第3話 光と穢 2

「きゃぁぁぁぁ!」


 声を取り戻したという女の子とその母親を労っていると、悲鳴が耳を劈いた。


 ルイシーナは急いで立ち上がって眼下を確認した。


 身廊の中心部で仮面を被った人々が輪になっていた。真ん中には麻の布を頭から被った人物が蹲っている。


「煌……女、様! 我々にも【光】を……!」


 蹲っていた人物が顔を上げた。


 痩せこけて骨と皮だけになった老爺だった。老爺は真っ赤に血走った眼でルイシーナを見上げていた。けれど段上にいるルイシーナからは麻布を被った人物が老爺であると分かっても、どんな顔をしているのかも、か細い声で何を言ったのかも分からなかった。


 ただ、老爺が何かを口から吐いたところは見えた。


「うわぁぁぁ! 【穢】だ! 穢れた人間がいる!」


「どうしてこんなところにいるの!?」


「近寄るな! 【穢】をうつされるぞ!」


 周りの人間が次々に叫んで老爺から飛び退った。何人かが慌てて集会堂から逃げていく。


 老爺は皆が退いたことで開いた身廊を、ゆっくり、ルイシーナ目指して歩いてきた。


 【光】には【穢】を直すという俗説がある。もしかしたら老爺はそれを信じてルイシーナの【光】を求めてやって来たのかもしれなかった。


 ルイシーナは思わずドレスをたくし上げて階段を降りて行こうとした。逃げるためではない。今にも倒れそうな老爺のところまで行って、【穢】を直すことはできなくとも他の人々と同じように労ってやれないかと思ったのだ。


 しかし。


「何をしているの!? 早くそいつを外へ出しなさい!」


 騒ぎを聞きつけてやってきたアデライアが中央部で叫んだ。


 たちまち警備の者が現れ、長い木の棒で老爺を突いて追い出した。「【塵捨て場】に捨てろ!」という声も聞こえて来た。


 【穢】を持った老爺が消えると拍手が起こった。アデライアは称賛を浴びながら優雅に一礼してみせた。


 これは、何なのだ。


 ルイシーナは気分が悪くなって倒れるように椅子に腰かけた。


 異様に見えた。弱った老爺を追い出した者が称賛される世の中が当たり前であって良いのだろうか。【穢】を持った人間を排除することが正しいのだろうか。これを享受する己は――【光】は善なのだろうか。


「きゃぁぁぁぁ!」


 声を取り戻したという女の子とその母親を労っていると、悲鳴が耳を劈いた。


 ルイシーナは急いで立ち上がって眼下を確認した。


 身廊の中心部で仮面を被った人々が輪になっていた。真ん中には麻の布を頭から被った人物が蹲っている。


「煌……女、様! 我々にも【光】を……!」


 蹲っていた人物が顔を上げた。


 痩せこけて骨と皮だけになった老爺だった。老爺は真っ赤に血走った眼でルイシーナを見上げていた。けれど段上にいるルイシーナからは麻布を被った人物が老爺であると分かっても、どんな顔をしているのかも、か細い声で何を言ったのかも分からなかった。


 ただ、老爺が何かを口から吐いたところは見えた。


「うわぁぁぁ! 【穢】だ! 穢れた人間がいる!」


「どうしてこんなところにいるの!?」


「近寄るな! 【穢】をうつされるぞ!」


 周りの人間が次々に叫んで老爺から飛び退った。何人かが慌てて集会堂から逃げていく。


 老爺は皆が退いたことで開いた身廊を、ゆっくり、ルイシーナ目指して歩いてきた。


 【光】には【穢】を直すという俗説がある。もしかしたら老爺はそれを信じてルイシーナの【光】を求めてやって来たのかもしれなかった。


 ルイシーナは思わずドレスをたくし上げて階段を降りて行こうとした。逃げるためではない。今にも倒れそうな老爺のところまで行って、【穢】を直すことはできなくとも他の人々と同じように労ってやれないかと思ったのだ。


 しかし。


「何をしているの!? 早くそいつを外へ出しなさい!」


 騒ぎを聞きつけてやってきたアデライアが中央部で叫んだ。


 たちまち警備の者が現れ、長い木の棒で老爺を突いて追い出した。「【塵捨て場】に捨てろ!」という声も聞こえて来た。


 【穢】を持った老爺が消えると拍手が起こった。アデライアは称賛を浴びながら優雅に一礼してみせた。


 これは、何なのだ。


 ルイシーナは気分が悪くなって倒れるように椅子に腰かけた。


 異様に見えた。弱った老爺を追い出した者が称賛される世の中が当たり前であって良いのだろうか。【穢】を持った人間を排除することが正しいのだろうか。これを享受する己は――【光】は善なのだろうか。

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