第10話

映画デートの帰り道。電車の中、舞香と花音は並んで座り、スマホをいじっていた。人混みの中、会話はできないけれど、メールでやり取りを続けていた。画面に目を落としながら、二人の肩は自然と触れ合い、スカートが重なるほどの距離だった。


花音

「今日の映画、どうだった?」


舞香

「うーん、もっと明るい話かと思ったけど、主人公の彼女が死んじゃったし、主人公も最後には死んでしまって…物語の行き先が分からなくて心配になった。」


花音

「優しいね、舞香。」


舞香は一瞬、驚いた表情を見せたあと、疲れたように否定の言葉を返す。


舞香

「違うよ。多分、私はあの映画みたいに生きられないからだよ。」

「優しい人って、きっと賢くて、現実をちゃんと見てると思うの。私はいつもどこかに行きたくなるだけ。」


花音

「どこかに行きたい?例えばどこ?」


舞香は少し視線を下げ、スマホの画面を見つめたまま指を動かす。


舞香

「遠いところ…かな。」


花音

「天国とか?」


その言葉に、舞香は短く頷いた。


舞香

「うん。」


花音

「え、天国?死ぬ気なの?」


少し驚いた表情で、花音は隣の舞香を覗き込む。


舞香

「違うけど…」と、舞香は曖昧な返事を返しながら、スマホを閉じる。


電車の揺れに合わせて、二人は少しずつお互いに寄り添いながら、言葉の隙間に漂う静かな感情を共有していた。


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