3日目

【三日目】


「さみぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜‼︎ったく、黒崎のやつ、こんな朝っぱらから何すんだよ。」

「あ、お待たせ!よぉし、道具は持ってきたから、いくぞ!」

「どこに?」

「海に決まってんだろ!今日の目標は釣りだ!100匹釣る!」

「お前、そんなバカだったっけか?」

「うるさないな!ガキの頃はできなかったんだよ。親の期待やらなんやらで。」

「あんたも大変だったんだな。」

「お前が言うな!」



「えええええここで釣んのかぁ黒崎ぃ。本当に釣れんのかぁ?魚じゃなくてゴミ100匹釣る気かお前。」

「しょうがないだろ!まさか、こんなのになってるとは思わなかったんだよ!昔はもっと綺麗で!」

「そりゃあ昔の話だろ。砂浜とか海とか掃除してくれてた人たちもう爺婆だけだしなぁ。」

「く、しょうがない。片付けるぞ!」

「は?片付けるって何を?」

「このゴミに決まってんだろ!」

「あんた、正気か?」

「うるさい!そう言うのは捨てたやつに言ってくれ!大体こんな綺麗な自然を汚そうだなんて考えが理解できない。」

「へーへーそうですか。俺、帰っていい?」

「っ!お前もそうだろ。捨てる側の人間なんだろっ!いいよ、僕1人でやる。」


黒崎はせっせと手近なペットボトルやらゴミやらを集めては魚を入れる予定だったクーラーボックスとかに潰して、分別して詰め始めた。



「あああ分かったよやればいいんだろ⁉︎」


俺は黒崎に並んで、どこぞのクズが捨てた塵をひろいはじめた。




3時間後。

ようやく日が昇り始めた。


「あんた、お人よしなところはほんと相変わらずだな。」

「なんだよ急に。照れたのか?」

「うっせぇな。どこに照れる要素あるんだよ。」

「それもそうか。」


くだらない会話を続けながら、俺たちはせっせと集めたゴミを分別する。


「にしても果てしねぇな。こんなに拾ってんのにまだゴミがあるぞ。」

「そういうもんだよ。世の中ってのは。良い方にしようと思っても、1人が変わるだけじゃ何も変わんない。それでも変わらないよりマシだって思ったやつが、心が壊れてくんだよ。」

「それがお前か。」

「……黙って作業しろ。」


6時間後。


「おお、だいぶ綺麗になったな。お前もやるじゃないか。」

「ああああ疲れたぁ。腹減ったぁ。帰りてぇ。」

「なんだよ褒めてやってんのに。しかし、腹が減ったのは事実だ。一回帰るぞ。」

「どこに。」

「僕の家。」

「はぁ?そんなんお断りだ。」

「なんでだよ。」

「なんでもこうもねぇよ!気まずいだろ!向こうの両親もお互い。」

「安心しろよ。親はもういねぇからな。」

「……死んだのか?」

「わざわざ聞くことかよ。少し前に交通事故でな。」

「妹は?」

「意識不明の重体。いつ目覚めても、いつ死んでもおかしくないって言われている。」

「なんだそれ。中途半端な医者だな。」

「まぁな。」


そう言って、俺たちは黒崎の家へと向かった。


「はい。飯。」

「うおぉ。黒崎、あんた飯なんて作れたんだな。」

「失礼だな。それぐらいできるよ。」

「へぇ。いただきます。」

「お前、いただきますとかごちそうさまとかはちゃんと言うよな。」

「そうか?」

「そうだよ。そう言うとこだけ律儀だったよなぁ。」

「なんだよ、だけって。」

「実際そうだろ。」

「…。」


「明日は何するつもりなんだ?」

「そうだなぁ。遊園地でも行くか。」

「男2人でか。」

「なんだよ。僕たちに誘えるような可愛い女の子なんていねぇよ。」

「そりゃあ、そうだわな。」


2人で食器を片付けながら他愛もない会話をする。


なんだか、こう言うのって不思議だな。あったけぇ。


「…黒崎。改めて、悪かった。この通りだ。」

「いいよ、もう。許しはしねぇけどな。だけど、昨日、今日お前と過ごして、そこまで悪いやつじゃなかったんだなって分かったよ。」

「俺がいなくなった後の奴らはどうしたんだ?」

「ああ、あいつらも東京に行ったよ。でも、何人かはもう死んでるな。」

「はぁ?なんで?」

「さぁ。不慮の事故とか、殺し屋に殺されたとか、色々だな。」


殺し屋、のワードにぴくりと反応しつつも、平然を装う。


「それじゃ、俺、そろそろ戻るわ。」

「?どこに。」

「東京。」

「はぁ?お前。約束忘れたのかぁ?残りの時間は僕のものだ!」

「つってもする事ねぇだろ。」

「それは、そうだけど。」

「んじゃ、今度こそ元気でな。黒崎。死ぬんじゃねぇよ。」

「ああ、ああわかったよ。しなねぇよ。無理にでも足掻いてやる。そんで、大富豪になって、お前のこと見下してやっからな。」

「その頃は俺、死んでるよ。」

「…安心しろ。葬儀はしてやる。」

「はぁ?いいよ、そんなことしなくて。けど、ありがとな。それじゃ。」

「おう。」


俺は、黒崎の家を出た。

故郷の街を出た。


清々しい夜の匂いが、辺りを覆い、ひんやりとした空気が、俺の頬を撫でた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る