朝ご飯

「ふぁぁぁ」



目が覚めるとそこにはすでにラミスの姿はなかった。



「ラミスは早起きなんだなー。」



ちゃんと昨日寄せておいた皿や容器は片付けられ、新しい水も置いてくれている。



「ありがとう。」



お礼を言って水を口にする。



「お礼はちゃんと伝えること。」



これは俺を育ててくれた親代わりのシスターでもあるパルがいつも言っていた。



「感謝は口にすること。そうしないと後で伝えたくても伝えられなかったら一生後悔することになりますから・・・。でもそんな日が坊ちゃんに来ないことを私は祈っています。」


いつも口癖のように言っていた。




「パルは無事に森を抜け出せたかなぁ。」



俺を森に連れてきてずっと一緒に生活していたパルがいない。

これまではパルがやってくれていた洗濯等はもちろん、ご飯の用意も自分で全部やらなきゃいけない。そう思うと急に頭の中が不安でいっぱいになる。



「これからどうしたらいいんだろう?」



そう思わずにはいられない。幸運だったのは俺が5歳になって前世の記憶が色々と頭の中に蘇っていることもあり、自分の置かれている状況に不安ながらも



「どうにかなるよね」



そう楽観的に考えることが出来たのは救いだろう。

ただ、俺の記憶はあると言っても断片的なものであるためどこまで役に立つかはわからない。



「とりあえずここはラミスの家だし、勝手に家の中動き回って怒られたりしないかな?」



俺を助けてくれてここまで回復するまで世話をしてくれているラミスへ感謝の気持ちも込めての恩返しをしたいと思い俺は立ち上がる。


「もう身体もだいぶ良くなったような気がする。」



昨日までは伸びをするだけでも痛かったが今日はもうそんなこともない。



「何しようかな? あーでもお腹空いたなぁ。」



パルと暮らしていたときも決して裕福とは言えない暮らしだったが、毎日は充実していたように感じる。

朝は起きたら、パルと一緒に朝の稽古。パルは女性だったとはいえ今思うと短剣や弓の扱いがうまかった。



「そういえばラミスにパルの話しをしてないけど、変に聞かれてもパルのことを俺も詳しくは知らないし、いっか。」


「とりあえずご飯になりそうなものあるかな? 昨日のキノコとかまだあるのかな。あとは鍋があったら何か作れるか。あっ、ちょっと身体も動かしたいし家の周りで探してみるか。」



そんなわけでストレッチを始める。どうやら今生きている世界にはストレッチの概念がない。厳密にはあるのかもしれないがストレッチという言葉はパルには当然通用しなかったからだ。

ただしこれは記憶が蘇ったことによるものなのでパルに説明するのも難しかったため、例えば立ったまま腰を曲げて地面に指がつくかとかだ。

今思うとパルは付き合ってくれてただけかもしれないが、俺は朝からストレッチをする習慣が前世にもあったらしくすっきりするから好きだった。


そうして、普段のストレッチのルーティンをやっていると人の姿をしたラミスが帰ってきた。



「おはよう。」

「おはよう。もう具合は良いのか?」

「うん。身体はまだちょっと痛いけどもう大丈夫。ありがとう。」

「それならなによりだ。ところでユウは何をしているんだ?」



たしかに、ストレッチに集中しすぎていつの間にか汗をかいている。



「ずっと寝てたから身体を動かしたくてストレッチしてた。」

「ストレッチ?」

「あー、獣とかに襲われたとき身体が柔らかい方が怪我しにくいって教えてもらって、身体をほぐす?柔らかくする?そんな訓練。」

「なるほどな。あんまり無理はするんじゃないぞ。」

「うん。気を付ける。ところでお腹空いたんだけど、ラミスの家の中を勝手に動き回るのもと思って・・」

「ん? そんなこと気にしてたのか。はははっ。確かにこの家は広いが、他に住んでるものはおらん。いや、あやつらは住んでいるのか・・・?」



最後は一人で何かをぶつぶつ言っていたが気にしないことにした。



「それで、なんか食べるものある? 無いなら家の周りとか散策したいけど。というよりここってどこ?」



俺は森の中で育ったため土地勘とかは当然皆無なのだが、、、



「ここはオロリュース大陸の外れに位置するところだな。」

「オロリュース大陸・・・?」

「そうか。ゆうはこの森で育ったから知らんのか。そういう儂も大陸の名前まではあんまり正確な記憶ではないがな。」

「なんだよそれ。」



どちらともなく顔を合わせて笑いがでる。俺は前世でも孤児院で育ったため家族の愛情を知らない。

だから、仲間と思える相手との時間は凄く大切で楽しかったと記憶している。そんな楽しい時間とあったばかりのラミスは同じような空気を感じるて思わず笑みがこぼれる。


「ゆうはそんな風に笑える子なんだな。もっと不愛想でかわいげがない子かと思っておった。」

「それ誉めてるの?」

「もちろんだ。」



またお互いに顔を見合わせて笑いあう。



「とりあえずお腹すいたよ。」

「おぉ、そうだったな。どれどれ。」



そう言って、持っていた袋の口を開いて中身を床にばら撒いた直後にしまったという顔をしてこっちを見た。

俺の目の前には袋から出てきた植物やキノコ、木の実等が散らばっている。

俺はちょっと困った顔をしつつラミスに話しかける。



「あー、せめて種類ごとにと思ったけど、その袋にまとめて入ってるんだから無理だよね。」


俺がそう言うと、


「そうだな、そうだな。」



とラミスが慌てたように返事を返す。まあラミスはがさつというか雑ということだけど、それを指摘されなかったことにほっとしたらしくお互いにまた笑い合う。

とにかく今この場は何を言っても楽しい空間だ。



「とりあえず、食べれそうなのは・・・」



俺はパルと毎日いろいろ採取したり、塀の中の畑で作物も育てたりしていることもあって色々教えてもらったりしていた。

さらに前世の記憶に加えて、なんとなく安全か安全じゃないかというのはしっかり見ると見分けが付くのだが、これは特殊スキルから派生するスキルによるものらしい。



「これとこれと、、、」

「あとこれとかもいけそう」


俺が選んだのはいわゆるシメジとエノキダケみたいなやつだ。それに落花生のような木の実。

植物は食べれなくもないだろうが薬に使う方が良いかなと感覚的にほいほいと選ぶ俺の姿を見ていたラミスが、



「どれが食べれるのかわかるのか?」

「うーん、キノコは食べたことあるから知ってたからかな。木の実はなんとなく? 植物は薬に使えそうだなって。」

「なるほど。」



それ以上は何も言わず、目を細めてこちらを見る。



「合ってる?」

「俺はあんまり食べ物のことはわからんが、大丈夫だろ。」



笑いながらそういうラミスはまた楽しそうで俺も安心する。



「ご飯作りたいんだけど、鍋とかあるの?」



なんとなく、ラミスは普段ここに住んでるわけではない気がして聞いてみると



「たぶん。」

「なにそれ。」



また笑う。そんな感じで朝ご飯の用意は進んでくことになった。

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