第三章 変調
3-1 異変
異変に気づいたのは、朝食を食べようとしたときだった。
いつものように食パンを食べようと、ラックをのぞくと、そこにあるはずのパンがなくなっていた。食べ切った覚えはない。食べ切ったとしても、補充はこまめにしていたはずだ。もっというと、最近買ったばかりのようにも思う。
仮に食パンを切らしていたとしても、他にパンがあったことを思い出す。職場でもらった、チョコチップの入ったメロンパンを持って帰ってきていたはずだ。こちらも食べた記憶はない。
食べていればゴミがあるはずだと、昴はゴミ箱を覗き見た。半分冗談のつもりだった。が、メロンパンはそこにあった。ただ、思っていたような状態ではなかった。入っていたとしても、中身がなく、袋だけの状態だと思っていた代物は、食べた形跡も、開けた形跡もないまま、丸ごとゴミ箱の中に入れられていた。
賞味期限が切れて、捨てたのだろうかと拾い上げてみると、日付は今日のものだった。
おかしい、と思った。
拾い上げたものの、一度ゴミ箱に入ったものを食べる気は起きず、仕方なくゴミ箱の中にお帰りいただこうとしたとき、またしても目を疑った。牛乳も捨てられていたのだ。これもまた職場でもらったもの。小さな紙パックに入った牛乳だ。これも中身が入ったまま捨てられていた。ストローもついたまま。もちろん賞味期限はまだ先だ。
確かに昨日までは置いたところにあったはずだと、首を傾げながら冷凍していたご飯を解凍する。解凍を待っている間、昴は昨日の記憶をたどってみた。
朝はいつも通り、目覚まし時計が鳴る十分前に起床した。顔を洗い、朝食の準備に取りかかる。準備といっても、棚からパンを取り出し、トースターで焼いて、コーヒーを淹れる程度だ。コーヒーはもちろんインスタント。
昨日、パンを取り出したときには、まだメロンパンは棚にあった。食パンだって残っていた。食べ切ってはいない。確かに見ている。
昨日の朝の段階では、まだゴミ箱には入っていなかったということだ。
食パンの行方も気になったが、これ以上ゴミ箱を漁る気は起きず、諦めた。
さらに時間を進める。
朝食をすませると、昼ごはん用のおにぎりをつくった。いつものように大きめのものを二つ。具は、梅干しとおかかだ。たくあんも忘れない。
変わらず佐々野は、昴におかずを分けてくれた。昴用に、自分のものとは別に用意された弁当を持ってきてくれることもあった。高校生の息子がいて、彼の弁当をつくるついでだと言っていた。
あてにしているわけではないが、ありがたくいただいているのも事実だった。
昨日は、ハンバーグとポテトサラダをもらった。ポテトサラダにはりんごも入っていて、不思議な組み合わせだなと思った。味は悪くなかった。
午後からの仕事も、特に何も変わりはなかったと思う。問題もなく、定時には上がることができた。
夕方とはいえ、昼間と変わらないほど日差しは強かった。日傘や帽子、サングラスをかけている人ばかりが目に入る。アームカバーをしている人もいた。
昴は日除け対策を何もしていない。じりじりと焼ける感覚はあり、肌が赤くなることもあるので、何かした方がいいのだろうと思いながらも、考えることを放棄し、今現在に至る。
自宅までは寄り道をせず、まっすぐ帰った。もちろん遠回りをして。
食材の買い物をして帰ることもあるが、冷蔵庫にも何かしら備蓄があり、週末に買い物をすればいいだろうと算段をつけていた。朝にはパンもあるし、と——
自宅に帰ったあとは、何をするわけでもなく過ごした。テレビはついていたが、見るわけでもなく、音は聞こえるが耳を通ってすぐに出ていった。
そういえば、夕飯前にうたた寝をしていたようだった。気づけば夜の九時を過ぎていた。あまり空腹感もなく、簡単にシャワーを浴びると、一日を終えた。
寝ぼけて捨ててしまったのだろうか。
解凍が終わったことを知らせる電子音が鳴る。パンの謎については、結局わからずじまいだった。
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