第三十九話 爽やかな朝・血生臭い夜

俺は小鳥の鳴き声と兵士達の訓練する声、窓からさす光によって目をさました。

これが所謂朝チュンと言うやつだろうか。緊張もあって体力も使ったのか身体は重いが心は軽やかだった。


隣を見れば愛しの妻がコチラに顔を向けたまま静かに寝息を立てて寝たままでいる様だった。

俺は掛け布団をそっと彼女に掛け直し彼女を起こさないようスライドしながらベッドを抜け出して昨夜脱ぎ捨てたガウンを着る。


窓から太陽の高さを見るにいつも起きる時間より数時間遅い様な気がする。恐らく、セシルあたりが気を利かせて使用人達に言いふくめてくれたのだろう。本当にできた近習だが幼馴染同然の彼に初体験の日を知られていると言うのは顔から火が出そうなほどに恥ずかしい。それでもありがたい事には変わりないのだが……。


そんな事を思いながら姿見の前に置かれた椅子にかけて杯に水を注いでちびちびと傾け、清々しいような気持ちに包まれながら昨日の夜の事を思い出していた。もちろん前世の同人誌などを見て想像していた様な快楽の海というわけではなかったが何処かホッとする様な感覚を感じていた。


これが大人の階段を登ったという事なのかもしれないし、前世からの負い目を解消出来たからなのかも知れない。それにちゃんと好きになれた相手と初めてを迎えることができたというのは当たり前のことの様に見えて幸せなことだなぁと思えた。


俺が物思いにふけっていると布団がモゾモゾと動くのが見える

俺は杯を小机に置いてベッドの方へ近寄るとエリーが布団に埋もれて俺の元々寝てところをペタペタと触っていた。そんな様子を見て微笑ましいなぁと思いながら、反対側を触っているエリーの側に腰掛けた。


エリーは一度ビクッと驚いた様に身体を震わせたが雰囲気から俺だと気がついた様で身体を捻ってこちら側に手を伸ばして来た。俺がちゃんとそこに居ることを確かめる様に触って確認する。俺もそれに応える様にその手を優しく握ると彼女はホッとした様に薄らと笑ってまた寝返りをうって寝息を立て始めた


てっきり起きるのかと思って居たのだがまたスヤスヤと寝息を立て始めたところで(おや?)と思ってしまったが昨日の夜は一生懸命に頑張ってくれて居たので緊張も相まって疲れてしまったのだろう。そう思って俺は起こすのも悪いかなと思いそっと部屋を出た。


部屋を出たところには椅子が一脚置いてあり、セシルがうつらうつらとした様子で座って居た。

「おい、セシル。お前こんな所で何やってるんだ?」

まさか昨夜の情事を聞かれて居たのだろうかと冷や汗をかきながらセシルを揺り起こすとセシルは眠そうに眼を擦り俺と分かるなり慌てて立ち上がった。


「若様!い、いえいえ。私は昨晩から扉の前で宿直していた侍女が若様達を朝になって起こさぬ様に今さっき交代したのです」

「なるほど、そうだったか配慮ご苦労。エリーはまだ起きて居ないからこのままこの部屋で執務をする。適当に午前中分の報告書を見繕ってくれ」

セシルは意外そうな顔をした後にやれやれとわざとらしく肩をすくめて見せて執務室へと駆けて行った



そうして、午前中一杯はエリーの部屋で執務を行い。エリーがちゃんと起きた後に2人で朝食を食べお互いの執務へと別れた。

朝食中エリーは寝過ごしたとひどく恐縮して居たがたまの休日だと思ってゆっくり過ごせればいいと言うと少しホッとして居た。

結構、執務や奥方としての仕事と勉強が激務になっている様だ。家中全体で休日なんぞ作っているほど各方面に余裕があるわけではないが何某かの記念日や周年で臨時の休みを作るのは良いのかも知れない。


いや、しかし……。かの平将門も兵士として招集して居た民衆を田植えや休養として里に帰した所を討伐軍に突かれてしまった。それを考えると緊張状態を維持し続けるのも良くないが民を休養させるのもタイミングが難しい。


そんな事を考えて執務室で腕を組んで悩んでいると部屋にスコットが入って来た

「おはようございます。昨晩はお楽しみだった様ですな」

彼はニヤニヤとしながら軽口を叩くが肩をすくめてかわしておく


「お前の息子も大概だったらしいがな」

「ハハハ、あのボンクラにはキツく言っておきましたがワシの息子ですからなぁ。ともすればあの者の忠誠心は他所に移っている事も念頭に置いておいた方が良いかも知れませんな」

彼はなんて事もない様に快活に笑うとサラッと怖いことを口にする。

だが、まぁあの感じだとその可能性もあるよなぁと思いため息が出てしまう


「まぁ、気になさいますな。あのエン殿…でしたかな。あの者は中々見所がある。上手いことルイ様が取り込んで仕舞えば元の釜に収まったも同然じゃて」

「そんなことが簡単にできりゃ苦労しないさ」

「ハハハ、まったくですな!それでですな。来年に集まる兵士の数の試算なのですが」

彼は腰から石を取り出し机の絵図に並べ始めた


さて、ここからは血生臭い軍事の話だ。しっかり切り替えていくか

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