第四十話 軍備開始

俺はスコットが説明しようとするのを手で制して評定で文官武官を集めた全員での会議にする事とした。


評定の間にはセシル、ハンター、スコット、ブレッド、ヘンリーが集い俺の横にはご意見番としてエン殿が立って居た


「皆の者、夜半にも関わらず参集ご苦労。まずはスコットから我らルカント城の兵力の説明がある」

俺がスコットの方を向いて頷くとスコットは頷き返しコマを置き始めた


「では、コチラをご覧ください。ハンター殿の山賊を取り込んだ開拓が功を奏し開拓村はその他の村と遜色のない水準まで成長して居ます。よって村5つから領民兵を25人ずつ招集して125名、この城からは我がシールズ家を含む125の領民兵、ハンター殿の禿頭衆100名。計350名となっておりまする。城の留守を守る50の兵を残しても300の兵での出陣が可能ですな」


説明を引き継ぐ様に俺は一歩前に出た。

「うむ、父上のフルデリ城からは400の兵が出兵予定だ。義父殿ノーブルどのの兵は600。これで我が家との連合軍は計1300人の大軍勢となる」

今までにない軍の規模に評定の間はざわめきに包まれた。しかし、そこに水を刺す様に声が甲高い声が響いた


「ハーレー殿の軍は約1100人程とされて居ますから兵数では勝っているわけですね。ですが……。皆様は一つ忘れていることがあります」

エン殿はにこやかに絵図の前に出て来て参加者の目線が集まると深々と頭を下げた

「一体、何を忘れているというのです?」

家臣でもない人質風情に口を挟まれた事にムッとしたのかセシルがエン殿を睨みながら問いただした。


「なんて事はありませんよ。ハーレー殿の持つ城は巨大な港を擁しております。つまり、財力は3つの城を糾合してもとても太刀打ちはできませぬ。その財力に物を言わせて傭兵を雇えば少なくとも500の敵兵が増える事は想像に難くありません」

エン殿の言葉にセシルはバツの悪そうな顔をすると眉間に皺を寄せ続けては居たが反論が思いつかなかったのか引き下がった


「なるほどな。そういう訳なら俺たちが傭兵を雇う事もできないな。奴らは金払いのいい方につく。こちらで雇った傭兵が獅子身中の虫となってもマズイ。ヘンリー、城下の傭兵ギルドにはしばらく領外からの依頼を斡旋しない様に指示しておいてくれ。どの位効果があるかはわからんがな」

ヘンリーは頷くとすぐにも評定の間を後にした


「では、エン殿。その兵力差をどうすれば良いと思う」

俺の問いにエン殿はたおやかに口元を押さえて笑うと片眉をあげた

「ルイ様なら如何しますか?」


む、そう来たか。こういう知恵比べは苦手なんだがなぁ。俺は頭をポリポリとかきながら取り敢えずの策を口にしてみる事にした

「兵を無闇やたらと雇うという事は普段目にしない兵士がいても怪しまれない。つまり密偵を送る機会が増える。よって内部からの分裂を狙うしかない」


俺の答えにエン殿は深く頷き笑った

「左様です。付け加えさせて頂けるとするならばさらに敵の村を襲い、民衆の生活を困窮させた後、ハーレー殿が兵士の募集をしているという事を噂で流せば弱兵の民衆が集まり質の伴わない軍を敵に指揮させることができます。質が伴わない大軍など百害あって一利なしですからねぇ」

彼がさらりと追加の意見を出すと今度はハンターが片眉を上げながら腕を組んで納得がいかない様に口を挟んだ

「新参者のクセに随分とまぁおしゃべりだなぁ。えぇ?」

彼は口の端に笑みを浮かべてはいるが眼は笑って居なかった


「おやおや、これは失礼しました。邪魔者は黙っておきますね〜」

彼はやれやれと言った風にわざとらしく肩をすくめると俺の斜め後ろへ戻って行った。

「まぁまぁ、当家の利になる事なら誰の発言だろうと関係ない。古参も新参もないんだ。肝に銘じておく様に」

俺が嗜めると他にも何か言いたげであった家臣達は不承不承頷いて絵図の方へと視点を戻して居た。ブレッドを除いては……。ブレッドはエン殿が発言をし出すと大型犬の様にブンブンと頷き尻尾が幻視できるほどには忠犬らしさがあった。

彼は本格的に忠誠心が俺じゃなくてエン殿に向いているか……。ならば下手に引き剥がして反感を買うよりもエン殿の部下につけて彼の計略の実行役に据える方がいいかも知れないな


俺が絵図に目線を戻すとハンターが知りうる限りの地形を書き込んで進軍経路の割り出しに入って居た。彼曰く進軍経路は大まかに三つ。


一つは正直に街道を使っての進軍これが最短ルート。利点は道中に平原が多い為決戦地に事欠かないため無駄な日程調整が必要ないこと。


二つ目は山越えをしてオーレンファイド城の東側まで進軍し西のノーブル殿、北の父上と共に3方向から包囲すること。このルートが一番進軍に時間がかかる


三つ目は海上から敵の港に侵攻すること。これはそれなりの規模の水軍が必要なので今回はあまり現実的ではない。少数精鋭での奇襲程度の規模感なら有効かも知れないがな


これら三つの案を携えて今年の年末にでも俺と父上、ノーブル殿の3人で協議する必要がある。

「よし、ここから先は城主間の話し合いになる。ハンターは引き続き禿頭衆とくとうしゅうの訓練と開拓村の基盤を引き続き構築。セシルは守備兵の選別。スコットは馬の購入と調練。そして……。」

俺は最後の1人ブレッドの方へと向き直った。

「ブレッドはエン殿の監視役とする。彼からよく兵法などを学んでおく様に」


俺が各員の配置を宣言するとブレッド以外の家臣はギョッとした様にブレッドとエン殿を交互に見た。ブレッドは嬉しそうに目を輝かせている反面エン殿は使いやすい手駒が手に入ったとホクホク顔だった。


「では、これにて軍議は解散!年明けの軍事行動に備えてよく準備しておく様に!」

俺は他の面々から文句が出ないうちにとっとと話を切り上げセシルとハンターを連れて逃げる様に評定の間を後にした。


適材適所って言うことでね。ホラ、エン殿がいる間はブレッドは裏切らないと思えば儲け物でしょう?


え?エン殿が裏切ったら……?





ま、まぁ。それはその時に考えればいいさ。と自分を納得させ仕事に逃げようと執務室へと駆け込んで行ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る