。つまり時間変更は許されない。
豪雨の中で視界も悪く、俺自身も焦燥していたので、周りに気を遣う余裕が一切なかった。
そして、六甲山中の道を疾走中。
一瞬のわき見運転の結果。
通行人を、撥ねてしまった。
俺が様子を確認しに急停止した車を出て近づいた時には、その男はすでに息絶えていた。
轢いてしまった、という罪悪感と、殺したことがバレたらどうしよう、受け渡しの時間に遅れたらどうしようという、焦燥。
極限の状況下で本能が選んだのは、後者だった。
俺は死体を大急ぎで車のトランクに隠し、とりあえずその場を離れた。
幸い周りは人気のない山道だったので目撃者は(俺の見る限り)一人もいなかったし、雨の中で死体の血を洗い流すことも出来た。
そこから先は、法定速度の倍以上の速度で車を走らせていたことしか覚えていない。
ともあれ俺は取引場所のいつものホテルに立ち寄って、約束のブツを取引相手のいつもの男に渡した。
車のバンパーが破損しているのを見られたくなかったので、その時はそのままその場をその車で離れた。
いつもならブツと引き替えに金を渡され、一息つくところなのだが、その時の俺は金を渡された後もトランクの中で横たわっている肉塊をどう処理するかで頭がいっぱいだった。
辺りに誰も人がおらず、舗装もろくにされていない山道まで逃げ込んだところで出した決断は、死体を埋めることだった。
山荘から少し移動すれば人の足音も聞こえない場所だったので、発想から実行に移すまでは早かったし、実際埋め切るその瞬間まで人に見つかることはなかった。
付近に湖のある山だったので、車も廃棄しやすかった(俺じゃなくて兄貴の車ってことはさておき)。
その後、実は俺が轢き殺した男は闇社会の情報屋を務めるサイバーテロリストであり、指名手配中であったという事実をニュースで知った。
なんとかこのまま時が経つのを待って、よくある失踪の一つとして風化してくれるないだろうか、というかそれよりこれから運び屋の仕事どうしよう、というか兄貴に会った時どう言い訳しよう、と色々な考えが脳内で渦巻き、とりあえず圭子に会って相談でもしようと思っていたところに。
彼女からその電話が来た。
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