第17話 襲われた煌女
屋敷に帰って来ると、妙に侍従が慌ただしくしていた。アデライアが我儘を言っている時とは雰囲気が違っている。いつも出迎えてくれるクロエもいない。
何かあったのだろうかとベルナルドと顔を見合わせた。すると青い顔をしたモニカが飛びついてきた。
「ルイシーナ様! アデライア様が!」
「アディがどうしたの?」
「お出かけの途中で馬車が襲われたそうです!」
「なんですって!?」
頭の先から血の気が引いた。足に力が入らなくなってカクンと折れてしまった。倒れ込む前にベルナルドが抱きかかえてくれる。
「アデライア様は無事なのか?」
「はい、何とかご無事でお戻りに。自室で休まれています」
ルイシーナは足に力を入れて、急いでアデライアの部屋に向かった。
アデライアは意識を失った状態でベッドに寝かされていた。頭を怪我しているらしく、包帯が巻かれている。いつもは傷一つない白くてきめの細かい手には無数の引っかき傷があった。
ルイシーナは真っ青な顔をして佇んでいたクロエと抱き合った。
医師は、大事に至る傷はなく、意識は襲われたショックで手放したのだろうと語った。しばらくすれば目が覚めると診断され、ルイシーナはクロエと共にアデライアが目を覚ますのを待つことにした。
椅子を二つ並べて、気を失っているアデライアを見つめる。ルイシーナはすすり泣くクロエの手を握り、身体を寄せてアデライアの回復を祈った。カルロスは帰ってきた時と食事の後、それから就寝の前にアデライアの様子を伺いに来たが、バレンティアとドロテオは来なかった。
月が傾いて夜が深まり、日付が変わる。
部屋が徐々に明るくなってきて、煌々としていた橙色の光がぼやけた頃に、ようやくアデライアは目を覚ました。
クロエはひとしきりアデライアの名前を呼んで抱きしめた。それから頭を愛おしそうに撫でて、医師を呼んでくると言って部屋を飛び出した。
やっぱりルイシーナは何と言えば良いのか分からなくて、目を潤ませながら、アデライアの手を握った。
冷たく乾いている。せめて温めてやろうと、両手でさすってやった。
「……さん……」
アデライアがか細い声で呟いた。
「何?」
耳を吐息がかかるところまで近付ける。
「……姉、さん。私……反逆者に……襲われた……。彼奴等は……危険、よ……」
アデライアの手に力が籠り、ルイシーナの手を握った。
どくん、と心臓が呻いた。
それからしばらくしてカルロスとクロエが医師と共に駆けつけ、ルイシーナはアデライアの手を離した。
部屋の外に視線を投げるとベルナルドと目が合った。ベルナルドは何処か申し訳なさそうな、それでいて怒りを覚えているような、複雑な表情をしていた。そうしてルイシーナが声をかける前に、何処かへ行ってしまったのだった。
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