第六話 将兵

その後、婚姻の日取りを決めて200の兵を借りる盟約をノーブル殿と結んび今回の目的はトントン拍子に進んで行った


「我らの兵を率いる将をご紹介いたしましょう」

ノーブル殿に案内されて兵舎を訪れると気炎をはく長身の女性が兵士をボコボコにしていた


「アンタたち!そんなんじゃ来るべき日にノーブル様を当主に据えられないよ!ほらかかって来な!」

その声に煽られて兵士が二人、木剣を振り上げて女性に向かって走っていくが二人とも脛を強かに打ちつけられて二人は前のめりに倒れ込んだ

「だから、振り上げて下半身がお留守になってどうする!実戦では決め事なんてないんだ!死んでから相手が卑怯だったなんて言ったって無駄なんだよ!?」


「実戦慣れしている優秀な将に見受けられるな」

ハンターが背後で感心したように声を上げる

「これ、ナタリー!こっちへ」

ノーブル殿はその女性を呼ぶとナタリーと呼ばれたその女性は木剣を腰に収めてツカツカとこちらへ歩いて来てノーブル殿の前に跪いた


「ノーブル様、お呼びでしょうか」

「あぁ、以前話した派兵の話だ。此方のルイ殿が兵を率いて戦地に向かうが初陣すら済ませていないという。兵達の掌握も兼ねてお主が200の兵を率いてルイ殿に着いて行きなさい」


ノーブル殿に紹介されて軽く会釈をするとナタリーは値踏みするかの様に俺を頭から足先まで舐め回す様に見た

「初陣も済ませていない嫡子を援軍要請に寄越すような家に当家の命運を賭けても良いのですか?」

「ナタリー!口が過ぎるぞ!盟約を交わした以上ルイ殿の家と我が家は対等、それを悪様に罵れば罰せねばならなくなるぞ」

ノーブル殿はナタリーを叱責してくれてはいるが確かに彼女の考えもよくわかる。成り上がりの当家に対してノーブル殿のベートン家は元々騎士爵、家格や財力にしても全く敵わないのだ。それを胡散臭い目で見るのも無理あるまい


「ナタリー、我が娘はルイ殿に嫁ぐことが決まっておる。義理とはいえ我が息子だ。この意味がわかるな」

その言葉を聞いたナタリーは唖然として二の句が告げぬようであった


「そ、そんな。エリー様が初陣も済ませていないガキンチョに嫁ぐですって!?今まで私が守っていたと言うのに少し気を抜いて兵の鍛錬に時間を割いていたらこの有り様……。ノーブル様!その婚姻に待ったを……!」


「待ったなんぞできるわけなかろうが!お主がエリーを友人以上の情を抱いているのは承知しておるがこのような婚姻は家の最も益となるようにするものだ!それに、エリーもルイ殿に心を開いておる。お主が入る隙などない」

その言葉を聞くとナタリーは足から崩れ落ちて床にへたり込んだ

これがいわゆるBSS(僕のほうが先に好きだったのに)って奴か…。

なんか悪いことしたみたいだな。そんなことを思っていると後ろからハンターに肘で小突かれた。そちらを見ると得意げな顔で肩を揺らして笑っていた


どうやら、仕える家がバカにされたのが気に入らなかったらしく一泡吹かせたと大喜びのようだ

「あー、それで。ナタリー殿?此度はよろしくお願い致しますね」

と、俺が手を差し出すと親の仇でも見るような目で睨まれた


「いっ、あー、セシル!ナタリー殿とのすり合わせはお主に任せる!ノーブル殿、それでは我々も出立の用意をします故。これにて失礼、ハンター!行くぞ」

そう言って俺はセシルに面倒ごとを押し付けてハンターを連れて館に逃げ帰った


そうして更に2日が経ち、この地に来てから1週間が経とうとしていた

城門の前では歩兵190と騎兵10が整列し先頭にはナタリーが馬に乗って俺たちがノーブル殿、エリー殿と別れの挨拶を済ませるのを待っていた。その視線からはジトッとした視線を感じたがあえて無視しておく


「それではノーブル殿。将兵をお借りいたします」

「うむ、ご武運をお祈りする。くれぐれも盟約の内容も忘れぬように」

「もちろんです」

俺は彼の顔を見て深く頷くと彼の後ろに立つエリーの方を向いた


「それではエリー様。必ず勝って再びお会いしに来ます。必勝を信じてお待ちください」

「はい、きっとお迎えに来てください」

手を前に組んで祈るように俺の方を見る彼女を見ると必ず勝ってこようと言う心持ちになる。父の野心によって駆り出された今回の交渉事だったが、このような素晴らしい出会いがあったので父のことを恨んでばかりもいられない


俺は覚悟を決めると右手を振り上げた

「行くぞ!」

「「「おう!」」」

兵達の声に押されて俺たちは父の待つフルデリ城へ成果を持って帰る

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