第3話 ハーブ占い(1)
おばさんはいい加減な人だ。言い換えれば自由な人だ。
何の職業かはわからないけれど、食べていけているしい。お母さんたちと生き方が全然違うから、見ているこっちは戸惑ってしまう。こんな大人ってありなの?という感じだ。
例えるならお母さんたちは動物園にいる折の中の動物で、おばさんは野良猫のようだ。私にはどちらがいいかなんてわからない。
でも私がなりたいのは……。
考えても考えても時間のある午前11時。
お風呂に入って朝ごはんを食べた後、食器を洗って洗濯を回した。
洗濯ものは昨日パフェを食べたベランダで干した。おばさんは基本洗濯物の干し方にこだわりがなかったから、二人で思い思いに干した。そしたらなんだかバラバラの干し方になった。おばさんは「いーのいーの」と笑って、そのまま階段を下りて行った。
そんな朝の時間を過ごした後、私はありあまった時間を何に使おうかとベランダで風を浴びながら、頭を悩ませた。
「なにしよう……」
勉強?いいけど、何から手を付けよう。
苦手な教科をするか、得意な教科をするか。
参考書の問題を解いたり、教科書を読んだり。
すごく身になると思うけど、なんだかやる気になれない。
まだ受験勉強には早いし、進学するかも決めてない。そもそもひとり親になったら進学先も狭まるだろうし……国公立にしろとか言われて……。
もやもやと考えて答えが出なかった。どの決断にも「うちの親なら何て言うだろう」という意見がちらつく。
でも今の両親に電話して聞くのは、どうなのか。離婚の話合いで忙しいだろうし、疲弊しているだろう。そんな時に「私、おばさんちで何したらいい?」と聞くのは間が抜けている気がする。
私は手すりを持って体全部をのけぞらせた。天を仰ぎ、青い空が大きく広がっているのを見つめた。
「暇だなぁ……」
こういう時こそおばさんに話したらいいのかな。
でもそれって子供っぽすぎない?
親がいないとそれすらも決めれないのかって思われない…?
考えたけど答えは出なかった。
やることなんて全然見当もつかないまま、私は一度おばさんのところに向かった。
階段を下りてリビングに行くと、おばさんはソファに座って本を読んでいた。私が近づくと顔を上げた。
「どしたの。辛気臭い」
おばさんは無表情のままぶっきらぼうに言い放った・
「いや、何してるのかなって」
「あぁー、仕事してるわけですが、なにか」
「あ、そう」
やっぱり仕事してるんだ、と私は少しほっとした。
職業不明だったから、もしかしたら無職かもとどこかで思っていた。
私はおばさんの隣にあるチェックのクッションをどかして座った。
「なになに、なんか悩みごと?」
おばさんは本に目線を戻してから声だけで私に問いかけた。
私はうーんと首をかしげる。
「今、何したらいいかわかんない、っていうか」
「まあここなんもなにからねー。カラオケとかコンビニとか」
「おばさんはいつも何してるの」
「そうだねえ」
そう言うとおばさんは顔を上げ、振り返った。その目線の先には窓で、窓の向こうには山があった。
「夏はハーブの世話かなぁ。秋の前には薪割りしてたりする。それをしなくていいなら読書と散歩。あの山とかさ」
「あの山?あれもおばさんのなの?」
「うんそう」
広いんだぁ、と私は窓の外の山を見て思った。私が歩くと迷いそう。
「香さんはなに?ひまなの?」
「うんまぁーそう」
「占いで決めたらいいんじゃない」
「え?」
私がおばさんの言葉を聞き返すと、おばさんは「いや占いだよ」と再度繰り返した。
「おばさん占いできるの?」
「まぁ。でもやんないよ」
「えーなにそれ」
なんだ。水晶とかで占うのを期待したのに、と口をとがらせる。
するとおばさんはこちらを向いて「あのねえ」と口を開いた。
「占いなんてきっかけなんだから、自分でやって自分で見極めたほうが納得いくでしょう。特に十代の多感な時期の決断を、こんなおばさんに担わせるんじゃありません」
「それはそうかもしれないけど……」
誰かに決めてもらいたい。朝からそんなことを考えていたのを見透かされているみたいだ。私がうつむくと、おばさんはふんっと鼻を鳴らした。
「庭から、ローズマリーとペパーミントと、オトギリソウとっておいで」
「え?わかんないんですけど」
「これだから町の子はぁ……」
おばさんは持っていた本をソファに置いて立ち上がった。
私はえ?え?と混乱していると、おばさんはリビングの外、二階の階段のほうを指さした。
「長ズボンと薄手の半そで着ておいで。庭に行くよ」
そう言っておばさんは部屋をすたすた出ていき、玄関のほうへと向かった。
私は何が始まったか全くわからないけれど、言われたように長袖と長ズボンを取りに二階へとは走っていった。
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あの夏、魔法の家で 山本いろは @Ayaka021600168
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