新たな訪問者たち

一旦抱えているメロンもどきを台に置き、俺はナイフを探す。


「果物ナイフというか、こんな大きいの切れるナイフなんかあるのかな。長い包丁とかあるといいんだけど。」


 ラミスはすでにお酒を飲んで一人で楽しんでるし、俺は調理場を探してみることにする。

 踏み台は俺でも持ち運べるくらいのサイズと大きさにしてくれているので、引き出しのような場所も確認出来るのはありがたかった。

 いくつか引き出しがあり、そこにはそれぞれに綺麗に並べられたスプーンやフォーク、ナイフ等のカトラリーが入っている。

 そうして引き出しを見ていくとついにナイフを見つけた。



「よし、これだ。このメロンもどきを切るにはちょっと小さいけどいけるな。」


 ナイフは洗わなくてもそのまま使えそうだったので、踏み台にのぼり改めてメロンもどきと向き合う。



 でかいボールみたいだな。ふと懐かしい感情がよみがえる。



 塀の中で暮らしていたときは周りが年上ばかりだったこともあるのとみんな自分たちの仕事をしていて遊んだりすることがなく俺はこの世界で遊ぶという概念がなかったため、この感情は前世の記憶からのものだ。



 キャッチボールとかやってたなぁ。けどこの大きさだと・・・サッカーボールかバスケットボール?



 ”バスケットボール”



 その記憶に俺は猛烈に惹かれる。でも一体何故?



「果実はまだか?」

 いつの間にか酒を片手にラミスが俺の側にいて、慌ててナイフを落としそうになる。


「うわっ、びっくりした。」

「危ないからナイフをこっちに向けるなよ。」

「ごめんごめん。いつからいたの?」

「ユウが一人でぶつぶつ言いながら考えこんでる感じだったから様子を見ていたがしばらく儂がきて経つぞ。」



 ふと我に返り、目の前のメロンもどきに手を添える。


「やっぱりこれは立派なペポだな。」

「ペポ? この果実の名前?」

「そうだ。 ペポはこの時期に採れる果実で魔力も豊富な故に人だけじゃなくてこいつを好んで食べるやつは多い。それにこいつをくり抜いて酒を飲むのもうまいぞ。」

「へー。じゃあ、半分に切ってくり抜いたらラミスに渡すよ。」

「ぜひそうしてくれ。」

「ところでそのナイフはどうした? それに背が伸びたか?」

「ん? 引き出しで見つけたんだよ。背は伸びてないけど、誰かが踏み台を置いてくれたみたいでせっかくだから使わなきゃって。ラミスじゃないんだよね?」

「儂ではない。それは妖精からだろうな。」

「そうなんだ? 朝は薪をくれたし、踏み台も用意してくれたし、お礼を言いたいんだけどなー。ラミスはその妖精さんがどこにいるかわかる?」


「ふむ。」

 そう言って調理場を見渡すラミス。



「今はおらんようじゃな。恐らくこの妖精は家を掃除するやつと、家人の為に何かをすることを楽しんでいるやつだろ。それに悪い感じも全くせんしそのうち姿を見る機会もあるかもな。ただし、妖精もみな性格や感情があるのと基本的に遊び好きというかな。とりあえずいろんな妖精がおる。」


 なるほどなるほど。いろんな妖精さんたちか。いつか会ったらそのときはよろしくね。

 そう心の中で挨拶をしておく。

 そして、いないとわかったけど



「薪に踏み台もだし、掃除もしてくれてありがとう。」


 俺はお礼を言ってペポを切ることにした。



「かたいっ。」


 なかなかナイフが入らない。前世でメロンを切る機会なんてそんなになかったがそれでもここまで硬かった記憶は無かった。

 メロンを平行にもう一度ナイフを入れそこに全体重をかけるとようやく少しづつナイフが入り始める。


「よし、ここまで入れば。」


 ナイフよりメロンの方が大きいため、何度かナイフを動かしながら割れないように丁寧に切り進めていくと、芳醇な香りでいっぱいになる。


「うわー良い匂い。」

「そうだな。はやくくり抜いてくれ。」


 ようやく半分に切れたペポを次はスプーンでくり抜く。


「果実はどうするの? 食べる?」

「もちろんだ。それを食べずにどうしろと。」


 いや、お酒飲みたいんじゃなかったのかと突っ込みたくなったが、ほろ酔いのラミスはご機嫌でこちらからわざわざ言うことでもないと思いやめておいた。



「ラミスの前の引き出しにスプーンがあったと思うから取ってほしいな。あと、妖精さんが洗ってくれたお皿も。」

「あいわかった。」


 お皿とスプーンを隣りに立つラミスは待てをしている飼い犬のようで人の姿をしていてもなんとも微笑ましい。

 そんなラミスからスプーンを受け取り俺はくり抜いたペポをどんどんお皿に乗せていく。



「はい。これで大丈夫?」

「ありがとう。」



 ラミスに果実とくり抜いた実を渡し俺は残りの半分を切り分ける。サランラップとかあればなぁ。いや、もしや?



 俺は思いつきを確認するためにラミスに質問を投げかける。


「ストレージって、中にものを入れてるときってどうなるの?」

「どういう意味だ?」

「うーん、たとえば、ご飯とかもだし、こういう果実とかお皿とかをストレージに入れた場合、取り出したときにどうなるのかなって。」

「それはそのままの状態だろう。ほんとに何を言っているんだ?」

「そのままの状態って言われても、たとえばストレージにこの果実を入れたまま忘れちゃったりしたら腐ったりしない?」

「腐ることはない。入れた時のままだ。」



 やっぱりだ。これは俺がこれからこの世界で生きていくうえで大いなるアドバンテージだ。


「よかったー! 俺一人だとこの量はちょっと多いしストレージに入れておけるなら入れておきたいなと思って。」

「なんじゃ。食えんのなら儂が食うぞ。と思ったが、お前さんたちは匂いに釣られたか?」



 そう言うラミスの視線を辿ると、勝手口から顔を覗かせる2つの顔があった。



「最近ラミスを見かけてないと思ってこんなところまで来てみたらおいしそうなペポの匂いがするし、ラミスの声はするし、人の子はいるし。」

「楽しそうだなーって。」

「だよねー。」



 俺は無言で観察していた。



「人の子、あんた何者? なんでラミスが一緒にいるのかもわけわかんないし、そもそもその魔力も・・・」

「確かにー。でもなんか懐かしい感じ? 雰囲気かな?」

「わかるー、悪いやつじゃないのはなんとなくわかるけど、何者なの?」



 二人の会話が一方的に進む中。俺が返答に困っていると



「お前たち騒がしいぞ。」

「なによ、ラミスばっかり楽しんでるみたいだし、美味しいもの食べようとしてるしズルいでしょ。」

「そうよそうよ。ラミスばっかりずるい。」



 なんだか賑やかだなー。



「とりあえずこいつらを紹介しておこう。こいつらは俺の知り合いみたいなもんだ。髪を下ろしている方がルーン、結んでいるのがエレイナだ。」

「知り合いみたいってなによ? もっとちゃんと紹介してくれてもいいんじゃない? ラミスとはずっと一緒にいるルーンよ。」

「同じくエレイナよ。私たちは双子みたいなものね。ふふ。」

「そうね。ふふふ。」

「よろしくね。」

「ユウです。よろしくお願いします。」

「それでユウは一体なんなの? 人だよね? もしくは限りなく人みたいな妖精?」



 とりあえず、ラミスの知り合いってことは人ではなさそう。かと言ってラミスみたいに変身しているわけでもなさそうだし、、、



「ちょっと、人の話し聞いてる?」

「あぁ、えっとルーンかな、ごめんなさい、なんだっけ?」

「あー全然聞いてない。どうせ私たちが何なんのかとか考えてたけどわからなかったとかでしょ? それでユウがどうしてここにいて、しかもラミスと一緒なのか。」



 どうやら、ルーンの方がよく話すらしい。



「あー、ラミスから説明した方が・・・? ってなんでお酒飲んでるの? なんでペポ食べてるの?」

「ほんとだー! ずるいずるい! 私も食べる!」



 質問なんてすっぽり忘れたかのようにペポを食べ始めるルーンと、エレイナどちらもどう見ても中学生になったばかりくらいだがなんとなくラミスに似た強さを感じるため黙っておくことにした。



「二人が来てくれたからペポが余らずに済みそう。」



 そう言って俺は笑う。ほんとはストレージの使う練習もしたかったけどまぁいいか。



「ところでお前たちはどうして儂がここにいると分かったんだ?」

「森の中で果実を探してたら、掃除好きの妖精が楽しそうにしてたから話しを聞いてみたら誰かがここに住み始めたみたいって言うから。」

「そうそう。それで、一応この家大事でしょ? だから気になって来てみたらラミスもいたの。やっぱり二人一緒にタイミングにしてよかったねー。」

「それ。ほんそれ。ペポも食べれたし、こんな立派なペポを食べたのは久しぶり過ぎて最高な気分。」



 ルーンはギャルマインドが入っているのか? ギャル? 今日はよく記憶を掠める日だ。



「そういうことか。だけどもうこの時間だとルーンは動きにくくなるだろう?」

「そうよ。だから今日は泊まっていくからね。ラミスもここで寝てるんでしょ?」

「やれやれ。騒がしいのが増えおったな。そもそも儂の家ではないんだがな。」

「良いじゃない、ずっと誰も住んでなかったんだし今更でしょ。」



 エレイナはニコニコしながら二人の会話を聞いている。



「エレイナ・・・だよね?」

「そうよ?」

「よかった、合ってた。名前間違えて失礼するところだった。危ない。」

「どうかしたの?」


 エレイナはギャーギャーと騒ぐラミスとルーンを見ながらこちらに返事をする。


「エレイナたちは森に住んでるの?」

「そうね、住んでるというか、住んでるわね。」


 うん、やっぱりこっちもラミスと同じだ。なんかあるけどわざわざ自分から触れなくていいや。そう思わせる空気だ。



「ユウはラミスの子どもみたいね。」

「え? そう?」

「うん。子どもと言っても、ほーんのちょっと、見た目がね。」

「えー、俺あんな角とかないし、俺は人だよ?」

「あれ? ユウはラミスが人じゃないって知ってるんだ?」

「うん? 今は人の姿にしか見えないけど、会った時に気付いたというか・・・」

「ちょっとー、何を二人で仲良さそうに話してるの! 私も話したいーけどもうすぐ眠くなっちゃいそう。だから、また明日続きは話しましょう?」

「よくわかんないけど、わかった。てことは明日も二人はここにいるんだね。」



 なんか俺は楽しくなって聞いてみると



「ラミスも楽しそうだし、ユウもなんか面白そうだからしばらくここを拠点しない? いいよねエレイナ?」

「私はどこでも大丈夫よ。」

「やっぱり家の方が良いじゃん? 洋服も汚れないし、ここを快適に過ごせるように・・・」



 最後はラミスのようにぶつぶつと何かを言っている。似た者同士なのか、類は友を呼ぶって感じなのかな?


 でも楽しそうでいいな。


 ラミスはすでにペポを食べ終え、半分にくり抜かれた皮を器の代わりにお酒をなみなみと入れて飲んでいる。


 外はいつの間にか暗くなり、勝手口からも冷たい風が入ってくる。

 ルーンも眠そうな目に変わっていたため



「とりあえず部屋に戻ろう。」

「そうだな。ルーンも寝かせてやらんとな。」

「うーん、もう無理、眠い。」

「ほら、掴まれ。」



 酒を片手なんだかんだと優しいラミスを見ながら俺は改めて、ラミスと出会えたことはもちろん、今日という日に感謝していた。

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