新たな訪問者たち 2

「ユウはやっぱり不思議ね。」

「ラミスにも言われたよ。」

「ふふ。そうでしょうね。」



 ラミスはお酒が回ったのか早々にルーンと一緒に寝ているため、今起きているのはエレイナと俺の二人だけだ。

 エレイナはニコニコした表情のまま二人の寝顔を眺めている。



「ところで、さっきのペポってどこで手に入れたの?」

「んっ? 知らない。ラミスからもらったから明日ラミスに聞いてみたら?」

「なるほどね。また私たちの知らないところでそうやって・・・」



 こっちもぶつぶつ言うところはラミスに似ている。



「俺お皿あらったりしてくるね。」

「あぁそっか。 片付けないとよね。」

「俺やるから大丈夫だよ? ラミスは俺の恩人だし、そんな恩人の知り合いなんだから仕事させるわけにはいかないしね。」

「そんな気を使わなくても良いのに。でもそこまで言ってくれるなら今日はよろしくね。でも明日からはちゃんとやるから。」

「あっ、やっぱり明日からもここで生活するんだね。」

「そういえば、掃除の妖精が洗い物とかもたぶんやってくれるから、さっきのところに置いておいてあげたら?」

「えっ? でも妖精さんに洗い物だけしてもらうのも悪いし、俺が洗うよ。」

「ふーん。まぁいっか。」

「エレイナはその妖精さんに会ったんだよね? ペポ残しておけばよかったけどもうないからなぁ。何をあげたら喜んでもらえるかな?」

「うーん、会ったけど別に友達とかでもないからそういうのはわかんないかな。でも妖精はだいたい甘い物とか美味しいものは好きかな。あとは珍しいものとか?」

「明日探してみよう。お礼したいしね。」

「それなら私が何が欲しいか聞いておいてあげましょうか?」

「ありがとう。でもそれだとプレゼントにならなさそうだから、聞かないでおいて?」

「そうなの? よくわかんないけどじゃあ聞かないでおくわね。」

「うん。」


 エレイナはずっとニコニコしているから表情がわかりにくいけど、話しているときにちょっと微笑んでいた気がする。

 そんなエレイナを後ろに俺は洗い物を抱えて調理場へ向かい洗い物を終わらせる。




「これでよしっ。」


 洗い物を並べた俺は次はストレッチだ。

 部屋は雑魚寝状態だから、外でやろうかな。

 そう思い立ち、勝手口から外へ出ると月明かりが綺麗な夜だった。

 なんとなく見られてる気配を感じるがどこからかわからないし嫌な感じもしないから気にしないことにする。


「ラミスか双子のお友達かな? それか掃除好きな妖精さん? そうだったら今日は色々やってくれてありがとうね。」


 そうして俺は妖精さんへのお礼を考えながら、改めて、なんだか今日はいろんなことがあったなぁとしみじみ思い返しつつストレッチをこなしていく。



「こんなとこで何してるの?」

「うわっ、いきなりどうしたの?」

「どうしたのはこっちの台詞よ。ユウが戻ってこないから見に来たら戸口が開いてたから。」

「あーごめん、ストレッチしてた。」

「ストレッチ?」

「うん。あっ、そうだった。ストレッチは身体をほぐす運動みたいなやつ? 俺しばらくずっと寝てたから身体動かしていかないとだしね。」

「ふーん。なんかよくわかんないけど、ほんとに5歳なの? って疑いたくなる言葉ね。」



 笑いながらエレイナがそう答える。



「一応5歳だよ。」


 嘘は言ってない。この世界に生まれてから数えたらちゃんと5歳だ。



「私は中に戻るけど、ユウは病み上がりなんでしょ? 夜は冷えるから早めに部屋に戻るようにね。それにここは結界があるから外でも森よりは安全だけど夜は昼より危険だからね。」


 それだけいうとエレイナは中に入って行く。


 最後にさらっと怖いこと言った。それに結界って。たぶんラミスの力なんだろうけど、凄いな。結界が張れるなんてラミスすげぇ。


 確かに夜は視界も悪いし獣もだけど魔獣の気配も強くなるから、なんかあった時に夜でも視界を確保出来るようにって訓練をパルと一緒に毎晩やっていた俺はすでにある程度は暗くても見えるようにはなっていた。




 パルは無事に辿り着けたかな?


 空に向かってパルに話しかける。

 きっと無事だよね。

 いつかちゃんと会いに行くから。

 約束は守るよ。

 だからパルも元気でいてね。俺は元気です。



 空には相変わらず綺麗な月が浮かんでいた。



 その後はしばらくストレッチをして身体を拭いてから寝ることにする。



「あーお風呂入りたいなぁ。」

「お風呂って?」

「ん? エレイナまだ起きてたんだ。」

「そうね。私とルーンは一日の中で日中と夜をそれぞれお互い受け持っている感じだからね。」


 なんとなく難しい話しになりそうなのでこれ以上はこの会話はしないことにした。お風呂に関しても今はスルー決定。



「俺はストレージの使い方の練習を少しやったら寝ようかな。今日は朝からいろいろあったしね。」

「なになに? 何があったの?」

「妖精さんのことをラミスに教えてもらったりとか、俺がスキルを使えるってことも今日知ったし、エレイナとルーンにも会ったし、あとは・・・」


 前世の記憶が色々と頭をよぎったことは言わない代わりに言葉を濁した。


「なんだ、そんなことか。まぁでもそうよね。いきなりいろんなことを知ったりするときっと疲れちゃうよね。」

「そんな感じなんだと思う。だけど、ストレージが使えるようになったら便利だからちょっとでも使い方の練習しておきたいんだよね。」

「ユウは5歳とは思えないわね、ほんとに。」


 エレイナが呆れたような表情でこちらを見る。


「私はやることがあるから先に寝ててね。それと、ラミスが結界を張ってるわりになんか雑な気がするからそれも補強しとくわ。」

「そんなこと出来るの? すげー。エレイナってスゲー。」

「普通よ。ルーンも出来るわよ。それじゃ、あんまり夜更かししないようにね。」

「ありがとう。いってらっしゃい? で合ってる?」

「あってるわ。おやすみなさい。」



 そう言ってエレイナは部屋から出て行った。


 よし、俺もこれだけやったら寝よう。明日も朝から頑張ろう。

 そう思いながら手元にある水が入ったカップを出し入れする練習をして俺は眠りについた。



 翌朝目が覚めるとエレイナもいつの間にか戻ってきて寝ていたらしい。

 ラミスとルーンもまだ寝ているようなので起こさないように調理場へ向かい勝手口から外に出る。




「うーん、気持ちいい朝だなぁ。」



 爽やかな5月晴れのごとく、気持ちの良い太陽の光と新緑が元気をくれているような気がする。

 さっそくストレッチはしながら今日やりたいことを整理していく。


「今日も散策したいなー。それに、昨日のペポの種も植えてみたいから畑も見たいし、薬の調合もしたいし、あとはそうだ、短剣と弓も作って訓練出来るようにしたいなー。それに妖精さんへのプレゼントも考えないと。色々やりたいことあるなー。」




「部屋にいないと思ったらここにいたの。」

「あっ、ルーンだよね、おはよう。」

「おは。ところでこんな朝から何やってるわけ?」

「ストレッチだよ。」

「すとれっち?」

「そうそう。」


 とここでもラミスやエレイナと同じ会話を繰り返す。ストレッチは絶対にやった方がいいはずなんだけど。

 とはいえラミスもルーンもエレイナもなんとなく普通ではないから必要は無さそうな感じはする。



「それで、いつまでストレッチをするの。」

「もうちょっとかな。」

「えー、ラミスももう行っちゃったし私も森に行ってくる。エレイナは起こさないでおいてあげて。」

「わかった。ラミスも出かけてるんだ?」

「そうよ。私たちも忙しいの。」

「なんか大変そうだね。頑張ってね。いってらっしゃい。」

「あのねー、こういうときはレディに対して労いとかもっとないの?」

「・・・」

「いいわ、そういえばユウって5歳だったわよね。忘れてた私が悪いわね。」

「なんか俺バカにされてる?」

「そんなことないわよ。それじゃ私も行ってくる。」


 そう言ってルーンも出かけていく。

 残された俺はさっき思いついたやりたいことを思い出していた。



 ・ペポの種を植えたい。その為に畑を確認する。

 ・採取してきた植物やキノコを使って薬の調合。

 ・拾った木を使って短剣と弓を作る

 ・ストレージの使い方の訓練

 ・森の散策

 ・妖精さんへのプレゼントを考える


 こんな感じかな。とりあえずすぐ出来そうなことと言えば畑の確認かな?


 今俺がいるのは勝手口と納屋の間にあるちょっとした(と言っても十分広いが)スペースで、ここでは巻き割りや植物や野菜の土を落としたり洗ったり出来るのはわかる。

 ここを通り抜けると納屋があり、その先に畑があることは昨日ラミスから聞いていた。

 とりあえず見てみなきゃね。塀の中にいたときも畑作業は好きだったし、俺は軽い足取りで畑へと足へと向かった。

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