4-16 盗み聞き
壮亮が新と話していた頃、二人の会話に耳を傾けている男がいた。潮部あたるだ。
逃げている最中に聞こえてきた水の音は、やはり川だった。彼は、川までの道を人目につかないように駆けると、そのまま川へと飛び込んだ。その後、しばらく流されるように泳ぎ、人けのない高架下で川を上がった。
服や手についていた血は、ほとんど水に流されていた。
服が乾くのを待つと、事件現場へと戻った。幸い、追っ手の姿はなかった。
潮部は人を探していた。探し人は、ターゲットの傍らにいた人物だ。彼のあとをつければ、ターゲットの居所がわかると踏んでいた。ターゲットの安否も知れると思った。
そして読み通り、その男は姿を見せた。すぐに気づけなかったのは、服装が違っていたからだ。あのときは派手なシャツを着ていたが、この日は黒のインナーに、ボタンを開けた黒いシャツを羽織っていた。危うく、見過ごしてしまうところだった。
あとを追い、たどり着いた先は病院だった。
男が院内に姿を消したあと、潮部はそのままその場に潜んでいた。
しばらくして、聞き覚えのある声が聞こえてきたかと思うと、男の姿があった。彼は一人ではなかった。彼と同じ年代の男と一緒だった。潮部はひっそりと二人に近づいた。
二人は知り合いではなさそうだった。言い争っているような——片方が一方的に捲し立てるように話している声がした。
会話の中に、「研究に利用した」という言葉を聞いた。「頭に埋め込んだ」とも。
ターゲットの知り合いであろう男は、「二人を死の淵に追いやって」というようなことを口にした。二人の関係性はわからないが、ターゲットのことを話しているのだろうと思った。男は、死んだとは言わなかった。病院に足を運んでいることも、ターゲットの息の根が止まっていないことを意味しているのだろうと思った。
——やつはまだ生きている。やっぱり、仕留められなかった!
憤りながらも、潮部は頭を働かせた。二人は、潮部の話もしていた。正確には、彼の中にいる人物のことを話していた。あの山でのことだ。
すぐに、自分も何かの研究に利用されたのだろうと思い至った。その研究が何かはわからない。だが、そんなことはどうでもよかった。
——頭に埋め込まれているものが、俺の身体を不自由にさせているのか?
確かに以前、意識を失う前に、頭に何か取り付けられているような感覚はあった。確かに覚えている。
それさえなくなれば、自由になれるのだろうか。
——なれる。
声がした。潮部の声に似ていた。
——こんなものがあるからいけないんだ。
また声がした。先ほどと同じ声だ。
潮部は口角を上げた。そうだよな、と言い聞かせる。
やるべきことは決まった。もうとっくに決まっている。あとは、実行するだけだ。今度は確実に——
黒いシャツを着た人物が、病院を出ていく。もう一人の男も、そう時間の経たないうちにどこかへ行ってしまった。
潮部の姿もいつの間にか消えていた。
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