第3話

放課後、舞花はいつものように静かに廊下を歩いていた。いつもなら夏音と一緒に帰る時間だ。だが、その日、彼女の目に飛び込んできたのは、他の女子たちと話す夏音の姿だった。


「あれ…?」舞花は足を止め、少し離れた場所からその様子を見つめた。


夏音はクラスの人気者、明るくて誰とでも仲が良い。そんな彼女が他の友達と話すのは普通のことだ。けれど、その日の夏音は、舞花が今まで見たことがないほど楽しそうに笑っていた。


「…あんな笑顔、私には見せたことないのかな?」


舞花の胸がぎゅっと締め付けられるような感覚が広がる。夏音の無邪気な笑顔が、なんだか遠く感じられた。まるで自分がそこにいないような、置いてけぼりを食らったような気持ち。


彼女は他の女子と何を話しているのだろう?どんなに楽しいことがあって、あんなに笑っているのだろう?


舞花は、ふと目をそらしてしまった。自分がこんな感情を抱くなんて思ってもみなかった。いつも一緒にいて楽しいと思っていた夏音。でも、彼女には自分以外にもたくさんの友達がいて、こうして自分の知らない世界で生きているのだ。


「…私、何を期待してたんだろう」


小さくため息をつき、舞花はゆっくりと歩き始めた。夏音の笑顔が頭から離れない。その明るい笑顔に嫉妬している自分がいることに気づき、少し自己嫌悪に陥る。


その日は、夏音に声をかけることなく、舞花は一人で帰ることにした。


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