第三十三話 艶なる者
俺は会談会場である光陽教の教会へ向かうために供にハンターと彼の配下で元山賊の常備兵50名を率いて城門まで来ていた
見送りにはエリーとセシル、スコットが城門までついて来ていた
「あ、あの、その。あの様な醜態をお見せして申し訳ございません……。ある程度お酒には強くなっていたつもりでしたがこれからは控える様にいたします…」
「い、いえいえ。俺も少々驚いたが結局あの様な事を言わせてしまったのは俺に落ち度がある改めて申し訳なかった」
俺が頭を下げるとエリーはあたふたしているが隣のセシルは腕を組んで鼻を鳴らした
「全くです。若様、奥方様をもっと大事になさいませ。いつまでも奥方様のお優しさに甘えているといつか愛想を尽かされてしまいますよ」
「その通りだ、気をつける」
俺が頷くとセシルは不安のこもった目で頷き返した
「ハハハ、あれ程の策を弄するルイ様も奥方様と旧友の前には肩なしですなぁ」
スコットが俺を茶化すと周囲のシールズ家の郎党達も可愛らしいモノを見る様に朗らかな笑い声を上げた
その笑い声に頭をかきながら苦笑いで返す
「たはは……。ゴホン、それでは行って来る」
「えぇ、ご武運を」
馬に飛び乗るとエリーの見送りに右腕をあげて応えるとハンター達を率いて出発した
道中は特に問題なく進み、旅程通り1日で件の教会までたどり着いた
「ハンター、それにしてもどうしてお前の配下は全員髪がないんだ?」
「ん?あぁ、俺の直属になった山賊衆は
「なるほどな、通りで……。」
山賊衆改め禿頭衆は以前の掃討戦で投降した100人の元山賊から構成されており、隊長であるハンターを除いて100人全員が頭を丸めているのである
「こいつ等は犯罪者だからな、このぐらいの格好がちょうどいいのさ」
馬上でハンターが肩をすくめると周囲の禿頭衆は口々に不平を漏らした
「隊長!そりゃないっすよ!隊長の言い分なら元山賊の隊長も頭丸めなきゃいけないはずですぜ」
「うるさい!俺はルイ様の家臣にしてイヴァン様から恩赦を受けた身だ。お前等とは身分が違うのだよ身分が」
彼らの言い合いを尻目に俺は馬から降りて教会へと近づいた
付近には民家もなく、山間の道の途中にポツンとあるみすぼらしい教会だった
俺が扉に近づいてドアノッカーを叩くとパタパタと走る音が聞こえたあと、金属で出来た扉が軋む様な大きな音を立てて開いた
扉の奥からは幼い女の子が現れた
その子は俺を見るなり奥に向かって叫んだ
「司祭様!キャラハン家の方がいらっしゃいました!」
まだ、キャラハン家と名乗った訳では無いのに俺の正体を当てたと言う事は既にキュエル城の城主は来ているのだろう
そんな事を考えていると奥から聖職者の服を着た初老の男性が現れた
「おぉ、ルイ・キャラハン様でございますな?童子がご無礼を致しました。ささ、奥でキュエル城の城主代理であるリュー・エン殿がお待ちです」
この世界ではまだ聞いたことのない東洋系の名前だな……。
「承知した。案内をお願いしたい。ハンター以外は外で待て」
「「ハハッ!」」
「それではコチラへ」
童子を連れた司祭に案内された先には小さな懺悔室の様な部屋があった
「それでは、私はここまでです。部屋の中にお相手がいらっしゃいます」
「あぁ、感謝する」
「バイバーイ!」
司祭は頭を下げ、童子は元気に手を振りながら別室へと消えていった
俺は一つ息を吐いて扉をノックした。
この感じ、就活の時の面接を思い出すな……。
そんな事を思いながら扉を開けた
部屋には小さな机と対面になる様に椅子が置いてあり、その先には一人の人間が座っていた。人間と形容したのは服装から男女の判別ができなかったからだ
かの人の服装は前世でいう所のチャイナ服を彷彿とさせるモノで内側にはタンクトップの様な身体のラインを強調する黒いインナーに肩の大きく開いた羽織を着ている。袖は大きく余っていて腕の先がすっぽりと収まる様な服だ。萌え袖なんかを想像するとわかりやすいかもしれない。
それにしても、この世界では全く見たことのない服装だった
頭には編笠を目深に被り、袖で隠す様に腕を組んで俯いている
彼の斜め後ろには使者として送り出したブレッドが直立不動で立っており、俺を見るなり軽く頭を下げた。俺も応える様に軽く頷きつつ空いている席に腰掛けた
「お初お目にかかる、この度交渉の全権を父イヴァンより託されたルイ・キャラハンだ」
まずは自己紹介だ。ここで相手がどう出るかを見なければならない。ちなみに全権があるというのは嘘だ。交渉するなんて父に言ったら城主として大人しくしていろと言われる気がしたので独断でこの場をセッティングしている
俺が声をかけてもしばらくは返事がなかったがしばらくするとすっくと立ち上がって編笠を外した
「ほぉ…」
俺の後ろに控えるハンターが思わず嘆息を漏らす。
本来なら咎めねばならない所だが今回ばかりは仕方がないだろう。
編笠の下からのぞいた顔は目は切れ長で鼻筋は通っており、形の良い顎と薄い笑みを口の端に乗せる笑みはどことなく妖艶だった。それでいて少年特有の無邪気さの様な雰囲気も醸し出す不思議な存在だった。
要は超絶美少年?だったわけである。俺も緊張がなければハンターの様に息を漏らしていただろう
「ご丁寧ににありがとうございます。僕はキュエル城、城主リュー・ゲンの子リュー・エンでございます」
脳みそを揺さぶり、頭の中でこだまする様な少年の声が狭い部屋に響く
正直、帰る城に愛しいエリーがいると意識していなかったらともすれば一目惚れしてしまいそうだった。
「あ、あぁ。自己紹介感謝する。エン殿」
俺があえて姓ではなく名で呼ぶと少しだけ眉を上げるがニッコリと笑った
「なぜ、そちらが名であるとお気づきに?」
「なぁに、東風の名前でございました故言ってみただけでございますよ」
俺の答えを聞いてエンはコロコロと珠の転がる様な声で笑う
「面白い方ですね。僕を見てまともに会話してくれるだけでも珍しいのに僕が東の血が入ってることも解っちゃうなんて……。面白い人だね」
彼は話しながらも俺の顔を覗き込んだ。
その目に吸い込まれそうになりながらも俺は必死に正気を保って彼の目を見つめ返して質問を口にした
「此度の交渉の内容については我が家臣ブレッドから聞いているな?」
「えぇ、聞いております」
「でしたら、単刀直入にご返答を賜りたく」
俺がエン殿に問いかけると彼は人差し指を顎に当てて笑みを浮かべながら首を傾げた
「条件次第かな」
交渉開始のゴングが俺の脳内で鳴り響く音が聞こえた
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