終わり・・・そして新たなるはじまり 2

「うーんっー」



 ボキボキっと骨が鳴る。



「うわー、痛いなぁ。そういえば昨日まだ安静にしとけって言ってたような?」



「おっ、目が覚めたか。」



 いつからいたんだろ?昨日もだったが全く気配を感じなかった。



「おはようございます。そしてごめんなさい、お水飲んじゃったから取りに行こうとしたけど身体が痛くて・・・。お水欲しいです。」


「ちょっと待っておれ。」



 そう言って部屋を出ていく後ろ姿はやっぱり人ではない?


「悪い感じは全くしないけど何なんだろう?とりあえず後で聞いてみよう。」


 そんなことを考えながら、朝日というにはちょっと遅い、時間で言うと朝9時頃だろうか?部屋に差し込む光がやけに眩しく感じられる。

 遠くから聞こえてくる鳥の鳴き声に耳を傾けながらまたうとうとしているとお水を持ってきてくれた。



「ほら。これだけあればしばらくは十分だろ。」


 そこには夏や試合のときに良くみかけた大きなキーパーサイズくらいの樽を2つ持ってきてくれた。

 なのに自分用にも大きな樽が2つ置かれている。


「え?」


「なんだ?」


「どうやって運んできたの?」


「細かいことは気にするな。」


「うーん。とりあえずありがとうございます。」


「なに、酒のついでだしどってことはない。」

「もう熱は完全に下がったみたいだな。身体は徐々に動かしていくしかないから無理はしないようにな。」

「ところで、今日は話しも出来るようになったみたいだし、お前さんのことを聞かせてくれ。」



 そう言っておもむろに手元の容器に樽からお酒を移し始めた。


「今日は朝から日課も全部済ませたしたっぷり時間があるわい。」

「そんなに警戒せんでもいいだろうよ。食ったりはせん。」



 どうやら俺は無意識に警戒心を剥き出しにしていたらしい。


「あ、、ごめんなさい。」

「さて、もう一度聞くが、お前さんのことを聞かせてくれ。」



「お前さんの名前は?」

「ゆう」

「ゆう? ふむ。どこかの貴族の子かと思ったが。」



 そう言ってちらりと俺を見る。



「ゆうはどこに住んでいる?」

「分からない。」

「分からないってどういうことだ?」

「本当に分からないです。森の中。塀の中には畑があって、家もあって、でもどこって言われてもわからない。そこで育ったし森から出たことがないから。」

「なるほど。」



 さっきは咄嗟のことで警戒してしまったが、助けてくれたこともあり感謝もしている。そんなわけで俺は目の前の相手をすでに信用していた。だから気が緩んだのか敬語も忘れていた。



「話し方からも儂のことを信用はしてくれているようだし、そのうえでその答えならそれは全てなんだろうな。」

「うん」




「年齢は?」

「5歳」

「ん?ほんとうか?」

「本当。この前5歳になったから祭壇に行きました。」

「ほぅ。まだ5歳だったか。その割には落ち着いておるというか、しっかりしとるというか。」

「でも人の5歳なんてこんなものなのかのぅ?」

「・・・・・」

「すまん、今のは独り言じゃ。でもそうなるとお前さんは、、、いや、今はまだ良いか。」

「儂はあんまりその儀式に詳しくないんだが、祭壇で何をするんだ?」

「祭司様と助手?の人とお話しをした。そしてスキル?とかが書いてある紙?を渡してくれた。」

「ほぅほぅ。その紙はどこにある?」

「紙は誰にも見せちゃダメって祭司様に言われたから、秘密の場所に隠したよ。」

「ゆうの場合は特にそれが良いだろう。儂にもわからんことばかりだしな。」



 そう言って言葉を濁されたがどこか楽しんでいるような感じがしたのとこの儀式のあとに俺は前世の記憶を断片的に思い出すこととなったのだが、それを突っ込まれても答えられないことが多いのでスルーすることにした。



「家族は?」

「いない。あ、でも、みんな家族なのかなぁ? んー違うのかなぁ。わかんない」

「みんなとは?」

「俺が暮らしてた場所は、みんな家族がいなかったと思う。だけど一緒に生活はしてたし家族?でもやっぱり違うかな?」

「うむ。血の繋がりがあってこその家族ではあるのかもしれんが、家族と思うなら家族なのかもしれんしな。」

「難しいね。」

「そうだな・・・」



 なんとなく重たくなりそうな空気の中



「なんであの日、夜に森の中にいた?」



 あの日とは俺にとって悪夢のようなことが起きた日のことだ。俺は思わず目を見開いた。



「わからない。」

「どういうことだ?」

「わからない。気が付いたら塀の外にいて逃げなきゃって、、、」



 なんであいつらが来たのかわからないし、どうやって塀の外に出たのかもわからない。恐らく俺を探している誰かがいるがそんなことは言えず、ただ、今俺は生きているということだけが全てだった。




「なんであいつと遭遇した?」

「あいつ?」

「魔獣とでも言っておくか。あいつは守り神みたいなものだ。」



 そうだったのか。だからあんな神秘的というか不思議な見たこともない姿だったのか。

 そういわれると妙に納得も出来る。



「神様なの?! でもなんで遭遇したかって言われてもわからない。」



 一生懸命あのときのことを思い出そうとしても、何故か記憶が曖昧な部分も多い。そんな中で覚えていることは、



「木の幹につまずいて動けなくなって倒れてたときに神様から寄ってきた。気配は全く感じなかったのに足音と殺気だけは凄かったし。」

「それで?」

「それからは、もうダメだと思ったけど、助けてくれたから今ここにいるんでしょう?」

「はっはっはっ、わかるようで全くわからんな。」



 最後は大声で笑いながらそう言うと、豪快に容器の中のお酒を飲みこんでいく。




「やっぱり成り行きだったんだろうな。」



 ぐぅ~~~~~~~



「おぉ。もうそんな時間か。朝から楽しい話しをつまみに酒を飲めて幸せな日だ。」


 もう太陽はてっぺんを超えているようだ。たいして会話もしてないような気がするが時間だけが過ぎている。



「何か食べ物はあったかのぅ。今朝もらったのは、、、」



 そう言って近くにあった袋をひっくり返すと、中からは見たこともない葉っぱやキノコ、木の実などが出てきた。

 その中に見たことのある葉っぱとキノコがある。おそらく薬を作るときに使っていたやつと同じだ。

 そんな俺の視線に気づいたのか、



「キノコでも焼くか。食えそうか?」

「うん。ありがとう。」

「ちょっと待っておれ。」



 そういうとふらふらとした足取りで大量のキノコを持って部屋からでていく。

 そうしてしばらく待っていると、足音が聞こえてきた。



「待たせたな。」



 そう言いながら俺と絶対に目を合わせようとしないので、キノコを見ると明らかに料理が苦手というか焼きすぎて焦げているものから明らかに生焼けのキノコ、お酒の匂いがするキノコ、、、etc



「はははっ。普段料理しないんでしょ?焼いてくれてありがとう。でも怪しいキノコも多いような気がするから食べられそうなのだけいただきます。」

「どうぞ。」



 もともと切れ長の凛々しい目をすっと細めてこっちを見る。



「おいしい」


 久しぶりに口にした食べ物ということもあってとても美味しく感じられる。



「おいしい」


 再度キノコを口にしてそう言うと、嬉しそうに



「そうだろそうだろ。」



 と一緒になってキノコを食べ始めた。



「もしかして食べるの待っててくれた?」

「いや、そんなことはないぞ」



 ちょっと恥ずかしそうに目を逸らしつつキノコを口に運ぶのを見てなんだか心があったかくなる。

 そして朝気になったことも聞けそうな気がして聞いてみることにした。



「名前教えて?」

「ん? 儂か? 儂はラミスだ。はて? まだ名乗ってなかったか。これはすまんかったな。許してくれ。」

「全然大丈夫。 ラミスはなんで人の姿をしているの?」



 ラミスが驚いたようにこちらを見つめる。



「ユウには儂がどう見えているのだ?」



 そう言ってにやっと笑ったラミスは楽しそうだ。



「なんというか、トナカイ?」

「トナカイ?」



 ラミスは怪訝な顔で問い返す。



「あー、前に教えてもらった獣の名前?」


 危ない。なんでトナカイなんて前世の記憶が出てきたんだろ?



「うむ。(トナカイなんて魔物は聞いたことがないが・・・)」



「それはどんな姿なんだ?」

「おっきい角に足が4本。だけど、トナカイと違うのは毛の色とあと口、、? だからよくわかんない。見たことないから名前がわかんない。」



 そう答えるとラミスはふぅーと大きなため息をつき、大声で笑い始めた。



「あーはっはっはっ。まさかユウには儂の姿が見えていたとはな。」

「昨日も今もだけど角が邪魔じゃないのかなってずっと思ってた。」

「そうだろそうだろ。邪魔なんだ。だからゆうの前では人の姿になっているだけだ。」

「とにかくこんな楽しい気持ちになったのはいつぶりじゃろう。」



 そう言うラミスはほんとに楽しそうだ。良かった。なんかわかんないけど楽しんでくれてるみたいで。

 その後はお腹いっぱいになったからかラミスは寝てしまい、俺もラミスが用意してくれていた薬を飲み、無造作に置かれたコップと皿をまとめておく。



「ごちそうさまでした。ラミスありがとう。これからもよろしくお願いします。」



 聞こえているのかいないのか、満足気な表情で眠るラミスを横に太陽はまだまだ高いが



「おやすみなさい」



 そう声をかけて俺も眠りについた。

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