第三十話 商いの亡者Ⅰ
〈クルト視点〉
クルトは結んだ盟約の証明である羊皮紙の写しを持って、居城であるシーバル城へ戻ったのちに父であるランドの居るヴェルダン城へと馬を走らせた
「父上!このクルトただいま戻りました!」
召使いに案内された部屋で父は大きな身体を椅子に沈めて美しい妾達に囲まれて金の杯を傾けていた。
かたわらには異母兄であり、ハーピー家の次期当主であるビルドが忙しなく部下達に指示を出していた。
「おぉ、クルトよ!よく帰ってきた。おい、誰か!息子に酒杯を持ってきてやれ」
「いえ、この後すぐに居城へ戻りますので酒は結構です」
「そうかぁ?久しぶりにお前が帰ってきてくれたのだ。たまには親子水入らずで飲みたいでは無いか。なぁ?ビルドよ。兄としてそう思わないか?」
ランドは眉をこまった様にハの字に曲げると傍らに立つビルドへと問いかけた
問いかけられたビルドは鬱陶しそうに眉を寄せるとコチラを振り返った。
「父上の申す通りにしてやれ。別に明日の朝此処を出るのでも良いでは無いか」
「兄上と父上の治める土地が北部連中と接していないからそんな呑気なことが言えるのです。我が城には傭兵500名を除けば常備兵は200名程しか兵がいないのです。今こうしている間にも敵が攻めてきたら……。」
「ホホホ、なぜその様に城に固執するのだ?我ら商人は身一つ、舌一枚で財を成し。頭から下でその巨利を浴びる様に楽しむのでは無いか。それがどうだ?その様に武人の様にかぶれてしまうとは何事ぞ?んん?」
ランドは度し難い者を見る様な目で息を吐き肩をすくめると酒杯を傾け、側に侍る妾の頭を撫でていた
「し、しかし!城があれば商いの可能性には事欠きません!」
「よいか?あんな物、大きな屋敷と召使い達の集まりに過ぎぬ。例えばだ、お主は立派な屋敷を買ってその屋敷に盗人が入らないかが気が気で無くなってしまっておる訳だ。これでは本末転倒であろう。のう?」
クルトはその言葉に思わず言葉が詰まってしまう。商人たる者、格式や権威を鼻で笑い利益が出る活動のみを是として権力に固執してはならないのだ。しかし……。
「父上、この者は領民という名の召使い共に情が湧いたのですよ」
「ホホホ、それこそ本末転倒では無いか。財産はどこまで行っても財産だぞ?身銭が空になれば売って金にし、利益を生み出す金のガチョウに出資する。だのに、財産を守ることに躍起になってそこに金を使い出してはキリがないわ」
兄と父は顔を見合わせると可笑しいと言わんばかりに声を上げて笑い、周囲の文官や妾、警備兵達も御追従で笑っていた。
「クッ!ならば結構!新たな交易路は我が城だけで使わせていただく!」
「なに!?新しい交易路だと!戻ってこい我が子よ!聞くだけ聞いてやるから」
ランドは慌てて席を立とうとするが贅肉が邪魔をして後ろに転び、妾達が黄色い歓声を上げながらその身体を受け止めた
「はぁ、良いですか?南のキャラハン家と不可侵条約、並びに貿易協定を結びました」
「キャラハン家……?あぁ、あの衛士から成り上がった荒くれ者か。そんな不詳の輩との盟約を誇示しにきたのか?」
兄ビルドは呆れ顔で首を横に振った
「まだ続きがあるのです!彼の者はさらに南のベートン家と盟約を結んでおるのです!」
「なんだと!?それでは南の貿易港を使えるということか!」
ビルドは目を見開いてクルトを見つめた
その視線に対してクルトは頷き返すと愉快そうに父ランドは声を上げて笑った
「うむうむ、たまには武人かぶれも良いことをするではないか!これで北の連中を黙らせるだけの巨万の富を得られる!本来の主であるサラマンド子爵を屈服させる日も近いぞ!」
彼の絶叫に周囲の妾や文官達はどよめき、警備兵は歓声をあげた。
「その辺りの調整はお前に任せる。なんせ私は父上の居城であるこのヴェルダン城まで面倒を見ねばならんのでな」
「ホホホ、ビルドよ、世話かけるのぉ」
「承知しました。では関所の通行料はコチラでいただきますぞ」
「ホホホ、構わん構わん」
兄も父も満足そうに頷きあっているのでクルトも頷いて部屋を後にした
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近況ノートに王国の簡易的に色付けした勢力図を掲載しました。
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