ごちそうさまでした

「おぉ。木の実がこんな味わいになるとは思わんかったぞ。」


「確かに美味しいね。」






 キノコ炒めにいれた落花生のような木の実は口の中で軽い触感と炒めた芳ばしさがキノコのしなり具合とマッチしている。




「この木の実のことを知っておったのか?」


「いや、知らないけどなんとなく合いそうな感じがしたから。」


「まぁ、よいか。」






 でたな、いつもの一人納得。






 そう思っても口にはしない。ラミスのタイミングできっと話してくれるだろう。


 朝ご飯は大満足に終わり、キノコ炒めはラミスに追加で作ってもらってそのままおひたしのようにすればしばらくは食べられるな。




 ちなみにしめじもどきの名前は ”シメ”、エノキダケもどきは ”エノ”、落花生もどきは ”ピヌ”


 なんか安直な名前だが馴染みもあるし、こうやっていろいろと覚えていかないといけない。




 塀の中で暮らしていたときはパルがキノコなども採取してきてくれていたが、よく考えたら名前なんて聞いたことなかったかもしれない。


 畑では季節に合わせて、”キャル” と呼ばれるニンジンもどきや、”ポタ”と呼ばれるジャガイモもどきの野菜を育てていた。


 色々とありがたいことに前世の記憶にないものは遭遇していないので、蘇った記憶の範疇で今のところどうにかなっている。






 ただ、ラミスにも前世の記憶のことは話していない。


 そもそも色んな知識や記憶が断片的にあるだけなので知らないことや思い出せていないこともいっぱいあるはずだ。






「ユウは不思議な子だな。」


「おおっと。」






 どうやら俺は自分時間に浸っていたらしい。






「俺からしたらはラミスのほうが不思議だよ。」


「ははは。お互い様か。」






 この世界に生まれてからこうやって普通? の生活っぽいことをしたことがなかった俺は食後の余韻に浸っていた。








「それでこの後はどうするんだ?」






 俺は儀式の帰りにパルから言われたことを思い出していた。






「人に限らず獣の気配をいち早く察知出来るかどうかで生死が大きく変わる。だから気配を察知する訓練は毎日やることよ。それと、人を見抜く目を養うこと。」


「獣は気配を消していても殺気を感知することが出来る。人はそれが難しいの。だから・・・」






 あのときパルは何を言おうとしたんだろう? ただそれも含めて今思い返すと5歳の子どもが理解するのは難しいし漠然とし過ぎていて、言われているときはパルがいるし大丈夫なんて気楽に考えていた。


 だけど今の自分の状況ではそうも言っていられない、






「ここって森の中なんだよね?」


「いや、正確には森の入口に近い。街の住人も来ようと思えば来れるくらいの場所だ。」


「街があるの?」


「そうだな。それに昔からこの辺は辺境伯の領土の一部のはずだ。」






 街かー、いつか行ってみたいな。






「それで何をするか決まったか?」


「うん、外を見てみたい。」


「なるほど。それならまずは家から出るか。」


「獣とかいるの?」


「うーん、いると言えばいるが、、、」






 ラミスの歯切れが悪い。






「まぁいいや。俺、気配を察知することと人を見抜く目を養いなさいって言われてて、気配を察知出来るようになるには森の中に行く必要があるよね?」


「ふむ。ユウは気配を察知するのはかなり出来ておると思うがな。それにユウが住んでいた場所には5歳のお前さんにそんなことを教え込もうとしていたやつがいたのか?」




 ラミスにそう言われてもどれもいまいちピンとこない。


 パルはそうかもしれない。でも獣から身を守るためだったら人の話しはしないだろう。それに護身とは言え、短剣や弓の扱いも教えてくれていたし。


 俺自身は自分の出生のことは知らないがパルは恐らく知っていてそれでだろうと理解していた。






「とりあえずはさっきも妖精の気配に気付いただろう?それにあの夜も、あやつの気配に気づけてなかったら確実にユウは死んでたな。」


「うーん、考えてもよくわかんない。」






 ラミスに言われたことは確かにそうなんだろうが、それを意識的に出来ているかと言われるとそうではない。




 それにパルはもういない。今は自分が成長するしかない。そう思うと早く外に出たくなってきた。






「早く行こう?」


「そうだな。」


「あっ、そうだ。ごちそうさまでした。」






 いただきますと同様に俺は手を合わせてそう言うと、ラミスがまた同じように






「それもいただきますと同じか?」


「そうかな。意味は同じような感じなのかな。ご飯を作ってくれてありがとうとか食材を提供してくれてありがとうとか。とりあえず無事にご飯を食べ終えることが出来て、そのご飯に関わった全てに感謝みたいな感じだと思う。」


「なるほどな。ごちそうさまでした。」






 ラミスがやるとなんか様になるなー、なんて思いながらみていた。




 この世界にきて、パル以外の人とここまで会話することがほとんどなかった俺はラミスとの会話が新鮮過ぎる。


 俺は前世の記憶が戻ってもパルにも言えず






「記憶が戻っても役にたちそうもないよなー。このまま俺はこの森の塀の中でこの人生を終えるのか。」




 そんな風に悲観的になっていたりもしたのだが、それが一変したのだ。もちろんそれには悲しいことや悲惨なものを目の当たりにし、自分も死ぬところだった。


 だけど、生き延びて今こうやって前世の記憶をもとに会話が楽しめている。それが凄く嬉しい。






 それにラミスは人の姿をしているときはいわゆるイケオジのような雰囲気で、髪は長めでいわゆるアッシュゴールドのアッシュが強い感じの色に肌は白い。


 前世でいうところの古代ギリシャをテーマにした海外の映画そのもので、服装もノースリーブのような布を身に纏い映画に出ている俳優さんがそのまま存在しているような雰囲気なのだ。


 顔は今で言うところのお金をかけた作り物のように整ってい肌も綺麗そのもので非の打ちどころがない見た目をしていることも俺が密かにテンションがあがるポイントだった。






 そしてそんなラミスと一緒にこの世界で初めてちゃんと外に出ることが出来る俺はピクニックにでも行くような気分だった。






「外に出るの楽しみだなー。」


「その前に、ゆうは儀式のときに自分の才能やスキルについて何か聞いたりしたか?」






 パルには紙を見せてはいない。もちろんパルが隠し場所を知っていて見た可能性もあるが特に何かを話したことはなかったし、祭司様とも助手の人ともそう言った話しはしていない。


 俺は一生懸命記憶を辿るも、何も聞いていないという結論に至った。






「何も聞いてないかなー。書いてあるのを読んだけどあんまり意味わかんなかったし。」


「そうなると、ゆうは自分のことはほぼ何も知らないわけだな?」


「知らないも何もあの紙で何がわかるって言うの?確かにこれをもとに5年間頑張って10歳になったらみたいな話しはされたけど・・・。」


「儂も詳しくは覚えておらんが、おそらく能力や適性みたいなものが書いてあったはずだ。というより、ユウは字が読めるのか?」


「読める・・・ と思う。」


「ほう。5歳で文字が読めるとは。」






 この世界において識字率は半々くらいらしく読めても書けない人も多いらしいということを後で知ったのだが、よく考えると何も苦労せずに見たこともない文字を読み書き出来ている俺はすでに異世界に馴染んでいるわけだ。


 ただ、今はそんなことよりも俺の頭の中は能力? 適正? 異世界らしいキーワードが飛び交うことによって記憶力をフル回転させて書いてあった内容を思い出そうとした。






「たしか、、、イナトとクラウンって項目があってそこに何個か書いてあったような・・・」



「それだな。何が書いてあったか思い出せるか? いや、今はいいか。」



 また独り言だ。まあいいや。とりあえず袋を探さないと。あとは、軍手みたいなのも欲しいよなぁ。


「ラミスー、ラミスが持ってる袋の小さいやつって何個かあるー?」

「んっ?袋?」

「そう。キノコとか出してくれた袋!」

「あぁ、それしかないな。」


 ラミスが持っているのは120センチくらいはありそうな大袋だ。さすがに5歳の俺には大きすぎる。



「そっかぁ、じゃあ袋とか籠が作れそうな材料も探せばいいか。」

「はて?」



 何を言ってるんだと言わんばかりの顔でこっちを見るラミスを横目に俺は軍手を探しに立ち上がる。ついでにご飯に使ったお皿とかも洗いたいから調理場から行こう。


 そうして調理場にいき、洗い物といってもフライパンにお皿、フォークくらいだけど。


 ただ、それだけの洗い物をしながらも俺は生きていける。よくわからない自信が湧いてきて、また外に出るのが楽しみになっていた。

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