第6話 二人の煌女
それぞれ人口の三割が持って生まれてくるという、【穢】と【光】。【穢】にしても【光】にしても、約三割というのは確率としてかなり高い数字と言えよう。
しかしこれだけ高い数字であるにも関わらず【光】が重宝され、ルイシーナとアデライアが殊更奇跡の煌女と呼ばれて敬われているのは何故なのか。
それは二人に起こった奇跡の所為である。
ルイシーナは【光】を持って生まれた【光の子】だった。両親はそれはそれは喜んだが、ルイシーナはたった三年で光らなくなってしまった。
ルイシーナが光らなくなった頃にアデライアが生まれた。アデライアはどちらも持たずに生まれたが、宝物のような子だった。器用で何でも卒なくこなし、おまけに見目も美しく、大胆不敵で口が上手い。誰が見てもアデライアは魅力的で、両親はアデライアを溺愛した。一方【光】のないルイシーナは劣った子だった。手先が不器用で応用力が無く、言われたことをこなすだけで精いっぱい。一通りできるようになるまでには、人一倍真面目に取り組まなければならなかった。
そんな、宝物のアデライアと出来損ないのルイシーナだった二人が変わったのは、ルイシーナが十二、アデライアが九つの時だった。
その日、【光】を失っていたルイシーナが光った。
唐突だった。食事をしようと祈りを捧げたら発光した。
そして不思議なことはもう一つ起こった。
ルイシーナの隣でアデライアも光ったのだ。どうやらアデライアは自ら発光するのではなく、発光するルイシーナが近くにいると共鳴して光るようだった。
何故ルイシーナが【光】を取り戻し、光の子ではなかったアデライアが【光】に共鳴して発光するのかなんて、両親にはどうでも良かった。
両親は二人に起こった奇跡を飛び上がって喜び、カルロスはすぐ教会へ赴いた。
カルロスが姉妹に起こった奇跡を大司教に説明すると、その月の満月が訪れる日に【光】を披露する集会を開くことになった。それが今でも月に一度必ず行われる光の大集会の始まりだった。
施しを始めて七年が経ち、ルイシーナは十九、アデライアは十六になったが、【光】は衰えを知らない。【光】は通常生まれた瞬間から失われていくため、教会で目にするのは十歳までの少年少女だ。成人を迎えても身体が発光する人間は類稀。それこそ奇跡の産物であり、故に二人は奇跡の煌女と呼ばれるようになった。
光を信仰するこの国にとって【光】は特別だった。悪しき魂を浄化し導くとされている【光】をいつまで経っても失わない二人はより神聖視され、崇められるようになったのである。
また、二人の煌女の活躍と共にトーレス家が裕福になっていったことも、人々の関心を集めた。
預かった布から衣服を作ったり、衣服の修復をしたりするしがない仕立て屋だったトーレス家は、ルイシーナとアデライアが奇跡の煌女と囃されるようになった時期に服飾品店を起ち上げた。トーレス服飾品店は世の中産層の衣類に向ける関心を的確にとらえ、市場規模を拡大。さらに奇跡の煌女の噂が王侯貴族まで届くようになると、中産層だけでなく王侯貴族から衣服を依頼されるようになった。その後宝石職人や金細工職人なども囲い込み、宝飾品店も経営。さらには持ちかけられて手を出した宝石鉱山の事業が大当たりして、莫大な金を動かすに至った。
莫大な金でカルロスは男爵位を買った。元来爵位は王族への貢献の見返りとして授与されるものであったが、この頃は金銭で買えるものだった。
爵位を賜るとカルロスはより忙しい日々を送るようになった。いつも昼前に出かけていき、月が出る頃に帰って来るのである。その間、家のことを掌握し、決定権を持っていたのは母のクロエ――ではなく、義母バレンティアでもなく、もちろんルイシーナでもなく。妹のアデライアだった。
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